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第一話【春風に消えた釣銭】 その①

三森さん事件です

 ふう…。 

 落ち着いて。落ち着くのよ。私。

 真新しいブレザーを身に纏い、黒いソックスに、室内用シューズを履いた私は、通学鞄を肩に掛けなおして、顔を上げた。


 私の目の前には、薄汚れた扉。


 一番上の看板に、かすれた文字で『六法全書研究部』と書いてある。



 六法全書研究部?



 確か、桜井先輩は「名探偵がいる部屋」って言ってた気がするんだけど…。


 ガラガラ!


 私が首を傾げた瞬間、扉が勢いよく開かれた。


「ようこそ!」


 男の人の腕が伸びてきて、私のブレザーの胸ぐらをつかんだ。


「六法全書研究部へ!」

「うひゃああ!」


 私は悲鳴ともに、部屋の中に引き込まれた。

 私が部屋に入った瞬間、扉が閉められる。


「わはははは! この瞬間を何度待ち望んだことか! 僕の、僕のこの六法全書研究部に、新入部員がやってくるとわ!」


 私を部屋に連れ込んだ男の人は、そこまで背は高くないけど、身体の線はすっきりとしていて、威厳のある立ち姿。おでこからすらっとした鼻筋が通っている。


 二年生を示す赤色の名札には、『三森』と彫ってあった。


「さあさあ、さっそくこの六法全書研究部の入部届にサインを!」


 三森さんは、私の目の前に、白い入部届を突きつける。


「ま、まってください!」


 私は入部届を手で押しのけた。


「すみません、入部をしに来たのではありません…。その、とある先輩から、三森さんはすごい名探偵だと聞いたので…」


「名探偵だあ?」


 三森さんはきりっとした目で、私の困惑した顔を覗き込んだ。


「名探偵部なんてものはこの学校には存在しないよ? 僕は六法全書研究部の部長だ」


 そう言って、壁際の本棚から、分厚い本を抜き出して、私に持たせる。

 うう、重い!


「なにこれ?」

「それは六法全書だ」

「ろっぽうぜんしょ?」

「ああ。六法全書とは、日本の法律である、『刑法』、『民法』、『商法』、『刑事訴訟法』、『民事訴訟法』、そして、『日本国憲法』について記した本のことだよ」

「ほ、法律?」


 法律って、確か…、人を傷つけたらいけない。とか、ものを盗んだらいけない。とかのルールのことだよね…。


「我々は、この六法全書について研究している部活だ!」


 ドン!

 三森さんは学ランの胸を叩いて、そう宣言した。


 法律を、研究しているの?


「なんか、面白く無さそう…」


 思わず声が洩れていた。


「なんだとおおおおお!」


 すぐに三森さんの手が伸びてきて、私のブレザーの胸ぐらをつかんだ。


「この口か! 偉大な六法全書について侮辱するのはこの口か!」

「ま、ま、まってください!」


 私は揺さぶられながら首を横に振った。


「わ、わ、わたしは…、三森さんに助けを求めに来たんですよ!」

「助けに?」


 三森さんの腕がピタッと止まった。


「ほう、それはどういうことだい? 法律専門なら協力するよ?」


 それは良かった。


 私は三森さんから解放されて、乱れたブレザーの襟を整えた。


「実は、とある事件の犯人にされかけているんです…。困っていたところ、先輩に、『三森さんに頼れ』と言われまして…」

「そうかそうか…、冤罪の事件を解き明かすのは弁護士の仕事だもんなあ」


 三森さんは得意げな顔をして、狭い狭い部室のパイプ椅子に腰を掛けた。


「君、名前は?」

「琴音…。『宮崎琴音』です…」

「ほう、琴音だね。覚えておこう…。ちなみに僕の名前は『三森俊』だ」


 私は、壁に立てかけられていたパイプ椅子を開いて、三森さんとむきあうようにして座った。

 そして、ゆっくりと、一時間前に起きた、とある事件のことについて語り始めた。




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