プロローグ「全部、社会が悪い」
久しぶりの新作投稿です。
よろしくお願いします！
おう、
ジーザス…………。
平屋の小さな会社の前で立ち尽くしているのは数名のサラリーマンたち。
その中の一人、高橋 要は、しがない３０越えのサラリーマンだ。
…………いや、サラリーマンだった人というべきか。
──と、いうのも、高橋を含め、彼等はいつのもように朝イチで出勤し、
いつものように、スーツから作業服に着替えて勤務に就こうとしたのだが、
これだ───。
「あ、あれ？ 入口が開かねーぞ？」
「なにやってんだよ？ もっと回せって！」
ガチャガチャ！ ガチャガチャ！ とノブを回す高橋を同僚が背後からせっつく。
「やってるよ！！」
しかし、開かないのだ……。
「……ッかしいな～、そも、なんか建物に電気きてなくね？」
「つーか……なんだこの張り紙───」
ざわざわ
ざわざわ
閉ざされた入口の前で立ち尽くす（元）会社員たち。
彼らの注目する先には、適当に蛍光ペンで雑に書きなぐった紙が一枚あった……。
『【業務連絡】大空カンパニー
……社員の皆さん。
長らく当社に貢献していただきありがとうございました。
当社はこれにて無期限に営業を終了します。
社員皆さまの今後の益々のご発展とご多幸を祈念し、
第二の人生を歩まれることを期待します───（ｗｗ）』
（元）代表取締役：善財より
しーーーーーーーーーーーん。
「「「……………………は？？」」」
な、なにこれ？
「ｗｗ」って、おま……───。
これ、おま……！
お前、これぇぇぇええええ？！
「よ、夜逃げしやがった……あの社長ッ」
ようやく察した高橋であったが、その瞬間空気が凍りつく。
まさに、「ピキッ！」という音が聞こえんばかりで……。
よ、夜逃げって、
え？
マジ？
刹那──全従業員、驚愕。
それもそのはず───……。
だって、
だって……。
だってぇぇぇええええ！！
「──あ、あ、あ、あの野郎！ 給料未払いの上。ぜ、ぜ、ぜ、全部放り投げて、トビやがったぁぁぁああああああ！！」
「「「……は、はぁぁぁあああ？？？！！！」」」
その瞬間、全てを察した中年ズ、元リーマン達は絶叫ッ……！
そして、
ブッチーーーーン！！
「「「ぶぶぶぶ、ぶっ殺してやるぁぁっぁああああああ！！」」」
──ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ！！！
普段、あれほど社内で足を引っ張りあい、互いに貶めあっていたクソ同僚たち全員の心と絶叫がシンクロし、社長への殺意へ塗りつぶされた瞬間だった。
しかし、その団結はもはや遅い。あまりにも遅い。
だって、怒りの矛先の社長はとっくに消えいているのだから──。
「「「ふ、ふ、ふっざけんじゃねーーーーーーーーーー！！」」」
それは奇しくも、ブラックな会社で初めて彼らの心が一つに重なった最初で最後のひと時だ。
……そう、皮肉にも会社がなくなったこの時が、唯一にして無二の瞬間──。
「「──────「ｗｗ」じゃねーーーーーーーーだろーーーがーーーーーー！！」」
うぎゃぁぁぁぁああああ！！
ぎゃあああああああああ！！
「あ、あああ、あの野郎。夜のうちに社内のもの全部売っ払ってやがる！！」
『社長』が書きなぐった汚い字を蹴破り、社内になだれ込んだ同僚たち。
そこでガランドウになった屋内をみて再び絶叫。
「クソっ！ これじゃ、給料未払いどころか、」
「退職一時金もねじゃねーーーーーかーーーーーーーー！！」
ＰＣ、コピー機、各種ハイテク器材をはじめ、
トイレットペーパーまでないと来てる……。
「あの野郎！！ 夜逃げ屋まで雇ってやがる！！」
「畜生、計画的犯行かよ！！」
おのれぇぇぇええええええええええ！！
しゃーーーーちょーーーーーーーーー！！！
その怨嗟の声響く中、にいやおうなく知らされる事実に愕然とする高橋。
（……マ、マジかよ）
社内に突入した同僚を尻目に、高橋も入口でガックリと膝をつく。
この不況の時代に３０代にして突如無職となることが決定……？？
し、しかも、今後一切の保証なしの夜逃げ倒産と来たものだ。
「マジかよー……！」
再びのマジかよ。
退職金？……あるわけねーよ。
一時金？……なにそれ？
今月の給料？……よ、よこせや！
「「「せめて今月分だけは……！ それはだけはせめてぇぇぇええ！」」」
───うぎゃああああああああああ！！
しかし、給料を振り込む責任者はいずこかへ。
彼らの声はどこに届くことはなかった。
「これからどーしろってんだおぉぉぉおおおおおおおお！！」
うぉぉぉぉおおおおん……！
大泣きする高橋。
「「「うわーん！ 泣くなよぉぉぉお！」」」
同調する同僚たち。
ある晴れた日の早朝に、いい年放いた大人たちの泣き叫ぶ声がしばらく響いていたとかなんとか……。
うわぁぁっぁぁん！
うわぁっぁああん！！
………………。
…………。
不況のさなか。
よくある光景──……。
高橋要、３０超え。本日無職になる──────。
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