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キークとクリミア

フツール王国。


ラナイアにある三大国のひとつである。人口約六千万人。ラナイアで一番大きい大国である。


その国のとある森の中、イスカという町に向かう一台の行商の馬車が走っていた。中には大量のリンゴが積んである。そして、リンゴとは別に二人の少年少女も乗っていた。


少年の名はキーク・リアライト。歳は十八。身長一七二センチで、黒髪。美男とまではいかないが、それなりの顔つきである。キークの正面には一人の少女がスヤスヤと眠っていた。


少女の名はクリミア・ナスタルシア。キークとは幼馴染で歳は十六。身長一六一センチで、銀髪。キークに対してクリミアは美人というよりは美少女であり、ひときわ目立つ存在感がある少女である。


キークは向かいで気持ちよさそうに眠っているクリミアを見ながら積み荷のリンゴを一つ食べていた。


「すごく甘くておいしいですね、これ」


キークは馬車を運転している商人にリンゴの感想を伝える。商人は嬉しそうにハハッと笑った。


「アプル産のリンゴですよ。お菓子みたいで何個でも食べれますよね」


「そうですね。俺の相棒なんて五十個は食べてましたよ」


「あの、それは流石に食べすぎですよ冒険者さん・・・」


(あ、しまった)


キークはそう思った。すいません、とキークは商人の男性に謝った。馬車に乗車するとき、商人が「三日間護衛してもらいますし、少しだけなら食べていいですよ」と言っていたので、クリミアは調子に乗ってリンゴを五十個食べていた。たくさんあるし、言わなきゃばれない

だろ、とキークは黙っていたが、商人との会話でうっかりしゃべってしまったのだった。


「まあ私もはっきり言わなかったのが悪いですからね。でも、これ以上食べるのは控えてもらってもいいですか?」


「はい。わかりました・・・」


(これ以上何かしでかして報酬がもらえないなんて展開はさけたいしな)


キークはおとなしくすることにした。


キークとクリミアは行商の馬車の護衛依頼を受けていた。馬車の護衛はどこの町にもあるありふれた依頼の一つである。基本的に町から町への移動手段として馬車が利用されるが、普通に利用するとなると結構お金がかかってしまう。


ところが、馬車の護衛をすることで割引してくれるものもある。こういう理由もあって冒険者には馬車の護衛の依頼は安く移動できる手段として重宝される。


「それにしても、冒険者さんが護衛の依頼を受けてくれてよかったですよ。最近私の馬車の護衛を受けてくれる人がいなくて困っていたので本当によかったです」


「いえこちらこそ助かりますよ。料金割引の上に報酬ももらえるんですから」


今回キークたちが受けた護衛任務は通常のものとは異なるのである。


「確かイスカの町周辺にアサルトベアの群れが暴れてるんですよね?」


キークが商人に尋ねると、ため息交じりに商人が「はい」と言った。


「二か月前からこの周辺で暴れてるんですよ。群れで現れては馬車を襲ってきて大変なんです」


アサルトベアというのはラナイアに点在するアサルト種の生物群のことである。アサルト種とは唯一ラナイアに存在する人を食らう肉食獣である。どれも凶暴な性格だが、強さは生物ごとに異なる。


「最初は多くの冒険者が私の馬車の護衛の依頼を受けてくれていましたが、アサルトベアの凶暴さにおそれをなして次第に減って、困ってるんです。今じゃ高いお金出して騎士団に護衛してもらっている商人も多いんですよ」


その話を聞いてアサルトベアについて思い出す。今回現れているアサルトベアはアサルト種の中でも強い部類になる。並みの冒険者ではなすすべなく食い殺されるだろうとキークは予測した。


「大変ですねそれは。騎士に頼んだら結構値を張りますよね?」


「ええ、通常料金の倍はとられますよ。まったく、これだから騎士のやつらは・・・」


その後も商人はぶつぶつと騎士に恨み言をつぶやいている。キークは愛想笑いをしながら商人の話を聞いていた。


「冒険者さん、今更だけど護衛大丈夫ですよね?いざ護衛を受けてアサルトベアが現れたら逃げる冒険者が最近多いんですよ。そういうのは困るんでお願いしますよ?」


商人はキークをちらっと見た。その表情はとても不安そうだった。


「大丈夫ですよ。そこいらの奴らと俺たちは格が違う。何の心配もいりませんよ」


(でも戦闘はめんどくさいからできるだけでてほしくないなぁ)


自信満々に答える一方で内心戦闘はしたくないなと考えるキーク。


「ところでイスカの町まであとどのくらいかかりそうですか?」


「順調に行けばあと一時間半ってところですね」


わかりました。キークがそう言うと会話は終わり、退屈になったキークはぼっーと外を眺め始めた。それから少しして向かいでスヤスヤ寝ていた銀髪の少女クリミアが目を覚まし、大きなあくびをした。


