第25話「未登録」
「…………は?」
え?
は?
「え、ええー??」
な、何今の───??
帰りの準備に、荷物をカバンに詰めていた手がはたと止まる。
(の、ノーマッチって─────────)
……。
…………。
ガタタッ!
「NO MACTH?!……………………うそ?! ほんとに新種なの?! うそっ?!」
帰り支度を放り出し、慌ててPCにとりつくキャロル。
椅子に座るのももどかしく、中腰の姿勢で画面に縋りつくようにして文字を負う。
そこに記載されたのはほぼ間違いなく新種を示す数値。
ゴッツイキーボードに辟易しながらも、参照画面をさらに追っていくも、機械の故障などはあり得ない数字が次々と。
そして、見れば見るほど、データに間違いはない。
つまりこれは───……。
ま、
「……間違いない。間違いないわよ!!」
これって、新種だわ!
新種なのよ、これ───。
う、嘘でしょ?!
「し、新種発見?! しかも、ゴブリンタイプの新種なんて、聞いたこともないわよ!!!」
上層に生息するゴブリンタイプは、中層や下層で見かけることは非常に稀だ。
小柄で膂力にかける彼らは中層以下のダンジョンでは常に捕食される側にいるからだと言われている。
しかし、そのゴブリンタイプの新種が発見されたということは、下層以下の領域にも適応したゴブリンがいるということ。
そう。
中層~上層の魔物を優に凌ぐゴブリンが……。
「す、凄いわ!! だ、大発見よ───! しかも、それを見つけて来たのが…………あれ??」
これって、民間企業…………よね??
「え、え~っと……なら、もしかして下層じゃないのかしら??」
興奮した面持ちでPCの前ウーロウロと歩き回るキャロル。
ぶつぶつ
ぶつぶつ
「……いえ、まって。そーよ。下層だと決めつけるのは早計ね──。もしかすると、新発見ダンジョンの固有種かも?───そうよ……。一体だけで下層のモンスターと決めつけるのは早計ね。……とはいえ、こう運よく新種の魔物が見つかるなんて──────」
軍ですら対応に苦慮しているモンスターを、民間ごときが──。
ポーン♪
「ッ!…………………ま、まさか───」
うそ、二体目───。
【NO MATCH】
ポーン♪
【NO MATCH】
「ッ!!」
じょ、冗談……でしょ?
だって…………し、新種が。
新種が──、
「さ、3体?! 新種がぁぁ?! 3体もぉ?!ど、どうなってるのよぉ……?! 連続で、さ、三体……も?」
そんなのありえる?!
やっぱり機械の故障??
(それとも……)
一体、何が起こっているのだろうか……???
こんなこと───ダンジョンを民間に開放して数年来で初めての事だ。
(本当に何が起こっているの……??)
偶然……?
いや、ありえない───。
軍が深層から持ち帰ったのならともかく、民間からの新種発見報告だ。
そんな確率、あるのだろうか?
「い、いいわ。それよりもまずこの新種について詳細を───」
俄然やる気を漲らせたキャロルのもとに、再びの……。
ポーン♪
【NO MATCH】
「ッッ?! ちょ?! よ、4体目も?! う、嘘でしょ〜?!……み、民間から鑑定に回された魔物全てが新種だなんて……」
それが、どれほどの確率なのだろうか……。
……ッッ!
「ま、まって! これって──────!!!」
キーボードをたたく手ももどかしく、データを照合していくキャロル。
……その目が大きく見開かれた。
(こ、これは……)
四体目の新種。
しかし、ただの新種ではない。
これは……上層ではめったに見かけないオーガタイプで───その最強種たる『刺青付き』のモンスター?!
……つまり、
「ま、間違いない……! これ、ユ、ユニークモンスターだわッ?!」
う、嘘でしょ……!
ユニークモンスターの新種登録なんて、そんなの前例がない。
しかも民間からの鑑定だなんて……。
「も、もしかして……これって───せ、世界初の討伐事例じゃない?!」
軍の特殊部隊を殲滅したユニークモンスターの新種登録。
それは、何者かが深層に到達し、あまつさえ深層の最強種を倒し……地上に持ち帰ったことを意味していた。
そんなことができる民間企業とは、いったい何者なのだろうか。
「どこ……どこなの!」
いったいどこの会社なのよ?!
「あ、そうだわ。……報酬を振り込まなきゃいけないんだから、送信者は簡単に特定できる!!」
カチャカチャ……!
ポーン♪
「あった……。振り込み先………………確認、」
日本
カチャカチャカチャ……。
メール本文をチェックする手ももどかしく、ありきたりな定例文を読んでいく。
使い古された文章に見るべきところは何もない。
あるとすればただ一点……。
見つけた。
隠す気も無いのか、堂々と会社名まで記載されているじゃないか。
ふふふ。
国連を舐めてもらっちゃ困るわよー。
「日本……東京の西、会社名は──────」
『オオゾラカンパニー』か…。
……ニヤリ。
キャロルは人知れず笑みを浮かべる。
こんな窓際部署に追いやられて、ダンジョン研究に一生携われないかと腐ってしまうところだった。
だが、来た。
───千載一遇のチャンスが来た。
ふふふふ。
……神よ、感謝します───。
国連にあって、金食い虫と蔑まれている部門において、
使いつぶされる未来しか見えなかった一人の研究者がうす暗い笑みを浮かべる。
ふふ、
「…………ダンジョンの謎を解き明かすのは私よ」
うふふ、
ふふふふふふ、
───うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!
何かとんでもないことが起ころうとしている前触れにキャロルは身震いすると同時に、研究者としての感情が疼き始めた……。
「あはははははははははははははははははははははははは!」




