第一話 その⑧
お釣りは、一〇〇〇円!
「当然、出てくるのは千円札だね? だから、小銭特有の『チャリンチャリン』という金属音は聞こえなかった。宮本様も、気が立っていたために、お釣りのことを忘れて、エナジードリンクだけをもっていってしまったんだよ」
「そして、残されたあのサッカー部の男は…」
「ああ、その千円札を盗んでしまった。おそらく、これが真相だろうね。まあ、たかが推理だ。彼を罰するに値する証拠では無いね」
「あの、お釣りを盗む行為は、どんな法律に触れるんですか?」
私は気になって尋ねていた。
三森さんが嬉しそうに振り返った。
「そうだな。刑法第235条の窃盗罪に当たるよ。十年以下の懲役か、五十万円以下の罰金を課される。君も気を付けるんだね」
「は、はい、気を付けます」
私は背中にぞくっとするものを感じて、身震いした。
廊下の窓からは、西日が差し込んで、三森さんと私を赤く照らし出した。
※
その後、宮本さんがサッカー部の男を問いただしたところ、三森さんの推理通りに、「釣銭として出てきた千円札を奪った」と証言したらしい。
宮本さんはサッカー部の男から八〇〇円を返してもらい、私は宮本さんから八〇〇円を返してもらった。
そして次の日。
「おーい」
一年の私の教室に、宮本さんがやってきた。
「この前は悪かったな。これ、せめてものお礼だ」
そう言って、冷えたエナジードリンクを渡される。
「あ、ありがとうございます」
私はぺこっと謝った。
それから、財布から千円札を取り出すと、宮本さんに渡した。
「ん? 何だこのお金は…」
「いえ、さすがに無償でいただくわけにはいきませんので…」
「何を言ってんだよ。こんな金受け取れねえよ」
「いや、だから、買うって言っているんですよ」
私は宮本さんに手を伸ばした。
「お釣り、八〇〇円ください」
続く
三森と琴音の日々はまだまだ続きます