「あー、よく寝たー。あ、おはようキーク」


「おはよ」


「あとどのくらいでつきそう?」


「一時間くらいだな」


「そっかぁ、それじゃあご飯はまだ食べられないかぁ。それじゃあ小腹を満たすためにリンゴを十個ほど・・・」


「ダメだ!お前食いすぎだぞ!」


「えー。まだ五十個くらいしか食べてないよ?」


「十分食べてるだろ。町に着くまでがまんしろ」


「わかった。着いたら大食いチャレンジの店に行ってもいい?」


「いいぞ。ただし食べきったら無料の店だけだぞ」


「わかった!」


満面の笑みで元気に返答するクリミア。食い意地以外はまともなのになぁとキークはあきれていると、目の前にいるクリミアが突然真剣な表情に切り替わった。


「何か近づいて来てる」


クリミアは外を見る。続いてキークも外を見るが、いたって静かで穏やかな森で特に変わった様子はない。しかし、キークは商人に「警戒してくれ」と伝えた。


「冒険者さん、アサルトベアが現れたのですか?」


「いや、まだ現れていないが、俺のパートナーの予測だから間違いない」


「本当に当るんですかその予測?」


「大丈夫ですよ。私の予測は百パーセント当りますからね」


クリミアが返答すると、商人はうなずいた。


「わかりました。それに言われなくてもさっきから警戒しながら進んでますよ。けど、冒険者さんたちがそう言うならわたしも覚悟を決めます」


商人がそう言った次の瞬間。馬車の後ろから大きな雄たけびが聞こえた。


「来るぞ!」


馬車の後ろから二百メートルほど離れた場所にそれは現れた。体長五メートル。全身黒い毛に覆われた巨体のアサルトベアが全速力で向かってきていた。その速度は速く、馬車との距離をどんどん縮めていく。


「うわぁ、大変だ!」


商人が叫び、馬車が停止し始めた。


「止めるな!追いつかれるぞ!」


「無理です!前からも来てるんですよ!」


そう言われてキークとクリミアが馬車の窓から前を見ると、確かにもう一体アサルトベアが向かってきていた。


「あんたは馬車の中で隠れててくれ!」


キークの指示通り商人は急いで馬車の中に隠れ、たいしてキークとクリミアは馬車の外に出た。


「挟み撃ちされたか。クリミア、前の奴倒してもらっていいか?」


「まかせてよ。さくさくっとやっちゃうよ」


「頼んだぞ。俺は後ろの奴をぶっ飛ばす!」


クリミアは前方のアサルトベアに向かって走っていった。同時にキークも後方のアサルトベアに向かう。


後方のアサルトベアと馬車との距離はすでに三十メートルは切っていた。これ以上馬車に近づかせないためにキークは一気にアサルトベアへ接近した。


アサルトベアは近づいてきたキークを敵と認識し、巨大な腕を振りあげ、爪で切り裂こうとした。だが、切り裂かれる前にアサルトベアは後ろに勢いよく吹き飛んだ。


「今何をしたんですか?」


一部始終馬車で隠れながら見ていた商人が驚きのあまり叫んでいた。


「俺の前方に暴風を発生させて吹き飛ばしたんですよ」


「風?あなたオーレントなのですか?」


「ええ、一応ね」


オーレント。


この世界ラナイアの人類すべての人に宿っているといわれる『自分だけの異能』というものが存在する。


それは人によって異なる能力を有する。この異能は何かしらのきっかけがなければ目覚めず、目覚めないまま一生を終える人がほとんどであるが、ごくまれに異能に目覚めるものが少数いる。その者たちが『オーレント』である。


吹き飛ばされたアサルトベアはゆっくりと起き上がると、先ほどのように襲い掛かってくることなく、少し離れた位置からキークのこと睨み警戒していた。


その様子を見てキークは大地を強く蹴り飛ばし、風の力を利用して再びアサルトベアの懐に潜り込み、さらに拳をアサルトベアの腹に叩き込んだ。拳の衝撃でアサルトベアは怯んだ。


「もう一撃くらえ!」


キークが地面を強く踏みつけると、アサルトベアの足元から竜巻が発生し、アサルトベアを上空へと高く吹き飛ばした。アサルトベアはそのまま勢いよく上空から落下し、強く地面に叩きつけられ、それから動かなくなった。


「やった!冒険者さんの勝ちだ!」


キークの勝利を見て、もう安全だと判断した商人は馬車から出てきてキークの方に近づいた。


「まだ終わってない!くるな!」


「は?」


キークに怒鳴られ、呆気にとられ立ち止まる商人。すると、商人の背後の少し離れた茂みから三匹目のアサルトベアが商人を襲おうと向かってきていた。


「ひ、ひぃ!」


驚きのあまり商人は動けずにいた。それを見たキークも商人を助けるためにすぐに走り出す。


(くそ、間に合うか・・・!)


走りながらキークは右手をかまえ、技をくりだそうとした、そのとき。


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオっと轟音と共に大きな雷がアサルトベアを包み込み、黒焦げにした。雷をもろにくらったアサルトベアは倒れ、力尽きた。


「間に合ったぁ、二人とも怪我してない?」


トコトコとクリミアがキークたちのもとへ駆け寄ってきていた。


「助かったよクリミア。ありがとう」


キークとクリミアはハイタッチした。


「今の雷も冒険者さんがやったんですか?」


商人がクリミアに尋ねると、クリミアは「はい」とうなずいた。


「私は雷を自在に操ることができるオーレントなんです」


「『風』を操るオーレントに『雷』を操るオーレント・・・。まさか、あなたたちあのトレジャーハンターコンビの『風人雷人』!」


「そうですよ。私が雷人のクリミア・ナスタルシアです」


「そして、俺が風人のキーク・リアライト。町まであともう少し、よろしくお願いします」


キークとクリミアは改めて商人に自己紹介した。



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