第20話「その名は『鬼神』」
※ 同時刻 ※
アメリカ国防総省───ダンジョン攻略室にて……。
バタバタバタバタ!!
「室長!! 室長!!」
バッターーーーーーンン!!
中佐の階級章をつけた若い軍人が息を切らせて走りこんできた。
「……どうした、アンドリュー中佐。……せめてノックはしてほしかったんだがね」
准将の階級にいる初老の男性が眼鏡を拭きつつ、落ち着いて話した。
彼の胸に光る記念賞と勲章───そして、各種特殊徽章の数々から、現場たたき上げの優秀な軍人だとわかる。
「す、すみません! あ、あまりに急なことでして」
「物事は急に起こるものだよ───で、なにかな? 落ち着いて話したまえ」
「は、はい! 実は先ほど、深層等監視室のほうから報告があがりまして」
「ふむ───で?」
ゆったりとした動作で葉巻に火をつける准将。
およそ、動揺すること知らないといえる歴戦の軍人。
……禁煙なのは言うまい。
「───『鬼神』が倒されました」
「ほう、『鬼神』が──────……って、鬼神がぁぁぁああ?!!!」
バッターン!!
ゆったりと腰かけていた社長椅子ごとぶっ倒れ、灰皿を頭からかぶる准将。
取り落とした葉巻が制服に引火しかけている。
「あっち! あっちぃぃいいいいい!」
「お、おおおお、落ち着いてください!」
「おおおおおおおお、落ち着けるか! 落ち着ている場合か!」
さっきと言ってることが100%違うが、それはさておき。
「い、いいい、いったいどういうことだ?! どこが倒した?! 中国か? ロシアか?! ああああ、まさか───民間だとかいわんだろうな?」
「そ、それは不明ですが……その、深層を飛ばしているドローンがつけた発信機の信号が途絶えまして………………」
…………。
……。
「………………あ゛?!」
信号が途絶ぅ??
……。
…………。
「おいおい……そんなことで? ま、まさか、それだけのことを報告しただけかね? ビックリさせおって。そんなもん、ただの電池切れじゃぁないのか?」
やれやれと頭をふる准将。
しかし、
「あ、ありえませんよ!! すくなくとも、数年はもつリチウムですよ?」
「じゃあなんだ? 故障か! いや、そうに決まってる! 一体奴にわが軍の精鋭が何人───」
「いえ! それもあり得ません! 故障の可能性はほぼゼロです! なぜなら、最後に信号が確認されたのはその───……」
バサッ!
一枚の資料を叩きつける中佐。
その手がぶるぶる震えている。どうやら、よほどあり得ない事態なのだろう。
「……ダンジョン外─────日本なのです!」




