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リプルシェ

リプルシェ。

イスカの町の小道にあるとある人形店である。大きな店ではなく、ひっそりとした店であるが、店の前には人形の小物やぬいぐるみがショーケースに飾られていて不思議と人の目を誘う魔力がある。そんな店の前にキークたちは訪れていた。


「ここが『リプルシェ』か。可愛いお店だね」


「前に一人で町をぶらぶらしているときに偶然見つけたんだ」


「へー」


二人は店の扉を開き、店内に入っていく。店の中はこじんまりとしているが、店内にある棚やテーブルにはたくさんの人形とぬいぐるみが置かれていた。クマ、うさぎ、猫、犬のぬいぐるみ。エルフや獣人をデフォルメしたような可愛い人形等、色々な種類のものが置かれて

いた。


「わー、このぬいぐるみ可愛い!」


クリミアは棚に置いてあるぬいぐるみを抱きかかえ、見つめていると「いらっしゃいませ、お客様」とぬいぐるみが突然話しかけてきた。それに驚いたクリミアはぬいぐるみを床に落としてしまった。


「あらあら、驚かせてごめんなさいね」


床に落ちたぬいぐるみとは違う方向からぬいぐるみから発せられた声が聞こえた。キークとクリミアが見つめる先にはある女性が立っていた。赤い長髪に、小柄な体。黒いメイド服のような服を着ていて、気品があり、そして、儚げな印象がある不思議な女性が二人を見ていた。


「私のぬいぐるみは気に入ってもらえたかしら?」


「私の?」


クリミアは落としたぬいぐるみを見た。


「ええ、そうよ。ここにある人形とぬいぐるみ全てが私のつくったもの。私の子供たちよ」


自慢げに話す赤髪の女性。クリミアは床に落としてしまったぬいぐるみを拾い上げ、女性に返した。


「すみません、落としてしまって・・・」


「気にしなくていいのよ。驚かせた私が悪いんだから」


「それってどういう・・・?」


クリミアが尋ねる前に赤髪の女性はキークの方に近づいて行ってしまった。キークは赤髪の女性に頭を下げた。


「お久しぶりです。キアリエさん」


「久しぶりね。キーク」


ニコニコした表情でキアリエと呼ばれた女性は返事をする。クリミアは二人がどういう関係なのかと気になっていると、それに気づいたキークがキアリエという女性の紹介を始めた。


「クリミア、こちら『リプルシェ』のオーナーのキアリエさん。前俺がイスカの町で一人で依頼をしていたときに助けてもらったことがあってな。それで知り合った」


「オーナーのキアリエ・リグルハートよ。よろしくね」


キークがキアリエの紹介を終えると、今度はクリミアのことを紹介した。


「それでこちらがクリミア。俺の相棒で、幼馴染です」


「クリミア・ナスタルシアです。こちらこそよろしくお願いします」


「へぇ、あなたがクリミア。可愛らしい彼女さんね」


ウフフッとキアリエはからかうように笑う。対してクリミアは顔を赤くして、手を後ろに組んでもじもじしていた。


「か、彼女って、私たちはまだそういう関係じゃ・・・」


「そうですよ、クリミアはただの幼馴染です」


とキークが訂正すると、クリミアが冷ややかな目でキークを見ていた。さらに、クリミアがぺシペシとキークの足を軽く蹴った。


「な、何?俺なんか変なこと言った?」


「何でもないよ」


はあ、とクリミアはため息をついて、ほかの棚のぬいぐるみを見に行ってしまった。キークはクリミアが不機嫌になった理由がまったくわからなかった。そして、キアリエはキークとクリミアのやり取りを楽しそうに見ていた。


「それで、今日は何の用事で来たのかしら?」


「人形を買おうと思いまして」


言い終わるとキークは背負っていたリュックを下ろし、開いた。そして、「出てきていいぞ」と言うとリュックがもごもごし始め、中から小竜が頭を出した。


「ふはー、やっと、出られるのじゃ!」


リュックの中から小竜が飛び出し、店内をパタパタと飛び始めた。その小竜の様子をキアリエは先ほどまでのクスクスと笑う表情から雰囲気が変わり、少し冷たい目線の真剣な表情に変わった。


「その子は?」


「遺跡で見つけたんです」


「最近見つかった教会の遺跡かしら?」


「はい。そこです」


キアリエは小竜の様子をジッと見つめる。小竜はキアリエのことは気にせずに店内にある棚やテーブルの人形やぬいぐるみを興味深そうに見つめていた。クリミアもまざって楽しそうにおしゃべりをしながら見ている。


「キアリエさん、あの人形ってまだ売ってますか?」


「いえ、まだ売れてないわ。・・・ああ、そういうことね」


キアリエはキークの目的を理解した。少し考え、キアリエは返答した。


「いいわ。ついてきなさい」


そう言ってキアリエは店の奥へと続く扉を開き、先に行った。キークは人形を見ているクリミアと小竜を呼んで二人にもついてきてもらった。扉の先は地下へと続く階段になっていて、キークたちはキアリエの後ろをついていく。


「ねえ、キーク。キアリエさんの前で小竜ちゃんを出して大丈夫なの?」


となりで一緒に歩いているクリミアがキアリエに聞こえないようにコソッと話しかけた。


「大丈夫。キアリエさんは信頼できる」


「ふーん、そうなんだ・・・」


クリミアがうつむいてしまう。先ほどから少し機嫌が悪い感じがするクリミアをキークは気にしていた。


「なあクリミア、なんか怒らせちゃったならごめんな」


「別に怒ってなんかないよ。ただ・・・」


「ただ?」


キークは尋ねるが、クリミアは答えない。少しして小声で答えた。


「キアリエさん美人だからキークがその、えっと・・・」


クリミアは顔を赤くして、自分で言っといて恥ずかしくなりはっきりと答えられなかった。要はクリミアはキークが好きなので、自分より美人のキアリエに取られちゃうんじゃないかと心配していた。一方でキークは歯切れの悪いクリミアの様子を見て、クリミアの意図を考える。


(キアリエさん美人だからってどういう意味だ?・・・ああ、もしかしてキアリエさんに嫉妬してるのかクリミアのやつ)


勝手な解釈で解決したキークは行動に移す。キークは突然クリミアの手を握った。


「俺はクリミアがこの世界で一番可愛いと思ってるから、自信を持てクリミア!」


クリミアの目をまっすぐ見つめ、キークは嘘偽りのない正直な意見を言うと、キークの突然の行動にクリミアの頭の中はめちゃくちゃになっていた。


「あ、ありがと・・・」


手を握ってもらえたことだけでも心臓バクバクしているのに、さらに可愛いと褒められて、うれしすぎて思考回路が通常に働かない。お礼を言うだけで、これ以上は顔を赤くして黙ることしかできなかった。


「それくらいにしとくのじゃキーク。これ以上クリミアになんか言うと爆発するぞ」


キークとクリミアのやり取りを見ていた小竜が会話に混ざる。小竜は一連のやり取りを見てクリミアがキークのことを好きなのはすぐにわかった。この場でクリミアの気持ちに気づいていないのはキークだけである。


「クリミアの機嫌直ったかな?」


「十分すぎるくらいじゃ」


「そっか、ならよかった」


「鈍感男じゃな」


「え、何か言った?」


「何でもないのじゃ」


前を歩くキアリエは何も言わず、キークたちの会話を聞いて楽しそうに笑っていた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ途中だけど読みやすく、シンプルな構成で分かりやすいです 神話の設定と現実まで続く人殺しが基本的にできないと言う世界観が出来ているので荒事を生業とする主人公達の気楽さと気安さが納得できま…
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