第31話「姪っ子と茶ぁ、しばく」
チュンチュン……♪
チュン──────。
み~ん、みんみんみんみんみ~~~~。
雀のチュンチュンに混じって、蝉の主張が激しい残暑の厳しい日本の一軒家。
「ふぃー……極楽じゃー」
ポンタ基金──もとい、学術協力金のおかげで、久しぶりに冷房を付けた高橋は、上機嫌で皿をつついていた。
──もぐもぐ
『続きまして、
ダンジョン関連株のお知らせです』
テレビの音を聞くともなしに聞きつつ、マイ手料理に舌鼓をうつ。
……もっしゃ、もっしゃ、もしゃ
「ん……。簡単に漬けただけなのに旨いなッ」
「うん、イケるイケる」
今日のメニューは、オーク肉ステーキと付け合わせの塩もみ大根───もといマンドラゴラサラダ。
箸休めに、塩こぶとごま油で合えた、マンドラゴラのマリネ。
うむ! ビタミンCの味がうまい!!
肉だけでは賄いきれなかった栄養が体に染みわたっていくようだ。
普通に買えば中古車が買えそうな値段のマンドラゴラを、豪快にざく切りして頬張っていく。
うまいッ!
これがまた、旨いッ!!
しかも、これで、なんと材料費───ゼロ円!
──ひゅ~、リーズナブルゥ。
「もぐもぐ」
「しゃりしゃり」
…………。
「…………………………で、なんでお前がいるんだよ?」
「……ん? おいしいよ、これ」
「お、そうか? よかった、よかった──……って、味を聞いてるんじゃねーよ!!」
頬っぺたをぷっくり膨らませながらオーク肉とサラダを頬張るセーラー服の女子高生───もとい、姪っ子の恵美。
「いやさ、YOUは何を普通に食ってんの?! 何をシレっと食っとんのかね?! だいたい、お前はこの前、めっちゃオーク肉持ってたやん!!」
「あれは売ったもん、結構な額でしたもん!」
パチンと手を叩いてご馳走様───……じゃない!!
「売ったもん───じゃねーよ! 人から貰ったもん売るなよ!!」
「貰ったんだから好きにしていいでしょー?!」
「いいわけあるか!!」
……出どころ聞かれたら怖いの!
(──っていう本音が言えないのがつらいッ!)
「いいじゃ~ん、いっぱいあるんだからケチケチしないでよ。可愛い姪っ子が遊びに来てるんだから、お肉の一枚や二枚」
「一枚二枚どころか、お前、五枚も食っとるからね! 俺だって一枚しか食ってないのに! っていうか、焼いたのも俺だし!…………あと、自分で可愛いとかいうな!」
──可愛いけどさぁ!
「えへへ」
「褒めてねぇ!」
ふー……!
ふー……!
あーもー! コイツ疲れるわー。
育ち盛りなのはわかるけど、食いすぎだし───……どこにその栄養いってんだよ。
ぽよん……。
「……………………見すぎ」
「うっせぇ!」
畜ッ生ぉ……、無駄にでっかくなりやがってぇ! 捥ぐぞ! 捥いで収穫すっぞ、ほんとにぃ!!
あーもー、栄養全集中ッてかぁぁあ!
くっそー、俺のも大きくなりそうだわぃ!
「え~っと、『11───」
「警察を呼ぶな!」
「えへへ」
「だから、褒めてねぇ!!」
ノーウェイトでコイツは、ほんとに……!
(くッそー……! ことあるごとに警察呼びやがって!)
3回目はさすがにアウトだぞ! アウトぉ!
「もー……叔父さん、うっさいよ? だいたい、警察呼ばれてもしょうがないんじゃない?」
「お、そうか?……って、なんでやねんッ! しょうがないことあるかぁ!……人を犯罪者みたいに───」
しかし、動じない姪っ子は、ジト目で高橋を見つつ、視線誘導するように、じー……と───。
その目が言っている「違うの?」と──。
ちゃうわ!!!
誰•が•犯•罪•者•かぁぁあ!!
無職だけど、犯罪者ではない!!っていうか、無職は、犯罪とちゃうでぇ!!!
しかし、恵美の見ているその視線の先は──。
おっふ
「…………んー。あれはなにかな、叔父さん? あの作業部屋の骨の山。あと、家がくっさい」
「殺人鬼みたいに言うなっつーーーーの!」
そう思うなら来るんじゃないよ?!
何が「朝ごはん無いから食べさせてー」……じゃ!!
無職の叔父の家にたかりに来るなよ!
「あと、家がくっさい!」
「二回、言うな!!」
「大事なことなので、二回いました。……っていうか、ほんと毎日、風呂入ってる?」
「入っとるわぁぁぁあああ!!」
無職だけど、風呂には入っとるわぁあ!!!
無職が風呂に入ってて、すみませんねぇぇ!!
あーーーもう!!
なんなん?!
コイツなんなん?!
「ほらほら、そんなプリプリしないでお茶でも煎れてよ」
「おう」
マンドラゴラの葉っぱから作った茶を恵美に注いでやる────────って、逆ぅぅぅうう!
「それ、逆ぅぅううう! 普通、怒ってる相手にお茶淹れない?!」
「ありがと」
「御礼を言えって言ってんじゃないっつーーーの! お茶淹れてる俺も俺だけどさー!」
もー……!
アカン、一回落ち着こう。テレビに集中集中……。




