第18話「その名は『鬼神』」
『ごるるる……』
こひゅーこひゅーと、虫の息のオーガさん。
『へっへっへ♪』
一方、すっげードヤ顔のポンタさん。
…………うん。
にこッ
高橋ニッコリ、ポンタほっこり─────……すぅぅ、
「───『へっへっへ♪』じゃねぇからぁぁぁぁぁぁぁぁああ! 頼むから、今すぐ戻してこいッ! 今すぐー!! ナァウ!!」
『わふーん♪』
あーもう!!
わかってねぇしコイツぅ!
『わふ~ん♪』じゃねぇわ!!! あほたれ!!
「あーーーーーー!」
ど、どうしたらええねん!! こんなん解体するのだけでも大変だぞ?
しかも、まだ生きてるしぃぃい!!
……そのうえ、なんだこのオーガ?
肌が真っ黒で、妙な『刺青』がなくなくない? なくなく、なくなく、なくなーい??
えー……ダンジョン内って刺青とか流行ってんの?
最近のダンジョンのトレンドぉ?
「んん?……あれ?」
そーいや、ちょっと待てよ。
この特徴ってたしか───……ゴソゴソ。
どんなときでも、
スマホ、ポチー
「……………………あ、これだ。って、ええええっ?? こ、これって──────ユニークモンスターってやつじゃ??」
嘘か本当か、
某大型掲示板に乗っていた情報によると──。
『ようーつべー』に投稿されたオーガの正体について考察するというスレにて。
件の米軍特殊部隊と交戦したのは、通常のオーガとはまた別の種類らしく、通常のオーガを遥かに凌駕するスペックであったというのだ
それによると、
『色違いのモンスターは亜種と呼ばれるもので、一般的な種類よりも強力で……。
通称、レアモンスターと呼ばれる。特徴は、通常個体よりも、めっちゃ強い。
そして、凶暴。』
「え? そうなん…………??」
さらに───。
『そのなかでも、「刺青」入りのモンスターはユニークモンスターと呼ばれる個体で、
非常に稀に出現することのある、超々強力個体だ。』とあった。
え~っと……、
「い、刺青って………………」
……これ?
チラッとオーガを見ると、バッチリ刺青があるし──。
…………おっふ。マジかよ。
『──なかでも、軍隊と交戦経験のあるものは「ネームド」と、呼ばれており、
国連のダンジョン研究所からも民間企業は発見次第、逃走を推奨。
速やかに、お近くの軍隊の出動を要請することが求められている。』
へ、へー……。
ユニークモンスターですかー。
しかも、ネームド……………………。
……ハハっ!
「いやいや、ないない───」
二つ名って、アンタ。あるわけないやん……。
だって犬小屋だよ───以下略
『わふっ??』
「……食べねーよ!」
なんなのポンタ君?!
『わふッ?』じゃねーよ!
……え? オーガ食えってか?
人間にオーガ食えって??
「……食えるか馬鹿ッ!! 気持ち悪いわ!!………………つーか、くっさ!! うわ、このオーガくっさぁぁあ!!」
今さらながら強烈な体臭だ。
それによく見れば、な〜んか身体中に古傷はあるし、
……な〜〜んか、迷彩柄の服を繋ぎ合わせた腰蓑をつけとるし……。
「……ん?」
あれれ、あの血だらけの迷彩に「USA」って書いてない?
それに、トリコロールカラーのロシアっぽい国旗マークも見えるんだけどー……。
「って、においの元これかよ?! なんだよ、この『鉈』ぁぁ! く、腐った血がべっとりじゃねーーーか!」
くっせーーー!!
大量の血を吸ったと思しき、雑なつくりの鉈はまさに鉄板……! いや、鉄塊だった。
「うっわ……これ腐敗臭がすごい。ちょ、ちょぉ……勘弁してくれよ」
しかし、さすがにこれは通報したほうがいいか?
