第七話 競馬がしたいんじゃ!
時々、サラブレッドが羨ましくなる。競馬場で一番早くゴール板の前を駆け抜ける為に生まれてきたから、彼らは野生では生きていけない。彼らには明確な生まれた意味が存在するのだ。
俺はいつも迷ってきた。年中思春期の脳味噌は自分の存在意義や生まれた意味、生きる理由を求めて彷徨っている。俺がサラブレッドなら、そんな悩みもなかったかもしれない。
しかしそうだろうか。人間だって結局は動物だ。生まれた意味は繁殖だろう。それに人間としての正しい生き方とは、どう取り繕っても、いい学校に入って、いい会社に就職して、素敵な家族を作って、立派な子供たちを育て上げることだ。
俺はそれを拒み、否定しようと藻搔いている。もし俺がサラブレッドで、速く走れないなら廃用処分になるだけだ。そして俺は人間に生まれながら自分自身の手で自分を殺処分しようとしたのである。……
電車を乗り継いで最寄りの競馬場へ向かった。今日はよく晴れた天気で、ひねもす良馬場だろう。重馬場の方が荒れて予想が的中すれば配当が美味しい結果を得られるだろうが、俺には大穴を狙う度胸も、自分の回収率への自信もなかった。
初めて乗る電車の中で沙月は大人しくしていた。天井に貼ってある広告を見上げて暇そうにしていた。窓から外へ流れていく景色は太陽に照らされた草木が多く、時折広い畑で農作業をする老人の白い背中が光った。
駅について徒歩で競馬場へ向かった。競馬新聞を片手に持った薄汚れた帽子を被った中年の男も一緒に降りた。彼は沙月のことをチラチラ見ていた。やはり目立つ。俺は今度目深な帽子を沙月に買ってやろうと思った。しかし案外沙月は周囲の視線を気にしちゃいないかもしれない。
競馬場の入場口には紺色の制服を着用した強面の警備員が、むっつりと人々の群れを見ている。ゲートを通って俺と沙月は中へ入った。沙月が言った。「いい匂いがするのう?」
競馬場内には屋台も多く並んでいて、昼にはかなり繁盛する。競馬で勝てれば沙月に腹いっぱい食わせてやれるが、馬券を買う前に飯を買っても仕方ない。金を稼ぎに来たのだ。
沙月は自身の空腹を頻りに俺にアピールしてきた。
「わかったよ」俺は財布から二千円出した。「これで好きなもの食ってろ。俺は競馬で稼いでくるぜ」
逆に沙月に呆れられながら俺はパドックの方へ向かった。
今日は重賞もないから比較的空いていた。それでもパドックの最前列には高そうなカメラを構えた男や、スマホを持った女で賑わっていた。青空の下を馬が厩務員に手綱を牽かれて周回している。落ち着いている馬もいれば、気が散っている馬もいる。汗をかいている馬や、厩務員に頭を擦りつけている馬もいる。
競馬は公営賭博である。世の中には様々なギャンブルが存在するが、競馬ほど平等なギャンブルは少ない。俺はある程度調子のよさそうな馬を把握してから券売機へ向かった。
マークシートに書き込みながら、沙月はどうしたかなと思った。一人で自由にさせたのは危険だろうか。しかしあいつだって子供じゃなければ馬鹿でもないんだ。俺が保護者みたいにいつも面倒を見るなんてあいつにとっても迷惑だろう。
俺の財布には今三万円入っている。これを失えば俺の寿命は急速に縮む。本来なら競馬などに絶対に使ってはいけない金であるが、俺は覚悟を決めたのだ。というか、働かずして稼ぐにはこういう方法しかない。
取り敢えず、よさそうだと思った五頭の馬を組み合わせた馬連ボックスを買った。一組500円である。まずは小手調べだ。
この世界は波で出来ているのだ。光も音も物質も。運だってそうだ。なんにでも調子がある。流れさえ掴めれば、勝てる。
