出会い
一匹のアサルトベアがキークに突っ込んでくる。キークは構えて、アサルトベアの動きを見る。アサルトベアの行動はかみつきだった。大きな口を開け、牙で噛み千切ろうとしてくる。キークはそれをさらりとよけてアサルトベアの脇腹に蹴りを入れた。
少しひるんだが、威力が足りず、すぐにアサルトベアは右手の爪で反撃してきた。キークはアサルトベアの攻撃を避ける。対するアサルトベアも負けずと、腕を振り回し、キークを切り裂こうと襲ってくる。
だが、キークはそれらの攻撃をすべて避けていく。そして、避けている間キークは右手にあるものを形成していた。それは空気の球。またの名を空気弾。キークの能力によって形成された空気の大砲である。キークは隙を見てアサルトベアの腹にめがけて空気弾を投げつけた。空気弾は見事命中し、アサルトベアの腹で爆裂し、その巨体は勢いよくとばされ壁に張り付けられた。
「やば。やりすぎた」
今の張り付けによる衝撃で遺跡が崩れないか心配するキーク。しかし、そんなことを考えている場合ではなかった。アサルトベアはまだ倒れていなかった。張り付けられていたアサルトベアは再び突撃してきた。
「くそ。しぶといな」
アサルトベアは一心不乱に腕を振り回し、爪でキークを切り裂こうとする。それはさきほどよりも、早くなっていた。キークはアサルトベアの攻撃をよけ、アサルトベアの足を蹴り飛ばし、転ばせた。そして、そのままキークはアサルトベアの体の上に乗っかった。
「ちょっとえぐいことするけど、勘弁してな!」
キークはアサルトベアの腹に手を押し当てる、さらに押し当てた部分に空気弾を形成、そして爆裂させた。アサルトベアの腹は一瞬陥没し、アサルトベアは大きく叫び声をあげると、そのまま動かなくなった。この戦いはキークの勝利で終わった。
一方、時は少しさかのぼる。クリミアは二匹目のアサルトベアと対決していた。クリミアは腰からぶら下げていた鞘から剣をだし、戦っていた。
クリミアの剣の種類は一般的なロングソードであるが、素材が特殊である。この剣はクリミアが鍛冶屋で作ってもらったオーダーメイドで、刀身は白銀で作られ、柄、それに鍔も白銀色に統一され、剣全体が白を強調している。さらに、刃は雷をよく通すものが使われているため、クリミア専用の武器となっている。
「やあ!」
クリミアは剣を振り上げ、アサルトベアの胴を切り裂こうとするが、その斬撃をアサルトベアは爪で弾き飛ばした。そして、反撃でアサルトベアは爪で攻撃してくる。クリミアは攻撃を避け、数歩下がった。
「地下であまり体力を消費したくないけど、能力なしだと厳しいかな」
クリミアは刀身に手をかざした。すると、手のひらから青白い雷が生じ、刀身全体が雷に覆われた。クリミアは雷のまとったその剣でアサルトベアに切りかかる。アサルトベアは爪でクリミアの剣を受け止めたが、クリミアは力任せにアサルトベアを弾き飛ばし、そしてはじかれた衝撃でひるんだアサルトベアに向かって剣を振り、雷の斬撃を放った。
斬撃はアサルトベアに直撃し、雷が体を包み込んだ。バリバリバリという雷鳴と共にアサルトベアを雷で痺れさせる。クリミアは痺れて動けなくなったアサルトベアを切り飛ばした。アサルトベアは床に倒れたが、すぐに起き上がり再びクリミアに勢いよく襲い掛かってくる。口を大きく開き、クリミアにかぶりつこうとした。
しかし、目の前にすでにクリミアはいなくなっていた。クリミアはアサルトベアの背後にいた。
「ごめんね。ちょっとだけ本気出させてもらったから」
アサルトベアの腹にはいつの間にか切られた痕があった。クリミアが高速で切っていたのだ。アサルトベアは切られたことにも気づいていなかった。そして、気づいた時にはもう力尽き倒れていた。
こうして二体のアサルトベアにキークとクリミアは勝利した。二人はアサルトベアに命令していたフードの男に近づいて行った。
「くそ、役たたずどもが・・・!」
壁を調べていたフードの男はこの場から逃げ出そうと走り始めるが、とっさにクリミアが左手から雷を男に放ち、感電させて倒した。男はしびれて床にひれ伏しているが、何とか逃げ出そうと床を這っていた。
「答えようによってはこれ以上何かする気はない。俺たちはあんたに少し質問したいだけだ」
倒れている男にキークは詰め寄り、質問し始める。
「見たところあんたはオーレント。能力でアサルトベアを操っているみたいだが、何が目的だ?」
キークは男がアサルトベアに指示し、襲わせてきたところ見て、イスカ周辺の襲撃事件の犯人はこのフードの男であると予測していた。イスカの町のためにキークは男から人を襲う理由目的を聞き出したかった。
「なあ、どうなんだ?」
男は痺れていて話しづらいのか、それともただ単に話したくないだけなのかわからないが、男は何も答えない。
「それじゃあ別の質問。あんたはここで何をしてるんだ?」
「おまえらと同じだよ」
「お宝目的?」
クリミアはしゃがんで男に尋ねると、男はククッと笑った。
「宝?ああ、お前ら何にも知らないでここに来たのか。これはお笑いだな」
「どういうことだ?」
キークは男に尋ねるが、男は何も答えない。薄気味悪く笑ってるだけだった。
(ここにはいったい何があるんだ?)
