第21話「新種登録」
「……イイヒリョウニナレヨー」
いつものように解体。
あまりにもデカいので、いくつかの部位に分ける。
ただ、骨だけは別だ。
なにせ、こいつが固い!!
さすがオーガとでもいうべきか、プレス機でも潰せないくらいに骨が頑丈だったので、やむを得ず骨と肉を専用の器材でバラバラにした。
……するとまぁ、血がこびり付いた骨の山。
なんというか、おかげさまで見る者が見たら、やっばい絵面だ……。
「うっわ……グッロー……」
せめて、肉だけはミンチにしてから徐々にコンポスターに投入───……したものの巨大生物いりで、あっというまに満杯になってしまった。
あ。
骨はね。とりあえずね。乾燥させるね。。匂うからね……。
(その後で焼いて粉砕でもするかー……)
やってることがメッチャ犯罪ちっく……。
「ってか、あーもう! このくそ暑い中、な~んでオーガを解体さにゃならんのよ!! ったく、ポンタの奴めぇ……! しばらく大人しいと思ったら、これだ……!」
オーク肉は有り余っているところにこれだ……。
それでもオークなら、食えもしないオーガよりは幾分マシだけど。
「……っと、これがそうか? 記録用機材を使うのなんて久しぶりだな」
CTスキャナっぽい解体機に備えつけられている端末を操作する。
キーボードつきのそれは会社の立ち上げ直後に、そこそこ活躍していたという記録用機材だ。
なぜこれを思い出したかというと───。
「───新種登録で金になるとはね……知らなかったぜ」
【新種登録】と学術研究協力金。
なんとかポンタが狩ってくるものを換金する手段はないものかと頭を悩ませていた時、ふと検索に引っかかったのがこれだ。
……ようするに、これ。
ダンジョン研究のために、新種を発見したハンターやサポーター、あるいは企業に報酬金をあげるという制度だ。
これがまた簡単で、専用の器材でデータを取って、研究機関にメールで送るだけ。
あとは、むこうが勝手にデータベースと照合してくれて、晴れて新種と認定されればあら不思議───国連のなんかすごいところからポン♪ と報奨金が振り込まれるってわけだ。
とはいえ……そう簡単に新種なんて見つかるはずもないと思うけど───万が一ということもある。
人類が上層~中層を攻略して以来、新種が発見されなくなって久しく、
元の会社でもこの器材はほとんど使われていなかった。
……しかし、なんたって犬小屋サイズのダンジョンだ。もしかすると既存のダンジョンとは違う生態かもしれない。
───と、いうわけで……。
物は試しと、記録した資料を送ってみることにしたわけだ。
件のオーガはもちろんのこと、記録忘れと思っていた赤ゴブリンと、オークの二体もしっかりと記録されていた。
なんと、前の会社に無理やり押し付けられたこれらの器材───……どうやら、ただのプレスマシンではなかったらしい。
くっ、侮れんな……『大空カンパニー』め。
「え~っと……どれどれ。──────んー、国連のダンジョン研究所のメールにして、資料を添付。…………それだけでいいのな?」
そうして、新種と認定されれば報酬金が送金されるらしい。
簡単だなー。
そのほかにも、命名権などもあるらしいが、別にそれはどうでもいいや。
研究機関に一任というチェックボックスに「レ点」を入れてっ、と……。
「ありゃ……?? 以前送ったメールの使いまわしで行こうと思ったけど、この文書……英語だからそもそも読めないな。……ま、しゃーねぇ、前の会社のやつのまま使えばいいかな───送金先もそのままでいいや。どうせ、会社が配ってた社員用の口座はまだ使えるんだし」
国連のダンジョン研究所に新種発見の報告は、器材からそのまま送ることができるらしい。
そういえば、会社に入社した直後は何度か操作した覚えがある。
さ~て……送信先履歴───っと、
「おー、あったあった! 古いけどまだメールは生きているな」
仕組みはよくわからないけど、
プレス機に、病院にあるCTスキャナみたいなやつの脇にパソコンがくっついているような構造──だと思ってもらえばいい。
そして、メールは器材からの直通になっており、ポチっと押すだけ。
前の会社が設定していたから詳しいことはわからないけど、
こんな機能がついているのも、親会社が送ってきた素材の中に万が一新種がいた場合に備えての機能だとか?
そんなわけで、滅多に使われた記憶はないけどね───。
……ちなみに文面は使いまわしだ。
だって英語なんてわかんないも~ん!
まぁ、会社ならよくあることだ。だいたいが「hello!」とか「hi!」から始まってる定型句だし間違いはないだろう。それに文面よりも資料が重要なわけで相手も真剣に読んでないっしょ。
ちなみに、送金される口座は、前の会社が社員にそれぞれ渡していたもので、給与の振り込みに使われていたものだ。
なんでも、送金代をケチるためだとか、……ほんっと、ケチでブラックな会社だったよなー。
……しかも、口座の氏名欄なんて、社員名じゃなくて、社員番号だぜ?
だれが、氏名:1209 さんだ! どこのだれかわからんわッ!
……とりあえず、送っておこう。小銭稼ぎになれば幸いというものだ。
ポチっとなー。
「うむ。しゅーりょー!……これで新種認定されれば、ボーナスがもらえるって寸法かー。ポンタには参ったが、これはこれでありだな」
そんなに簡単に新種が発見されるはずもないが、
機械的に、新種かどうかを判定して、ポチッと入金されるお手軽システムだ。
万が一にでも入金されれば儲けものと考えておこう。
しかもこれ───国連のダンジョン研究所は、完全に独立部門ゆえ、日本の司法が手を出せるところではない。
例え金が振り込まれたとしても、それはただの報酬金。つまり───合法。……じつに素晴らしい!
ひとつ懸念があるとすれば入手経路を調べられるかもしれないというところだが……その辺は、じつは心配していない。
なにせ、この報酬金自体が結構昔に制定されたもので、法整備前のカビの生えた制度なのだ。
それも、一昔前のダンジョン発見直後の慣習に則っているせいか、システムだけは当時のまま。ダンジョン乱立期当時は、新種だらけのため一件一件を精査している暇などなかった名残のそれなのだという。
まさに規則が時代に追い付いていない事例そのものだ。
……まぁ、お役所によくあることさ───。
おかげさまでチェックはくっそザルなのだとか。
ジキジキジキジキ……。
ハードディスクの唸り音とともに、膨大なデータが遥か地球の反対にある国連の研究所までデータを飛ばしていく。
読み込みが遅いPC画面を睨みながらふと思い出す。
「…………あ。そういや、これなんなんだろうな」
ポケットから取り出したのは、綺麗に洗ったあとの「石ころ」だ。
いや、石ころというにはあまりにも大きく、美しい色をしている。
そう。
これってば、オーガの首を切り落とした時に出て来たもの。
やたらとデカくて不思議な輝きをしている石だ。
「う~ん……」
……ま、まさか『魔石』だったりして───??