俺は馬券を握りしめて観覧席へ向かった。
澄み渡る青空が気持ちよかった。俺の買ったレースはダートだった。スタンドにはそれなりに客が入っていた。ファンファーレが鳴って各馬がゲートに入っていく。前触れもなしにゲートが開き、馬が一斉にスタートを切る。騎手と馬が一体となってそれぞれの戦略を押し通そうとする。砂が濛々と舞い上がって、その中を馬の一団が走り抜けていく。栗毛や葦毛や鹿毛の馬が四コーナーへ差し掛かった。
12頭立てのレースだった。俺が買った馬の何頭かは手応えがよく、先頭を狙っている。五月の空気に砂塵が舞い上がり、ダートを日差しが照らす中、1番の馬が一着で入線した。二着には10番。俺は馬券を見た。当たっている。オッズを調べると19倍だった。9500円の払い戻しである。4500円増えた。俺は天才かもしれない。
気分よく俺は沙月のもとへ戻った。彼女はたこ焼きを食べながらターフビジョンを見ていた。俺が話しかけると一つ食べるか? と爪楊枝を渡してきた。俺は受け取って一個口に放った。火傷するかと思った。鰹節が喉に張り付いて俺は咳をした。
「おい見ろ。勝ったぞ。4500円勝ったんだ」
「そりゃ上出来じゃな」沙月は俺の渡した馬券を見て言った。「こんなに簡単に金が増えるのに、それほど混雑していないんじゃな」
「当たりゃ天国、外れりゃ地獄よ」俺は爪楊枝で口の中を掃除しながら言った。「俺は運がよかったんだ。外れてたら5000円失ってたんだぜ」
俺は次のレースの馬券を買う為に再び沙月と別れて券売機へ向かった。
馬券を買う前にネットの予想を見てみた。参考になるものがあるかと思ったが、みんな別々の予想をしていて参考にならない。それぞれに根拠があって、みんな自分の予想が正しいと信じているのだ。しかし世界は無慈悲だから十五分後には彼らの内の大勢が間抜けになってしまうのだ。スマホから顔を上げて、馬券を買う為に自動発売機の前に向かった。
「お兄さん、次のレースの予想買わない?」
自動発売機が並ぶ投票券発売所の隣には怪しげな出店があって、そこに退屈そうにしている一人の男が俺に声をかけた。男はニット帽を被っていて、その下に覗く眼光は鋭い。看板には『公認競馬予想士』と書かれている。男は俺に言った。「予想一回100円からね。次のレースまであと十分。ちょいと聞いてかないかい? どうだい?」
俺は聞くことにした。一回の予想は100円で安い。彼の予想が当たるなら次も買えばいいし、外れたら二度と来なければいいのだ。男の後ろには宣伝文句の、『前年度回収率100%超え』と貼られている。しかし今の俺には回収率ではなく的中率の方が魅力的なのであまり響かなかった。
ニット帽の男は赤い印がマークしてある馬柱を俺に見せて、そこに書かれた内容を一つ一つ解説した。血統のことから、騎手のことまで。
この騎手は少し前までは調子がよかったが落馬事故に遭ってからは厳しい成績だ。この馬の血統は、父親がアメリカから輸入された名馬だけど、日本での成績は芳しくない。こっちの馬は、父親が凱旋門賞馬で、1200mの成績がいい。
俺は予想屋の助言通りに馬券を買うことにした。3連単二頭軸ながしで、3000円分買った。慣れない買い方でマークシートに手間取ったが、自動発売機から吐き出された馬券を手に、スタンドへ向かうのだった。
通路を歩きながら俺は最後に競馬場に来たのはいつだったか記憶を辿った。あれはたしか、随分前の阪神大賞典の時だったか。空は曇ってて、隣には幼馴染がいて、人ごみの中で俺と一緒にそのレースを見てた。完全に付き合わせた形だったが、そのレースは二人で応援した馬が衝撃的な勝ち方をして、彼女も楽しんでいた記憶がある。あれはまだ俺たちが小学生の頃だっただろうか……。
