第14話「御役所仕事」
※ ダンジョン管理局 西東京支部 ※
「目力さ~ん! これぇ、報告早く出した方がいいんじゃないですか?」
「んーーー? あー…」
事務の女の子がブンブン振っているのは、先週確認された新ダンジョンについての報告書だ。
たしか先週だったかな?
……金曜ということもあり雑にまとめただけで、文書チェックを事務の子に丸投げしていたやつ───。
「むー……。いかんな。週末を挟むと、仕事のことはスッポーーーーーーン! と忘れてしまうな、歳かね?」
「知りませんよ。それより、誤字すごいですよ……なんですか? 犬小屋って」
ぶっすーと不機嫌な顔の事務の子。
どうやら、金曜の終業間際に渡した資料をその日のうちにまとめてくれたらしい。
「あー悪い悪い、今度お昼でも」
「いや、結構です」
ち……即答かよ。
あわよくばデートに誘おうとして失敗。
くさくさした気分で雑に書類を斜め読み。
「……ふん。なぁにが、新ダンジョンだよ。無職のおっさんが面倒な事しやがって……。ったくよー、犬小屋がダンジョン化したからどうだっつーの。───はい、これでいいよ。修正なし!……こんなん、パパッと上に決裁まわして、まわして」
いいからいいから、と。
たいしてチェックもせずに、まとめられた資料をそのまま稟議箱に入れて渡す。
「は、はぁ……? 『犬小屋ダンジョン』のままでいいんですかぁ?……しかも、重要度Fって、ほぼ放置案件じゃないですか」
「いーよいーよ。上の人間だってハンコ押すだけで中身なんか読んでないんだから。……だって、しょうがないだろ。こっちだって暇じゃない。だいたい、犬小屋サイズのダンジョンをどうやって調査するのよ」
そんなことより、『新宿ダンジョン』やら、『スカイツリー魔塔』の調査ほうにもっと職員を割いた方がいいに決まっている。
いい加減もっと内部調査を進めろという上からの圧力が凄いのだ。
「それは……知りませんけど、ほら───カメラとか、ドローンとか───」
はー……ったく、これだから若いのは……。
「あのなぁ? 壊れたら誰が回収するのよ? 犬小屋サイズだよ犬小屋。……器材壊れたら始末書ものだし、ましてや内部で紛失や回収不能なんてなってみろよ、責任問題だよ?……僕は嫌だね」
……実に。
実に日本のお役所らしいこと。
なにせ、日本のお役所は、とにかく金はあるのに、やたらと紛失にうるさい──。
一昔前は雑だったのが、市民の突き上げのせいでほんっっとうるさいのだ。
会計監査にオンブズマン制度
市議会に都議会、はては国会議員様のお出ましだ。
「……あー。そういえば、土曜に朝にあのダンジョンの敷地の人から電話来てたな」
「ほらぁ! やっぱり調査したほうがいいですって!」
───ち。
「いいって、いいって! 重要なことだったら土曜の当直──たしかシルバーさんがやってる窓口に連絡してるはずでしょ? 連絡あった?」
「な、ないみたいですけど……」
当直の記録をパラパラと確認する事務の子。
老人雇用の一環で、休日はシルバー人材センターからの派遣さんを配置しているのだ。……基本は電話番だ。
「だろ? 急ぎじゃないんだって───あの人無職だったし、暇だから電話してんだよ……きっとな。それになんかあったら今日あたり電話あるからさ。んじゃ、書類よろしくねー」
「あ、目力さ~ん──────もー」
仕事のふりをして、どうせタバコに行くのだろう。
そんな風に思われているのを知りながらソソクサと支部屋上の喫煙所に向かう目力であった。




