Ж-30 氷 刃 双 牙 ~Double Fang Shock~
上空から強襲する異様な圧迫感。
周囲の気圧に変化が生じ鼓膜にも異変が伝わる。
即座に闘氣を集束させ私は遮断出来たが、
真下の彼等は如何様か?
かなり強大な魔氣、 否、 強大且つ巨大だ。
「ワ、 ワ、 ワ、 『翼 竜 属』 だニャア~~~~!!
こんな浅層に現れるなんて聞いてないニャア~!!」
半猫の少女が頭上を指差し毛並みを逆立たせる。
「クソッ! 星界の巡りで、「位相」 がズレたんだろうぜ!
“サジタリアス” や “カプリコーン” の魔物は入ってこねーと想ったが、
ハグレが紛れ込みやがったかッ!」
森の上空で威嚇するように翅翼を羽撃かせる度に
颶風と見紛う気流が樹々を傾ませる。
並の小動物なら吹き飛ばされそうな風圧だ。
此れを一つの生命が放っているとは、
驚愕というより驚嘆に近い感情が背筋を走る。
しかし、 位相?
≪畏れながら御屋形様。
『グレイシァー・ワイバーン』
亜竜とは雖も当座での威敵階層は 【険難】 となりまする!
どうぞ御転進の程を!≫
うむ、 君がそう言うなら交戦は避けよう。
暫し状況を確認した後でな。
≪御屋形様!?≫
言葉とは裏腹に魔道具より大剣を掴み出す。
進言に従い交戦はしない。 交戦はな。
≪おのれ、 あの痴れ者共! 勝てぬと解したなら早々に去れば良いものを!
そんな事すら出来ぬのか戯けが!
畏れ多くも御屋形様に “殿” をお任せする羽目に陥ろうとはッ!≫
気持ちはありがたいがそう責めてやるな。
突発の恐慌状態では巧く思考が働かぬ、
私もそうであったろう。
む――?
「逃げろ! おまえら!」
狼人族と呼ばれていた半獣の青年が槍を構えて叫ぶ。
その貌は血の気を失い手も足も瘧を発している、
総身を覆う獣毛も冷汗で濡れていた。
「ニャア~!! ガルフ!?」
「バカ言ってんじゃないわよ! アンタ一人で、 死ぬ気!?」
猫人の少女と人間の女性が怯えながらもそう叫ぶ。
「翼 竜 属に 『標的』 されてんだ!
オレらのチーム・ランクで逃げ切れるわけねーだろ!
誰かが抑えなきゃいけねーんだよ!
なんだか知らねーがまだ攻撃を仕掛けてこねぇ!
今がチャンスだ! 行けッ!」
頭上からの冷たい暴風が吹き荒れる中、
浅黒い人間の青年が柄の長い戦斧を握って隣へ並ぶ。
「おいッ!」
「一人で翼 竜 属を抑えきれるつもりか?
後ろから殺されるのはごめんだぜ」
「勝手にしやがれっ! 莫迦が!」
「どっちが」
「……すまぬな、 布都」
脳裏にではなく直接口に出す。
くく、 已んぬる哉、 と無念の言葉が絞り出される。