通路を抜けると視界が晴れて、馬場を入場する馬たちの姿が見えた。俺は観客席の前を歩いて開けた場所を探した。そうしたら奥の方でわかりやすい目立つ髪色の小柄な少女が何かを食べながら馬を眺めているのを発見した。
俺は焼きそばを食べている沙月を呼んで、一緒に柵に凭れてレースを見守ることにした。実況の声が競馬場に木霊してレースが始まり、おっさんたちがスタンドから大声で色々な事を叫ぶ。沙月は走る馬を見て俺に言った。「馬は鞭うたれて大変じゃのう。それに色んな雑言も飛んでおる。人間はやはり悪じゃないかのう?」
レースは荒れた。俺の買った馬券は一つも当たらなかった。ただの紙くずを俺は3000円で買ったことになる。それに100円払ってニット帽の男と会話もした。意味のない会話である。まあ彼が悪いわけでも馬が悪いわけでも騎手が悪いわけでもないのだ。俺は項垂れて零した。「うまくいかないな……」
ターフビジョンに映し出された払戻を見ると、人気薄が来たレースなのに、三連単も三連複もオッズが思ったより高くない。遠くの方で若い男二人組の内、短髪の男が「八百長やってんじゃねえのか!」と喚いて、友達と笑い合っていた。
「妾も馬券を買ってみたいのじゃ」焼きそばを食べ終わった沙月が言った。
「お前はまだ買えないよ。見た目が未成年じゃないか。成人してる証拠がないと警備員か係員にとめられるよ」
「じゃあ妾がいいと思った馬をお主が買えばいいじゃろう」
「馬の良し悪しがわかるのか? 今日初めてサラブレッドを見たばっかりだろう」
「いいんじゃ、いいんじゃ」沙月は鷹揚に頷いて、歩き出した。「取り敢えずパドックに行くのじゃ」
細い柵の向こうで馬が嘶いた。鼻を震わせる馬を厩務員が宥めている。
俺と沙月は並んで柵の手前に立って、パドックを周る馬を見ていた。見上げれば青空に綿あめみたいな雲が浮かんでいる。誰かが綿あめを千切って息を吹きかけ空へ解き放ったのだ。きっとそいつの手はべたべただろう。
「お主そんなに3000円を失ったことがショックだったのか?」
放心状態の俺に対して沙月は引き気味に聞いた。俺は首を振った。「別にそうじゃないけどさ。なんかこんなことをしていても、なにも始まらないよなって思ったんだ」
「現実的な思考じゃな」沙月はパドックの周りに集まった男たちを眺めた後、首を揺らしながらパカパカ歩く、鹿毛の馬の方を見て言った。「競馬で生計を立てるのは難しそうなのじゃ。普通に働いた方がよさそうじゃぞ」
「うん。だから、ここで馬券を買って一喜一憂してるのはただの現実逃避って感じがするんだよ。特に俺の場合はな。……周り見てみろ。俺たち以外に若い人は全然いないんだ。いても、俺みたいに使ってはいけないような金に手を出して競馬やってる人はいない」遠くで若いカップルが馬を見ながら談笑している。デートで来ているのだろう。「俺は競馬場でちょくちょく見かける汚れた格好の、スタンドで罵声をあげてるような爺さんなんかを内心では見下しているようなところがあったが、思えば俺は彼らよりも悲惨で愚かな人生を送っているんだ。……」
「それに気づけただけでも収穫じゃろう」
沙月はそう言ってすたすたパドックの外周を弧を描くように歩いて行った。彼女の去っていく背中を見送ってから、俺は予想に集中することにした。最後の馬券ぐらい当てたいもんだ。
数分後、俺が手元のマークシートをちまちま塗り潰していると、沙月がぬるりと傍に戻ってきて、飄然と言った。
