第8話「戦慄のぶるー」
「オーーーーーーーークじゃねーかぁぁぁあああ!!」
『ぶるぉぉおおおおおおおおおおお!!』
やっとの思いで立ち上がる豚。
全身血だらけで立っているのもやっという有様だが───。
『ごるぁぁぁあああああ!! ぐぉぉおおおおおおおおおおお!!』
怒り心頭といった有様!
顔面から湯気を立ち昇らせ、ムキムキとした筋骨隆々の腕が、もうパンパンにはちきれそう!!
「ひぇぇぇえええ?! 怒っておられるぅぅう?!」
───オーク。
端的にいうと、豚人間だ。ライトノベルでおなじみの雑魚から中堅扱いの魔物。
時々人間の女を攫って犯す設定が多い───……って、そうじゃない!!
「ど、ど、ど、どーやって持ってきたのポンタぁ?! えぇっぇえ? サイズ可笑しくなーい?!」
なくなくなーい?!
ポンタの犬小屋は入口部、高さ45cm 幅35cm 奥行き不明───♪
って、
「オーーーーーーークのサイズ3m越えなんですけどぉぉおおお!!」
『ぶぉぉぉぉぉおおお!! ぐぉぉおおおおおおおお!!』
うぉおおおおわぁっぁああ! めっちゃお怒りやん?! めっちゃ怖いやん?! めっちゃヤバない?!
……つーーーーーか、どうやって持って帰ってきたのぉぉお?!
しかも、なにそのオーク?!
なんか、肌が青くない?! 顔色わるくなーい!?
『わふん♪』
「『わふん♪』じゃねーよ! 馬鹿ポンタぁ!」
……猫みたいに、獲物を自慢しに持って帰ってくるなよ!!
「元の場所に返してこいっつーの!! あーもう! どうす──────って、うぇぇえあ?」
『ごるるるるるッッ……!』
ズルリ……!
「こ、コイツ───動くぞ!!」
瀕死のオークが高橋を見下ろし一歩を踏み出す。
───ズシン……!
───ズシン……!
どうやら、散々痛めつけられはしたものの、まだまだ戦意は衰えていないらしい。
「すげぇ、エネルギーゲインが二倍いじょ……じゃない!! や、やばいやばいやばい! ど、どうしよ! どうすんのっ?!」
オークなんて、普通、冒険者がパーティを組んで戦うんじゃ?!
ただの無職のオッサンにどーしろってのよ!
高橋、絶体絶命───。
「あ、そうだ! 警察───いや、ニューナンブじゃ利かないか?! なら、89式の5.56ミリで自衛隊……、あー違う!! ここはやっぱり米軍のM60か?! ばいでん大統領か?! ああああああああ! そうじゃない! そも、繋がるわけないやん!! こういう時、どこに電話したらええねんやー?!」
『わふっ!!』ベシッ!!
『ごふんッ』
……あ、股間にポンタの一撃───……そして、オークの目が死んだ。
………………うん。
ありゃいてぇわ。
「───お~っふ……ポンタすげぇ」
思わず、股間を抑えつつ高橋もキューンとしちゃう。
つーか、オークさん。なんか、ポンタの一撃で戦意が消えたんですけどぉ。
ズズ~~~ン! って倒れたんですけどぉ。
『ごるるん……』
オークさん、めっちゃブルブル震えてるんですけどぉぉおお……!!
「ポ、ポンタ君??」
き、君ぃ、このオークを一体どれだけ痛めつけたの?
ぶるぶるぶる
がたがたがた
「…………へ。へへ、怯えてやがるぜ、コイツぁよぉー」
うわぉ……。怯えてるよ。
オークが怯えてるよー。
──ポ、ポンタどんだけぇー。
『わふ、わふ♪』
褒めて褒めてと尻尾をブンブン振るポンタ!
「お、おぉー、凄いぞポンタ! 強いぞ、ポンタ。………………ピンチになったのお前のせいだけどな」
イイコ、イイコ
「ポンタいいこー!」
『へっへっへっへ♪』
あぁド畜生! 可愛いなポンタ!!
尻尾も毛もふっさふさ。めっちゃモフモフ。そして、オークはブルブル……。
……って、そうじゃない!
