Ж-29 英 霊 潜 行 ~Shadow Skill~ ②
≪御屋形様――。≫
失念。 ちと物思いに耽り過ぎたようだ。
私本来の目的、 今現在この森に入る者達の 「動向」 を知る、
その事に専心せねば。
あのような年端もいかぬ子供を 『隷属』 し 『蹂躙』 する等という
鬼畜にも劣る所業、 断じて見過ごす事など出来ぬ。
その場で音も無く跳躍し樹の梢に身を潜ませる。
我が異能 『武芸者』 由り出し “深草踏歩”
気配を遮断し足音も消して相手の背後すら取る事を可能とする
隠密系の異能。
過日、 私の不覚により友を危険に晒した事から、
真っ先にこの手の異能は精査すべきと判断した。
自分がその 『遣い手』 となれば、 その弱点も対処も浮き彫りとなる。
効果は在ったようだ、 今真下を武装した複数の者達が歩いているが
私に気づいた様子はない。
(髪が金色なのが気になるな――。
樹々に紛れていても違和感を与えるやもしれん。
いっそのこと剃るか……)
≪畏れながら御屋形様!
左様なお戯れ! 世の女性共が大挙して慟哭し咽び泣く事態に陥りまする!
矮小なる民草にもどうか御慈悲の程を!≫
む、 そうなのか?
私の容姿などどうでも良いと想うが。
だが布都の進言に間違いはない、 自重しよう。
脳裏で胸を撫で下ろす吐息を聞きつつも、
私は付かず離れず樹上を飛び移りながら彼等を追跡していく。
早朝より何度か同じ行動を続けているが
今のところ 「不発」 だ。
どの冒険者もギルドで受諾したクエストとやらの話題ばかりで
【魔皇】 や 『ハーフ・エルフ』 という単語は出てこない。
私が 『英霊』 として成長したからか聴覚は異様に研ぎ澄まされ、
聞き取れなくても唇の動きで会話を読む事が出来る。
此方が想ったほど情報は拡散していないのか?
“神託” の異能保持者が少ないからかもしれぬが。
願わくばこのまま鎮静してくれる事を祈らずにはいられない。
彼等には何の 『罪』 もないのだ。
ただ静かに暮らしたいだけなのだ。
今笑っている君達と同じ様に――。