Ж-30 氷 刃 双 牙 ~Double Fang Shock~ ②
「誰かァーーーーーー!! いたら誰か加勢してぇーーーーーーー!!」
「仲間が死んじゃうニャアーーーーーーッッ!!
本当でヤバイんだニャアーーーーーーーッッ!!」
後方の三人は誰一人として逃げず、
二人は助勢を叫び、 一人は魔導の詠唱を始める。
「馬鹿野郎!! 助けなんかこねえ!!
竜属相手に挑み掛かるヤツなんか浅層にいるか!!」
「少々早いがここでお別れだッ!
結構楽しかったぜ! お前ら!!」
怯えてはいるが一向に逃げようとしない三人に業を煮やし、
二人は自分から死地へと駆け出す。
誰を警戒していたのか、 しかし猛然と突進してくる気迫に
翼 竜 属が初めてその零下の双眸で両者を眇める。
「方向が 『逆』 だ」
特殊な呼吸法に拠り小声でも鼓膜へ直接響くように呼び掛けた後、
私は枝の撓みも利用して生い茂る枝葉を突き抜け
一挙に樹上へと翔け昇がった。
「御免」
気流に翻る黒き外套。
既に刀身は背後にて体幹を絞りギリギリにまで振り被ってある、
異能、 “深草踏歩” の面目躍如、
初手にて最大の攻撃を完遂せしめる。
高度は翼竜の更に頭上を取っている、
その名が示す通り間近で肌が張り付くような凍気。
一刀両断にせねば低温が指にまで伝導するやもしれぬ。
完全に虚を衝いた攻撃だと想ったが、
流石は上位種、 其の生体反応、
全身を絡めた撃ち落としの斬刀は
直撃には至らずその表皮を削るだけに留まった。
其れにしてもまるで鉄のような手応えだ。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
GI、 GYYYYYYYYYYYYYYYYYYッッッッッッ!!!!!!』
再び鼓膜を劈くような叫声、 片眼を抉れたのは良いが
まさかその血まで低温を宿しているとは想わなんだ、
まるで元の世界の液体窒素だな。
一撃で仕留められなかったのは不覚、
獣は手負いの方が危険、 竜ならば尚の事であろう。
返り血を受けた装束と外套が凍り出す、
皮膚に直接浴びたら凍傷を蒙るやも知れぬな。
む――。
一撃必倒の技だった故に残心が追いつかぬ、
滞空状態での異能は修得していない故に
ただ落下に身を任せるのみ、
思考は出来るが躰が動かぬというのは存外
擬かしいモノだな。
被虐した者特有の奮迅なる一撃、
辛うじて剣の腹で受けるが其の凄まじい膂力に
弾き飛ばされる。
片眼で距離感が鈍っていたのがせめても救いか。
ズッッッッガアアアアアァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!!
数え切れないほど樹々の枝を圧し折って地面に着弾、
想定を優に超える衝撃だ、 防御してこの損傷とはな。
クレーターという程ではないが大地に陥没が生じる、
周囲の樹々にも亀裂が走った程だ。
『英霊』 の躰でなければどうなっていたか、
少なくともハーフ・エルフならば飛散している。




