第15話「犬のヒモ」
『この度は当社に応募くださり、ありがとうございます。厳正な選考の結果。貴殿の採用は難しいという結果に……』
『真に申し訳ありません。当社の応募規定により、本募集は締め切らせていただきます。時間の応募を心より……』
『───不採用───』
不採用
不採用
不採用
『───不採用ww───』
……ブチッ!
「だ・か・ら───『ww』じゃねぇぇぇえ、つーーーの!」
うがぁぁぁぁぁぁああああ!!
うがぁぁぁぁああああああ!!
「むがぁっぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!!」
合計100通ほどの不採用通知をビリッビリに破り捨てて部屋中にぶちまける高橋。
今日も今日とて不採用!
どうせ明日も不採用!!
みーーーーーーんな、ご一緒に不採用ぉ♪
あ、そ〜れそーれ♪♪──……って、歌ってる場合かぁぁあ!!
「ち、ちくしょー」
ど畜生ぉ!!
こ、これほどまでに再就職がきついとは……。
ガックシ──。
結局、恵美がやっているというサポーターの応募は一旦は見送っていた高橋。
それだけは最後の手段としつつ、
まずはもう一度別の企業にトライしたはいいものの……、結果は御覧の通りだ。
100戦100敗。
書類選考だけで落とされる始末だ。
「畜生!! 畜生ッ! 俺のなにがいけないんじゃぁっぁああ!」
漲る就労意欲!!
あふれるリビドー!
そして、迸る有能感ッ!!
「ここに、ええ人材おるっちゅうのに、もーーーーーーーーーーー!!」
ああもう! ド畜生!!
あとから、採用させてくださいって泣きついても知らねぇからな!
──それにしても……。
「ぐむむ……残高が──」
削れるだけ削ってきた生活費も限界だ。
そして、ついに恐れていた時が来た……。
「くそ……やっぱり振り込みがないか。失業保険が切れるとはこういうことなのね……」
再就職のリミットと考えていた半年が無為に過ぎていったようだ。
その後は、ガシガシと消えていく預貯金の額。
うっわー……はぇーな、おい。
「な、なんて恐ろしい国なんだ……!」
この国では、生きているだけで金がかかる!
所得税がないかわりに、住民税に国民保険。そして年金に消費税!!
光熱費にスマホ代だって滅茶苦茶高い……!
そのうえ、どれもこれも切り詰めるにしても限界がある……。
一番、切り詰めに切り詰めていた食費もさすがに限界。
毎日、特売のうどんとパンだけではそろそろ持たない。
「か、かくなる上はこれしかないか……」
いまだ冷蔵庫にぎっしりとあるオーク肉の山。
昨日今日で食べたのもせいぜい2Kg程度だ。さすがにオーク肉だけでは箸が進まなくなるので、全然量が減っていない──。
「むー。背に腹は代えられん。……しばらくはこれでしのぐとして、残りの肉はジャーキーにするか。あとは燻製とか塩漬けに」
幸いにも器材があるので、手間暇を惜しまなければそれらを作るのは難しくはない。
それに、最近は平和だ。
ポンタがオークを持ち帰ってから二、三日経つが、最近はポンタも大人しいもの。どうやら、ポンタも犬小屋で遊ぶのに飽きたのかもしれない。
……なんか、朝見ると顔中を血だらけにしていることがあるが、ポンタの血ではない様子。
あと、幸いにも庭にはモンスターを持ち帰った形跡はない。
うんっ、ポンタいいこ、いいこ。
───おかげで庭を本来の用途で使用できそうだ。
まずは、ありあまるオーク肉を燻製器にかけて、残りは吊り干し籠にいれて自家製ジャーキーにする。
若いころはアウトドアが趣味だったので、燻製器や干し籠だってあるのよ。
なにより──。
(……くくく、暇ならあるのだよ! 暇ならね!!)
なんたってニート。
「なんたって俺は無職だからなー!! はーっはっはっは」
…………。
……。
───うん、泣いていい?
ひとしきり独り言を言った後、意気揚々とオーク肉を加工しようと台所に向かう高橋であったが───。
『わんわんおッ!!』
ん??
ポンタ??
『わんわん! わんわんおッ!!』
げ。
まーた吠えてやがる。
『わんわん!! わんわんわぉぉおん!!』
あぁ、もう!
ポンた静かにしろ!
でないと、あのババァがまた───……。
がらっ!
「(高橋さーーーーーーーーーん! ポンちゃん吠えてるわよーーーーー!)」
ほらぁ!!
暇か、あのババァ!!
「(た・か・は・し・さーーーーーーーーーーん!!)」
『わぉぉぉおおん♪ わぉぉおん♪』
ポンタ喜ぶな、バカ!!
そのババアの声は、仲間の遠吠えじゃねぇ!!
「(ちょっと聞いてるのぉぉぉおおおおお! こら、高橋ぃぃいいい!!)」
「あーーもう!! はいはいはいはいはーーーーーーーい」
「(ハイは一回でいいわよーーーーー!!)」
うるせぇばーーーーーーーか!!
ババアうるせぇ!!
犬は吠えるもんなんだよ!!
「もうーーーーーーーー! ポンタ静かにぃぃいい──うぉぉおおおおおおおおおおおおおッッ?!?!?!」
な、なな、
ガラっと庭へ続く窓を開けて、
そのままズドーーーーーーーンと腰を抜かした高橋。
だ、だって
だってぇぇぇえええ!!
──な、なななななななな……。
「なんッッッじゃこりゃーーーーーーーーーーー!!」
『わふわふッ♪』
そう。
お庭にはなんとぉぉぉぉ…………!!!




