第27話「獲物その5…………って、大根だとぉ?!」
庭に燦然と輝くポンタの「獲物」を見上げて高橋は嘆く。
嘆く──。
「あああああああああああああああ! そうだったぁっぁああ!! しまったぁぁぁあ! 昨日酔いつぶれてポンタを放したままだったぁぁ!」
……嘆く!!
そう。自分で決めたルールを自ら放棄していた高橋。
外出時と睡眠時は、ポンタから目が離せないので玄関に移動させる手はずだったはず……。
「な、な、な、なのにーーーーーーーー! 俺としたことがぁっぁあああああ!」
『へっへっへ♪』とか言いながら目をキラキラさせているポンタ。
そして、その足元にある白いナニか。
ナニかっていうか───なんやねんそれ!!
「何なん?! なんなん、その動く大根はぁぁぁああああ! っていうか、あー……そのキモい顔した大根人間はどこから攫ってきた───ポンタぁっぁああ!」
『わふんっ!』
わふん♪ じゃねーわ!
なんやねんそれ!!
ゴブリンでもオークでもオーガでもない!!
あえているなら、渋い顔した巨大大根じゃねーーーーか!
『コヒュー……コヒュー……』
───しかも、生きとるんかいぃ!! & めっちゃ虫の息やん!!
なんでポンタはわざわざ生殺しで連れてくるの?!
バカなの?! ネコなの?! ほんと、ネコかね君は───あ、犬だわ!!
「……ああもう!! また目力さんの電話ブッチしちまったじゃないかよ、思わずぅぅうう!」
畜生! つい反射的に……!!
これじゃ、二回とも塩対応どころか、いたずら電話並みの対応しちゃったよ!
いくら相手が公務員でも怒るよね? さすがに怒るよね?!
そしたら、またまた、めいっぱい警察とか自衛隊連れてきちゃったり──……。
「ああああああああ、謝らないと! 謝らないとぉぉぉおお!!」
やだやだやだ! 警察やだ! 自衛隊やだぁぁあ!!
プププ、プルルルルルル──────。
プルルルルルルル!!
「じーざす! 出てくれないよーーーー! って、なにぃぃぃいいい!!」
『ルロォォォオオオ…………』
だ、だ、だ、
「大根が立ち上がったぁぁぁああああああああああああ?!」
ガチャ
『もしもしぃ! なんなんですか、さっきからぁ! いい加減にしないと警察に言いま』
プツッ。ツーツーツー……。
突如立ち上がった大根に、再びワンギリ。
目力さんに応答する暇もなくワンギリ!!
だって、しょうがないじゃん!!
しょうがないじゃーーーーん!!
大根が!
『ロォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!』
渋い顔した大根がががががががががががががが─────────『わふっ♪』
べしぃ! と、ポンタの一撃。
まるで、『おら、挨拶せぃ』みたいな感じでかるーく前足でしばくけども、その一撃が致命的だったらしく、ようやく起き上がった動く大根が、中ほどからボキィ! と折れ曲がる。
その瞬間、渋い顔をしていた大根が、まるで劇画チックに表情を激変させると───。
『ヒャァァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
きーーーーーーーーーーーーーーーーーん…………。
一瞬にして、鼓膜が震えて周囲の音が聞こえなくなる。
それどころか、頭がぐら~りと……。
(あ、わかった……)
これ、あれだ。
大根じゃなくて──────……。
「……マ、マンドラゴラじゃねーーーーかぁっぁあああ」
おええええ……。びちゃびちゃ
地面から引き抜くと精神を狂わせる悲鳴を上げるという魔物植物。
至近距離で聞けば、命すら落とすこともあるというそれ──────。
今回は地面から引き抜いたわけじゃないけど、命を引っこ抜いたせいで断末魔の悲鳴を上げた的な───???
げふッ(吐血
「げ……ち、血吐いてる? おれ……??」
あかん、これ───……死ぬ?
死んじゃう……?
なんか、視界が明るくなってきて、川の向こうに誰かが───。
あぁ、
誰かが……呼んでいる、声。
……声、が───。
「高橋さーーーーーーーーーーーーーん!! 朝っぱらから奇声あげんじゃないわよ!! 通報するわよぉぉお!」
「あ、さーせん」
………………くそ、正気に戻っちまったぜ。