東京郊外に、巨大豚……………………。
…………をーーーーーい?!
やばい、やばい!!
やばいよーーーーー!
あかんで、現実逃避してる場合じゃないでぇ!
こんな真昼間から、庭にオークが居たら目立つっつーの!!
東京の住宅街にオークが一体って、どんだけシュールやねん!!
あーもう!!
かくなる上は、
「……本日二度目」
ザ・隠ぺい!
「く───オークよ。わ、悪いけど、恨むなら日本の法律を恨んでくれッ!」
コ〇リで買って来たばかりの鍬を振り上げる高橋。
まさか、土に振り下ろす前に、オークに振り下ろすことになるとは……。
証拠──────隠滅の呼吸ッ!
南無三ッ!
ぐわぁぁぁああ……と、振り上げられる鍬を見て、いやいやをするオーク。
そして、ギラリと鍬の刃が太陽に反射……。
その瞬間、あのオークが命乞いをしているようにもみえ──────……
ぶ、ぶ、ぶ──……。
『───ぶきぃぃいいいいいいいいいいいい!!』
…………。
……。
ごりゅごりゅごりゅ──……
「イイ、ヒリョウニナレヨー」
ちゃっかり、肉と骨と内臓に分けて解体。
食用には向かない内臓などは大型モンスター解体用のコンポスターに入れる。
ゴブリンの残骸とミックスされて中々にイイ感じぃ! ふっふーーい♪
……じぇねーよ!!
「くっそー……やっちまった」
一回目は予期せぬ事態であったとしても、二回目はもう明らかに隠す気満々で処分しちゃったよ。
これは、やむを得ない事態……だけでは済まされない。
(さっさと通報しとけばよかったよ、とほほ……)
……ま、まぁ、あれだ。
不可抗力ってやつ。
「オーク……。オーク───」
目の前には、切り分けた大量の肉の塊……。
ふむ、オーク肉かぁ。
ダンジョンで採れたという、ごくごく少数が市場に出回るオーク肉は、最高級の国産黒豚を超える旨さだという噂だ……。
実際に、前の会社で時々端肉をもらって食ったけど、確かに旨いし?
まぁ……。
「か、家計の足しになると思えば───……いやいや、まてまて」
ザ・違法やん
「……うーむ。でも、まぁ。む、無断でってのがまずいんだよなー」
つーか、あれか?
もしかしてポンタのやつ、俺が「食べられる奴狩ってこい!」って言ったからか……?
いやいや、
「…………ま、まさかねー」
と、とりあえず、今日の分は不可抗力として……。
次はこうはいかない。
だけど、今日のこの様子だと、ポンタまた絶対狩ってくるよね?!
……多分、
絶対、
必ず───あの犬小屋からぁ!!
…………いやいや、あかんあかん!
「さ、さすがに3度目はまずいよな───。法律違反で、つ、つかまっちゃうよね? んー…………よし! いったんポンタは庭から隔離しよう」
ほんとは癖になるといけないから、家にはあまり上げないようにしているんだけど、今回ばかりはしょうがない。
イヤイヤするポンタを抱き上げ、玄関に段ボールの寝床を設えてやる。
「……いいかポンタ。俺がいいと言うまで庭に出入り禁止!」
『わ、わふ……?』
多少は意味が通じたのか、ポンタがシュ~ンと項垂れる。
つぶらな瞳で、きゅ~~~ん……
「う、ぐ……! そ、そんな目で見てもダメ!!」
少なくとも、月曜になって、あのダンジョン管理局が来るまでは出入り禁止にしないとな。
だから、あと二晩我慢してくれ、ポンタ──!
……代わりに骨々ガムをあげるから!
ぽーい!
『ワッフ♪ わふわふわふ!!』
へっへっへっへっへ……♪♪
──ちょろ~~~~い!
「……チョロいな君ぃ」
とりあえず、骨々ガムでご機嫌のポンタをなでなでしておいて───。
「んん??…………そういや、青い肌のオークなんていたっけ?」
※ポンタの戦果:なんかめっちゃ青いオーク※
《クラフト:オーク肥料(内臓のみ)
オーク肉50Kg》