第40話「アメリカ震撼」
……な、なんだ、この生物は──────!
呆然と呟くケラーネ准将。
彼の目に……その目の前のモニターに、映し出されていた光景。
それは、ダンジョンを縦横無尽に駆けまわる小さな影と、ダンジョンを支配する巨大なモンスター……『竜王』の姿だった。
『ギェェェエエエンン!』
ゴゥ──────!
顎から放たれる高エネルギーの光線!
……ドォォォオン!!
そして、あちこちに空いた巨大なクレーターと、
そのエネルギーの間隙を補うように放たれるのは、強烈な爪と尾による斬撃だった!
ドン!!
ドカァァァアン!!
「…………な、なんと」
言葉を失うケラーネ准将。
竜王のド派手な数々の攻撃でダンジョンが切り裂かれていく様を目の当たりにしているのだ。
それは、まるで地獄のような光景……。
「こ、これが……。これが、竜王の戦い……?! しかし、ならば、あれは一体……」
その戦いを、監視している兵士も命がけだ。
それでも職業軍人の意地なのだろうか、決して現場を離れようとはしない。だが、そんな彼をもってしても、目で追いきれないのか、視線が何度も上下に振れる。
おかげで、カメラがブレまくり、画面酔いしそうなほどだ。
…………だが、映っている!
───ナニかが映っている!
数メートルの巨体を誇るドラゴン───『竜王』にまとわりつき、食らいつき、圧倒していくなにかが!!
「……これは、ロ、ロシアでも、中国でも───EUでもない。まさか……魔物同士の抗争、なの……か?!」
ダンジョンの魔物は互いに激しく争うことが確認されている。
あの環境の中でも生存競争が繰り広げられているのだ。主に捕食のため、あるいは縄張り争いのため。
この『竜王』もまた、捕食と縄張りを主張する深層最強の生物だった。
かつては、その巨体と深層への適応から、相当に巨大な魔石を保持していると想定し、アメリカは軍の最精鋭をもって撃破を試みたことがある。
……しかし、過去形でいうように、あくまで撃破を試みただけだ。
実際に戦闘になったあとでいえることは、……竜王の撃破など不可能ということが分かったに過ぎない。
いや、それどころか───。
竜王は、ありとあらゆる武器を弾き、または躱し、───時には激しく反撃。
交戦した部隊はほぼ全滅……しかし、それに留まらず撤退した部隊を執念深く追撃し、上層にまで追ってきたことがある。
そして、ダンジョンの出口付近まで部隊を追い詰め──────……一瞬ではあるが、ダンジョン外にまで追撃してきたことがあるのだ。
その時は、さすがにダンジョン外の環境を知らずに来たためか、慌ててダンジョンの中に戻っていったのだが……。
モンスターがダンジョン外に出ることが不可能ではないと知らしめる、世界初の事例となった。
いや、なってしまった……。
以来───……『竜王』に手出しすることは厳禁とされ、各国にもこの情報は裏で共有されることとなった。
……下手に手を出したが最後。
奴の恨みを買って、ダンジョン外に出られれば恐ろしい事態となる。
なにせ、あらゆる攻撃に対応して見せるモンスターだ。
……さすがに地上の米軍が総力をあげれば倒せると思うが、それまでに甚大な被害を及ぼすことが予想された。
ゆえに、『王』。孤高の竜族。
最強種、竜族の王として───『竜王』の二つ名を与えられることとなったのだ。
しかし、その竜王が……あの『竜王』が──────……圧倒されている?!
監視を続ける兵は、粘り強く存在を隠しながら撮影を続けている。驚嘆に値する精神力だ!
『アェェェエエエエエエエエン…………!』
そして、ついに
映像の中の『竜王』が断末魔の悲鳴を上げる。
そう。ついに……ついに、あの竜王が────『へっへっへっへ♪』……竜王が撃破されたのだ!!
…………。
……。
って、あれ?
今、なんか──────。
映ったような…………?
そ、その、なんていうか───。
「「い、犬??」」
そう。ダンジョン中に響く断末魔の悲鳴と、一瞬だけ兵士のカメラに視線を寄越した……ナニか。
え、ええ~っとー。
「い、今の、い、いいい、犬っぽかった?」
「犬……っぽいです、ね……」
顔を見合わせるケラーネとアンドリュー。
犬っぽいというか……。
人懐っこい「中型犬」が、隠れている兵士をみつけてカメラ目線。
『へっへっへっへ!』
つ、つぶらな瞳がじつにキュート!
……っていうか、どうみても───。
い、
「「───犬ぅぅぅぅうううううううううううううう?!」」
ケラーネとアンドリューの映像越しの絶叫を尻目に、
そのまま硬直する兵士の顔を一舐めして、尻尾を振りながら『竜王』の首あたりを咥えてズールズルと………………。
魔石があると思われる、頭部や重要器官の詰まった部位をいずこか持ち去っていってしまった。
……もちろん、記録映像なので、今さら叫んだところで首の行方は分からない。
「ちょ、」
わなわなと震えるケラーネ。
「ちょ??」
いぶかしむアンドリューが顔を覗き込むと、
「調査だぁぁぁあああああ!! 調査だ調査だ!! し、し、至急、『アレ』を調査しろ!! 些細な情報でもかまわん!! 徹底的に調査しろ!! そ、そうだ、深層にさらに部隊を送れ! 器材も総動員しろ! 予算は私がもぎ取ってくる!!」
「は、はいいいい!!」
ケラーネの剣幕に身を縮めるアンドリューであったが、まだ報告が終わったわけではない。
「そ、そそそそそ、そのぉぉ、室長、こちらもご覧ください!」
「なんだぁッ! まだあるのか──────ってこれは?!」
そう。
「ハッ! 竜王に取り付けておりました発信機の位置情報であります!」
『竜王』の首は行方知れずではあったが、
竜王には、あの『鬼神』の時と同様に発信機の信号が捉えられたのだ。
もちろん、ダンジョン用の発信機であるがために、機械故障も十分に考えられるのだが───…………発信機の信号途絶地点は、なんと──────。
またして……、
「に、日本……だとぉぉ?」
そう。またしても、日本で信号を確認したというのだった……。




