第45話「ブラック企業の影」
「あっづ! あっづぅぅううううう!!」
「ひぇぇぇええ! うっそぉぉおおお!?」
煎れたてコーヒー背中にぶっかけられた悲鳴と、
新種のモンスターの登録に驚愕する声の二重奏だ!
「「ああああああああああああああああああああああああ!」」
「バッカ!! もう、アンタ馬ッ鹿、もーう!! アタシを殺す気ぃ?! 何が『うっそぉ!』よ、嘘じゃないわよ!! あっちぃぃい! 嘘でしょ?! アンタがウソよ! もう、ボケッ! 殺すわよ!」
「す、すごい! すごいわ!! ねぇちょっと、ジェシーどいて! メール見させて!」
キャスター付きの椅子ごとカラカラカラとキャロルを
「くぅぅ……このワーカホリックめぇ!」
急いで上着を脱ぎ、ギュリリと絞るとコーヒーがしたたり落ちる。
ぎゅー……バチャバチャ。
うん。この上着はもうダメだろう。
「す、すごい……これ───間違いなく新種のドラゴンよ!」
「ドラゴンなんだから新種に決まってるでしょ!……って、やっぱこれドラゴンよね?!」
服を絞っていたジェシーもようやく事の重大さに気付いたらしい。
軍ですら手を焼くドラゴン───……それを撃破し、あまつさえダンジョン外に運び出した猛者がいるという。
そんなの、一体何者だろう。
「決めたわジェシー」
「へ? 何を??…………あ、そのまえに服、弁償してよね!」
親しき中にも礼儀あり。
ぶっすーと顔を膨らませたジェシーが「お金ぇ」と手を差し出すと、何を思ったかキャロルはその手を握り返し。
「ありがと! ジェシー! 見送ってくれるのね?! わかった、今すぐ日本行きのチケットを取るわ───」
「って、あほぉッ! 一回落ち着けぇ!!」
ズビシとその頭にチョップを叩きこむと、冷静にさせる。
「いだぁ?!」
「『いだぁ』じゃないわよ! いきなり日本行くとかどうかしてるわよ───あと、『なんで殴るの?!』みたいな顔すな!! 殴るわ、ボケぇ」
「だ、だってぇ……」
ぶつぶつ───早く、このハンターさんと会いたんだもん……とかなんとかほざいているが、相手からすれば迷惑千万なのは目に見えている。
「その前にやることいっぱいあるでしょ!」
「やること……?」
あぁもう! なんでこの子はダンジョンのこと以外はポンコツなのよ!
「そんなの決まってるでしょ!!」
「…………あ、お土産!」
ガンッ!
「な・ん・で・そっ・ち・に・い・く・の・よ!」
あーもー!!
「まず常識から学んできなさいよッ! 第一どこの誰かもわからないってのに───ノーアポでいくつもり? そもそも渡航費なんて大層な予算はないわよ! ほかにも、大使館への連絡とかは? あと、一番最初にやるのは、まずはこのメールに返信して、連絡先を聞くとかしなさいよ!!」
そんなのは初歩中の初歩だ。
現地突撃の前にやるべき一番最初に言ってだろうが、もう!!
「そっか───メールかぁ」
「他にも、会社の代表番号とかあるでしょ? インターネットで検索してもいいし」
モンスターの分析ばかりで、肝心の会社についての情報収集を全くしていないのだ。
あり得ない話だ。
「……いいわ。その辺は私がするからキャロルは、メールを送って思いの丈を伝えておきなさいよ。あ、あと日本の会社なんだから、だれか知ってる日本人スタッフに頼むとか、翻訳ツールとか───」
「ん?」
ぽちー
メールの送信ボタンを押したまま振り返るキャロル。
すでにメール打ち終わるとかありえないんですけどぉ!!
そも、人の話を全く聞いていないし……。
「もう!!」
もぉぉう!!
知らない! とばかりに、メールを放置して、ジェシーは会社情報を入手しようとし始めるが、そこで手が止まる。
オオゾラ、OHZORA、おおぞら……と───。
「んん??」
カチャカチャと数回検索にかけただけだが、首をかしげざるを得ない。
「……へ、変ねぇ?」
「ん? 今日の髪型へんかな?」
ガンッ!
「か、髪型の話、このタイミングでするわけないでしょ!───そうじゃなくて、『大空カンパニー』が、なんでかヒットしないのよ」
「へ? 嘘でしょ?? 新種をバンバン狩ってる会社よ?! しかも、極めて短期間によ? そんなの大企業か何かに決まってるじゃん」
キャロルの言う通りだろう。
でなければ、討伐数がおかしい───……。
「で、でも───出ないわね? 何も検索されないわ。ためしに日本語翻訳ツールで変換してから調べたんだけど……」
「ど、どういうこと? あ、そういえば電話番号もあったわね───こっちを試しに」
え~っと、国際電話と───『030-
ぷっぷっぷ♪
「ちょ! アンタ、日本語喋れんの?! 絶対日本人よ、相手は───」
「だ~いじょうぶよ、ボディランゲージがあるじゃん、身振り手振りで人類皆兄弟!」
それは、
「電話でどーーーーーーーやって身振り手振りすんのよ───って、かけてるしー!」
プルル───ガチャ
「OH,HELLO! THIS───」
『オカケニナッタデンワバンゴウハゲンザイツカワレテオリマセン……』
「WHAT? HELLO?? HELLO??」
『オカケニナッタデンワバンゴウハゲンザイツカワレテオリマセン……』
機械音声??
え? ど、どゆこと……?
「ねぇ、ジェシー。アナタってば確か日本語片言くらいなら話せたわよね? こ、これって───」
スピーカーにしているためジェシーにも当然聞こえていたわけで……。
「い、今すぐ切ってキャロル。……それ、まずいことになりそうよ」
ガチャ。
「ちょ! 電話中!」
しかし、頓着せずにジェシーは受話器を落とす。
その顔は冗談を言っているような、それではない───。
「な、何すんのよ! いきなり切っちゃ───……ジェシー?」
「……ねぇ、キャロル。アンタ───今まで誰とやり取りしてたの? 本当にメール先にいるのって……ハンターなの?」
へ…………?
「さっきの電話───使われていないわ」
「………………ど、どういう……こと?」
ふー……。
一度息をついたジェシーは頭を抑えつつ、キャロルを見据えて言う。
「よく聞いて、キャロル。あのね……」
実に面倒なことになりそうだという雰囲気を携えて───。
「アナタが今まで新種のモンスターを登録してきた会社───大空カンパニーだけど、」
「だ、だけど───?」
ごくり……。
「今の電話で確信したわ───ネット、登記簿、すべてにそんな情報がないの」
「は???」
え??
「……つ、つまり───??」
「……オオゾラカンパニーなんて会社は───
存在しないってことよ」