自分たちの知らない何かが、それもとてもすごいものがあるのかもしれないとキークは思った。
「なんにせよあんたが何かしら馬車襲撃事件に関わっているなら放っておくわけにはいかない。町であんたを騎士のところまでつれていく」
キークはリュックからロープを取り出し、男を拘束しようとしたそのとき、パシャっと、痺れが回復した男はズボンのポケットから小瓶を取り出し、中の液体をキークにかけた。
「大丈夫キーク、って、うわ!」
男はクリミアにも液体をかけ、走って逃げた。
「クリミア、雷!」
「うん!」
クリミアは雷を放とうと左手を構えたが、雷が出なかった。男は逃げて見えなくなってしまった。
「あれ、どうして雷が出ないんだろ?」
「おそらくオルト水をかけてきたんだ。くそ、質問に答えないで黙って笑ってたのはしびれを回復させて逃げる隙を見計らってたからか」
オルト水をかけられれば、一時的に能力を使えなくなる。そのため、クリミアは雷を放つことができなかった。
「走って追いかける?」
「いや、やめとこう。俺たちから逃げるということは分が悪いからだろう。仕返しに戻ってくるというのもないと思う」
「そうだね。それにしても変だよあの人。アサルトベアを使って私たちを殺そうとしてきたよ。そんなこと人にはできないはずなのに・・・」
クリミアの言う通り、天罰への恐怖が刻み込まれている人には殺意を持って人を襲うことはできない。それなのに、フードの男はそれをできたのだ。その事実にキークとクリミアは不審に感じていた。
「なんにせよあの男は不審な点が多い。深追いはやめよう。クリミア、一応サーチャーで警戒してもらっててもいいか?」
「わかった」
「悪いな。戦いが終わって疲れてるはずなのに。今度おいしいものおごってやるからな」
「本当!ありがとう」
「ああ、期待しといてくれ」
「うん!」
「それじゃあ、この部屋調べて何にもなかったら帰るか」
「了解」
二人は広間の調査をし始めた。キークは壁を調べる。何か仕掛けがないか、文字は書かれていないか、調べていくが、見たところただの石の壁にしか見えない。色々触ってみても特に何の変化もなかった。
(もうこの部屋には何もないのか?いや、でもさっきの男の発言も気になるしなぁ)
「ねえキーク、これ見て」
床を調べていたクリミアが呼んでいた。クリミアは広間の中心に座って床を見ていた。キークはクリミアのもとに駆け付ける。
「これたぶん文字だよね?」
クリミアが指さすものをキークも見る。床に文字が書かれている。しかも今まで見たことがない謎の文字。一部かすれてしまって見えづらくなっているので、クリミアに言われるまでキークは気づかなかった。
「読める?」
クリミアはキークに問いかける。キーク自身も初めて見る文字だから解読は不可能と思ったのだが・・・。
「読めるぞ、これ」
キークは内心驚いていた。初めて見る謎の文字なのに読めたのだ。まるで生まれた時から知っていたのかのように。
「なんて書いてあるの?」
「えーと、『の血、継ぐもの、印、開く』と、これしか読めないな」
二人は立ち上がり、考える。
「意味が分からないね、これ」
「いや、ひとつわかったことはある」
「え?」
「開くって書いてるということはこの部屋に隠し扉があるのかもしれないってことだ」
「なるほど、でもどこにあるんだろう?」
「さあ、どうだろうな。この文字に書かれていることがたぶんヒントなんだろうけど・・・」
「んー、血、継ぐもの、印か・・・」
とクリミアが言った瞬間。クリミアは自分の親指の皮を食いちぎった。
「てっ、何やってんだおまえ!」
突然のクリミアの行動にキークは驚く。クリミアの親指からは血がドクドクと溢れていた。
