伝承
これは竜の起源の物語。
かつて、世界を創世した三匹の神竜がいました。各神竜の名は、創造を司る竜アラトン、生命を司る竜セノ、叡知を司る竜リリクラテレスという。
創造竜アラトンは世界の基盤となる大地や大海を創り出し。
生命竜セノは動物や植物の生命体を生み出し。
叡知竜リリクラテレスは生命体に知恵を授けました。
三匹の竜は世界を「ラナイア」と名付け、竜の世界である竜天界からラナイアを見守ることにしました。
数千年が経ち、数ある生命体の中から「人類」が誕生しました。理性ありし、その人類は七つの種族に分かれていきました。
知恵に優れた人間族。
長命のエルフ族。
剛力の獣人族。
水中でも活動できる人魚族。
翼をもつ天使族。
再生の血を持つ竜人族。
消滅の血を持つ悪魔族。
人類はどんどん増え、七つの種族は村をつくり、街をつくり、いつしか大都市をも築くようになりました。
長い年月をかけて人類は文明をつくりあげ、七つの種族は互いに協力し合い、平和な世が続いた。
そんな世界を見守る三匹の神竜はいつしかラナイアに、人類に興味を抱き始めました。
あるときから三匹の神竜はラナイアに降り立ち、人類と共に暮らすことを決断しました。
人類は初めの頃は神竜の降臨に戸惑いを見せたが、時間が流れるにつれて、神竜の存在になれ始めました。神竜と人類は共存し、平和な暮らしをしていました。
しかし、その平和は永遠ではなかった。
人口が増え、一億となる頃には、人類は土地や資源を求めて種族間での戦争を始めました。
争いはより激しくなり、歪んだ欲求によって、戦争の目的はいつしか戦争による他種族の殲滅になっていました。この戦争はのちに「種族統一戦争」と呼ばれるようになりました。
三匹の神竜は戦争を止めるために人類に訴えました。争いをやめ、再び平和な世界を共に協力して、築き上げようと。
けれども、悲劇が起きました。それは生命竜セノが悪魔族の計略によって殺害されたのです。
戦争に神竜の力を利用しようとたくらみ、生命竜セノに近づき、罠にはめました。生命竜セノの力の根源をすべて奪い去り、生命竜セノを殺したのです。
その事実を知り、創造竜アラトンは人類に絶望し、失望し、そして怒り狂った。
鋭い爪で大地を切り裂き、口から吐かれる火炎は大地を焼き尽くしました。創造竜アラトンは悪魔族を滅ぼし、多くの国を滅亡させ、人類の半数を虐殺しました。
もうダメだ。
ほとんどの人類が生きることに諦めかけていたその時、あきらめず、立ち上がる者たちがいました。叡知竜リリクラテレスと竜人族です。
かの者たちは世界を滅亡から救い出すために、残るすべての種族の結束を訴えました。そして、全人類は協力し、創造竜アラトンと戦うこ
とを決意しました。
叡知竜リリクラテレスを筆頭に創造竜アラトンと激突。苛烈な戦いの末に、叡知竜リリクラテレスと人類は創造竜アラトンを打倒したのです。
しかし、犠牲は大きかった。人口は一億人から一千万人に減少。悪魔族、竜人族は絶滅。叡知竜リリクラテレスは致命傷を負いました。瀕死の叡知竜リリクラテレスは残るすべての人類にこう伝えました。
「この戦いを忘れてはいけない。そして、二度とこのような争いをしてはならない。再び人が人を殺めし大戦が起きたならば、我が汝らに天罰を下す」
その後、叡知竜リリクラテレスが姿を現すことはなくなりました。しかし、戦争が始まると必ず災いが起きるようになりました。
あるときは万人を飲み込む大洪水。あるときはすべてを焼き尽くす大噴火。あるときは町一つ滅ぼすほどの疫病。大きな災いにより多くの死者が出ました。
人類はこれらの災いを叡知竜リリクラテレスの天罰と信じ、恐れ、戦争を、人を殺めることを禁忌としました。天罰を恐れた人類は叡知竜リリクラテレスを崇め、敬いました。
こうして戦争はなくなりました。
それから約数千年後。この話はラナイア創世記として語り継がれていました。人間、エルフ、獣人、人魚、天使の五種族は種族の差別なく皆が協力し合い、平和に暮らしています。
約数千年が経過したラナイアでは天罰を信じる者は少なくなりましたが、絶対に人を殺めてはいけないという天罰への無意識の恐怖は全人類に残っていました。
ゆえに、殺しのない平和な世界が築き上げられていました。
殺人のない世界、ラナイア。
悠久の平和の世界、ラナイア。
竜のいない世界、ラナイア。
約数千年経ても、再び竜がラナイアに現れることはありませんでした。
これは竜の起源の物語。そして、竜に再び出会うための物語