「2と6と7の調子がよさそうじゃぞ」
「マジかよ。全然人気してないぞ。7なんて最低人気じゃないか。大丈夫なのか? なんか確証はあるのか?」
「そんなものはない。お主は何か阿呆みたいな希望を妾に見出しているみたいじゃが、妾は別に天才馬券師でもなんでもないのじゃ。取り敢えず好みで馬を選んだだけじゃ」
「そうかい。まあいいさ。なんでも経験だよな」
俺はもう一枚マークシートを用意して、彼女の言った馬の3連単ボックスを購入した。購入する金額は悩んだが、どうせ最後だからと各組1000円にした。自動発売機が呻り、俺の紙幣が馬券へと変わる。それを財布に仕舞って、俺たちはレース場へ向かった。
太陽は天頂からかなり傾き、スタンドの影の角度や位置が、初めに来た時から変わっている。俺たちは日陰に入って、先ほど自動販売機で買った飲み物を飲んでいた。
「これからどうすりゃいいんだ」俺は椅子に座って嘆いた。「金がない。職もない。それなのに、お前みたいな変梃子な宇宙人を抱え込んじまった。なあ、俺がどうしようもなくなった時、お前はちゃんと行く場所を決めておけよ」
「行く場所なんてないのじゃ」沙月はコーラをゴクゴク飲んでから言った。「だからお主は妾を捨てちゃ駄目じゃよ。……それにお主は死なんよ。妾が守るからじゃ」
沙月は決め顔でそう言って口元から小さくげっぷを漏らした。俺はうへえと顔を歪めて、財布から馬券を取り出した。生きるのは楽じゃない。みんなそれぞれに大変な苦労を重ねて生きているのだ。俺の同年代は今この時間も大学で勉強したり友達と人生を謳歌したり、汗水垂らして働いていたりするのだ。
母さん、俺は今家の最寄りの競馬場で宇宙人の少女と一緒に競馬を見ています。空は晴れていて一番近くの観客席には酒を飲んでるおっさんが競馬新聞を睨んでいます。
ファンファーレが競馬場に響く。俄かにスタンドが活気づく。スピーカーからからはアナウンサーの滑らかな喋りが聞こえる。ターフビジョンにはゲートに馬が収まっていくのが映っている。太陽が一瞬雲の中へ消えて、大地は微かに薄暗くなった。馬が全馬ゲートに収まって、合図の後、ガコンと一斉にゲートが開き、勢いよく馬が飛び出した。
騎手の手綱が激しく揺れて、位置取り争いが行われる。先頭に立った。鹿毛の馬は白色のメンコをつけている。その後ろに長い列が形成され、大きな砂煙が馬の脚力の凄まじさを物語っている。
太陽が雲間から顔を出し、光の海が大地に降り注ぐ。ダートコースが黄金に輝きだし、観客たちはスタンドから怒鳴るような声援を上げる。沙月は俺の横でコーラを飲みながらターフビジョンを見つめている。俺は腕を組んで、なんとなく、あの夜死なずに生きててよかったなと思った。
第四コーナーに差し掛かって、俺は自分の買った馬券が外れるだろうと確信した。軸にした馬は馬群の後方で必死に走ってはいるが、厳しそうだった。少しだけ落胆している俺の視界に映るターフビジョンで、大外から物凄い脚で先頭を目指す馬がいた。ゼッケンには2と書かれている。
そうして先頭で粘っている馬はまさかの7番である。俺は口の中に溜まった唾液を嚥下して、ちらりと手元の馬券を見た。6番はどこだ?……
直線は混戦になった。一番人気だった5番の馬が内ラチを通って伸びてきた。俺は目を見開いて結果を見守った。観客は馬がゴール板の前を通過して決まった結果にどよめいていた。俺は沙月に聞いた。「どうしてなんだ? なんでわかったんだ?」
「別にこんなに完璧に嵌るとは思ってなかったんじゃが……」照れ臭そうに沙月は空になったペットボトルを掌で叩きながら答えた。「パドックで馬に調子を尋ねたら、あの三頭が一番よさそうじゃったからのう」