「血って書いてるから私の血で隠し扉が現れないかなぁと思って」
「そんな簡単に現れないだろ・・・」
(俺の相棒ってたまに突拍子もないことするよな・・・)
キークはクリミアの行動にあきれながらも、当のクリミアは何も気にせず、文字に血を垂らしていた。すると、ゴゴゴッと遺跡全体が突然揺れ始めた。そして、壁の一部が上に引っ込み通路が現れた。
「やった!開いた!」
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
クリミアが喜んでいる一方で、キークはこんなあっさりと開いてしまったことに唖然としていた。
(もしかして俺の相棒って天才?それとも血ならなんでもよかったのかな・・・)
キークはいろいろ考えるが、考えても無駄だと判断した。
「行こうキーク」
「待てクリミア」
通路の先に向かおうとしていたクリミアをキークは呼び止めた。
「指見せろ。絆創膏するから」
キークはリュックから水と絆創膏を取り出す。水を傷口にかけ、絆創膏を張った。
「ありがと、キークは優しいね」
「世話焼きなだけだよ。それじゃ、行くか」
二人は通路の先へと進んでいく。奥にたどり着いて二人は今日一番の驚きを見せた。
結晶があった。
少し広い部屋。そこは青白く光る結晶に覆われていた。部屋は光で満ち溢れ、それは幻想的でこの世のものとは思えないほどの美しさで二人は見惚れてしまう。中でも部屋の中央には巨大な結晶の塊があり、異様な存在感があった。
「なんなんだ、この結晶?こんなの初めて見るぞ?」
キークは結晶に触れてみる。それは少し暖かか差を感じる不思議な印象だった。触れば触っているほど不思議な感じがしてくる。
「キーク、私が感じてた気配あれから感じる」
クリミアが指さす先には部屋の巨大結晶があった。キークはそれを見つめた。すると、心の底から不思議な感情が湧いてきた。それは懐かしさ。そして、喜び。キークはこの巨大結晶を初めて見たはずなのに、キークの心が知っていたのだ。キークは無意識にこの結晶の中にいるものに会わなければならないと感じた。キークは少しずつ巨大結晶へと近づいていく。
「キーク?」
クリミアがキークに声をかけるが、キークは聞こえていない。一歩、二歩とキークは近づいていく。そして、キークは巨大結晶に触れた。
(やっと、来てくれたのじゃ)
「え?」
キークの脳内に誰かの声が聞こえた次の瞬間。巨大結晶が輝き始めたのだ。光の勢いでキークは怯み、後ろに大きく下がった。巨大結晶は徐々に割れ始め、かけらが床に落ちてくる。
危ないと判断した二人は巨大結晶から離れ様子を見ていた。結晶はどんどん小さくなり、輝きも弱まっていく。結晶が五十センチほどの大きさまで小さくなると、結晶は真っ二つに割れると、そこに何かが現れた。
それは二十センチほどの大きさ、全身はうろこに覆われ、背中には体より大きな翼、頭には
二本の角、そして後部にはしっぽが生えている。その姿はまるでこの世界を創世した伝説の生物。
竜・・・。
の小さいやつだった。その小竜は割れた結晶から現れ、その場に倒れた。キークとクリミアは恐る恐る小竜に近づき、クリミアが触れてみた。
「暖かい、生きてるよ」
それを聞いてキークはなんだか安心した。
「どうするキーク?」
「ひとまず宿に連れて帰ろう。このままにはしておけない」
無意識に、この竜を絶対に助けなきゃならないとキークは思った。なぜだかわからないが、この竜は自分にとって大切な存在であると、根拠はないがキークはそう確信していた。
(あれはこいつの声だったのか・・・?)
先ほどの脳内に伝わってきた声を思い出しながら、キークは小竜を背負い、部屋を後にした。
この出会いこそが、これから続く長い旅の始まりだった。