そういや、目力さんに週明けに電話しろっていわれてたな。
「うーむ……。瀕死だけど、このオーガを見ればさすがに危険性を知ってくれるかな? いくら犬小屋サイズとはいえ、中にこんなのがうろついてるダンジョンが庭にあるのはさすがに怖い……」
どうやってポンタがこれを持ってきたのは不明だが、
間違いなく、犬小屋ダンジョンから持ってきたものに違いない……。
だって、ここ以外にポンタがいけるダンジョンなんてないしね。
「え~っと、……履歴履歴」
あった、これだ。
(う、うわー……俺の履歴、この人しかねーわ)
……俺ってば、友達もいないのな、しくしく。
ぽちー
プップップップ───プルルル。
がちゃ、
『はい、ダンジョン管理局の目力です』
「あ! 目力さんですか!? 実はその───って、ちょぉぉぉおぉおおおおおおお!」
『がふっ、がふっ♪』
な、なにやってんの?!
「な、なななな、なーーーーーーーに食ってんのぉぉおお?!」
『わふん??』
ちょ~~~っと、目を離したすきに、瀕死のオーガに食らいつくポンタ!
やめて! もう、やめたげて!!
見てらんない!……オーガさんのHPは0よ!
……つーか、グロぉぉお!
めっちゃグロぉぉおおおおお!!
オーガぴくぴくしとるやん!!
「もういい、さっさと殺してあげてぇぇぇぇえええ!!」
『こ、殺す??───も、もしもし? もしもーし、高橋さーん??!!』
スマホがやかましいがそれどころじゃない!!
「ちょ、ポンタどけ!」
あかん。
……もう見てらんないッ!
『がるるるるる!』
「がるるじゃない! ほら、骨々ガムだぞー」
ぽいす
『わふん♪』
チョローーーーーーい!
相変わらずのちょろさ。さすがチョロインならぬ、チョロイヌ。
オーガの生肉より、骨々ガムの方がお好きらしい。
ポンタが、ガツガツとガムを噛んでいる隙に、先日オークを仕留めた鍬を振り上げ、オーガに振り下ろす!!
「南無三!! すまんな、せめて、苦しまずに逝け─────────って、固ーーーーーー!」
バキョンッ!! と、あの鍬がへし折れる。
「うぉわ! 刃が、刃がぁぁぁ!」
……な、なんちゅう硬い皮膚じゃ!
折れて跳ね上がった刃が、すぐそばに、バイーーーーーーンンン!! と、突き刺さり冷や汗を流すも、高橋は、苦しむオーガが見ていられずなんとか介錯してやることに。
とはいえ、得物が折れちゃ、どうにも……。
あ、そうだ。
「──こ、これだぁぁあ!」
……そこで目についたのが、オーガの持っていた巨大な鉈。
オーガサイズだが、人間でも持てないことはなさそうだ。
「うわっ……重ッ」
重いけどなんとか───。
見た目からして、明らかに人間の持つサイズではないが、
それでも、なんとか構えることはできた。
それに、サイズに比しては軽いといえば軽いのだろう。
人間が持つと、まるで『斬馬刀』のようにも見える、それを振り上げ─────。
許せオーガ……!
せめて───。
苦しまずに……。
「──せぇぇぃ!!」
逝けッ
『ごる──────』
鉈がぶつかる瞬間、一瞬、奴と目が合ってしまった。
歴戦と苦戦と交戦とを繰り返してきた
戦闘狂の最期───……。
見えるはずもないのに、
その一瞬で、奴の目に様々な戦いの軌跡が
映った気がした……。
『ゴルァッァアアアア……!』
ダンジョン奥地で竜と戦うオーガ
ダンジョンに侵入してきた人間と
激しく交戦するオーガ
それらの死体を積み上げ咆哮するオーガ
そして、
そして───。
……あり得ないほどの速度で飛び回り、
手下を次々に倒しながら突き進む
小さな獣の姿───『へっへっへ♪』
『ぐるぁっぁぁああああああああああああああああああああああ!!』
オーガは恐怖し、
生まれて初めて敗北し、
そこで──────捕らわれた。
犬によって……。
※ ポンタの戦果:
なんかキモい刺青入りの黒いオーガ ※