「調子を尋ねた?」俺は彼女の手からペットボトルを受け取って立ち上がった。
「そうじゃ」沙月も立ち上がり彼女は首元のチョーカーを触った。「これを使えば大抵の動物とは意思疎通できるのじゃ。パーペキじゃないけれどのう」
俺は自販機横の青い蓋に罅の入ったゴミ箱に飲み終わった空のペットボトルを捨てて、混雑している自動発売機を遠巻きに眺めた。男たちが機械の列に並びながら手に持った自分の馬券を見つめている。
椅子に座って俺は馬券を見た。的中したのは、7↑2↑6の3連単である。俺は屋内に設置されたモニターに表示されている払い戻し額を見た。3連単は7498倍だった。つまり100円が約75万円になるわけだ。俺は1000円分買っていたから、約750万円の配当がもらえる。税金で半分ぐらい持っていかれても、300万円は残る。贅沢しなきゃ一年は安泰だ。
人混みが減って、俺は自動発売機に的中投票券を入れたが紙幣は出てこなかった。返却口から投票券が戻ってきて、ディスプレイには、払い戻し金額を超えたので受付へ向かえと指示が出ていた。俺は受付窓口に向かい、制服を着た無表情な女に投票券を渡し、番号札を持って暫く近くで待ってから窓口に戻り、用意されていた分厚い束の紙幣を幾つも受け取って、ついでに貰った紙袋に入れた。
呆然と競馬場を出て駅へ歩いた。やってきた電車に乗りこむと空いていて俺たちは並んで席に座った。規則正しく揺れる電車の中で俺は夢心地に沙月に言った。「どうするよ、これから」
「いま妾は美味しいものが食べたいのじゃ。金の使い道はお主に任せる」
「そう言われても……」俺は手に持った紙袋を覗き込んだ。心臓に悪い。「お前が稼いだ金だからな。半分は渡すよ。でも俺の家で生活するんだから、もう半分は生活費に充てるぞ」
俺たちはそれ以上は特に会話もせずに、電車に乗っていた。駅に停まるたびに新しい乗客が乗り込んだり、今まで乗っていた客が降りたりした。俺たちは午後の日差しの中でのんびりと勝利の余韻に浸かっている。
電車に乗っていて眠くなるのは、規則正しい振動が母親の胎内にいた時に感じていた心臓のリズムと相似しているかららしい。俺は紙袋を赤子のように胸に抱いて、電車の窓は日差しの影響で汚れが目立った。窓の外に広がる霞んだ山の稜線と、田んぼに煌めく水面の粒子。俺は最寄り駅が次に迫ったので横で転寝している沙月の肩を揺すぶった。
目元を擦りながら沙月は立ち上がった。俺たちは電車の出口の傍に立った。
「俺たちは中々いいコンビじゃないか?」俺が言った。
「金が手に入ったらすぐそれじゃ」沙月は呆れた口吻で溜め息を吐いた。「調子のいい奴じゃな」
「違うよ。俺が感動してるのは……」俺はそれを言語化しようとして踏みとどまった。言葉にすれば色褪せる類の感動が人生にはそれなりの数、存在するのだ。「まあ、いいさ。そうだよ。金が手に入って心にゆとりが出来たんだ」
「妾は色んなことがしてみたい」夢見る少女の横顔が電車の硝子に映っている。「海へ行ってみたいし映画館も行ってみたいし遊園地も行きたいのじゃ。回転寿司も食ってみたいし温泉に入ってみたいし富士山も登りたいのう」
俺だって、やりたいことは山ほどあった。でもいつの間にか、自分のそういう素直な願望を見下して、抑圧して、忘れたつもりになっていたのだ。俺は子供の頃、宇宙飛行士になりたかった。……
「金は手に入ったんだ。全部やろうぜ。明日から、一つずつやっていこう」
電車の扉が開いた。俺たちは明日からの計画について話しながら駅を歩いた。