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川口直人 46

 部屋に戻り、シャワーを浴びて出てくると同時にスマホが鳴った。


まさか鈴音っ?!


着信相手を確認する事も無くスマホを手に取った。


「もしもし?」


すると受話器からは先程別れたばかりの鈴音の声が聞こえて来た。


『直人さん…』


何処か切羽詰まったかの様な鈴音の声。


「どうしたんだい?鈴音」


何かあったのだろうか…いや、そんな事よりも鈴音から俺に電話を入れてくれた事が何より嬉しかった。そしてまさかの言葉。


『今すぐ…直人さんに会いたい』


「鈴音…うん。俺も会いたい。今すぐにでも…っ!迎えに行こうか?」


『ううん、大丈夫だよ。そ、それで…もし迷惑じゃ無ければ…泊めて貰ってもいいかな…?』


遠慮がちに鈴音が言う。


「当然だろう?俺はずっと鈴音に傍にいて貰いたいんだから…」


そうでなければ同棲の話なんて持ちだすはずない。


『ありがとう、それじゃ準備したらすぐに行くね』


そして鈴音からの電話は切れた。


「そうだ、こうしてはいられない!」


鈴音はお風呂が好きだ。俺はシャワーしか浴びていないけれども鈴音の為にお風呂の準備をしておこう。急いでバスルームへ向かい、風呂場掃除を始めた―。



****


ピンポーン


部屋のインターホンが鳴った。扉を開けるとそこには恋人の鈴音の姿が。


「鈴音…」


「ごめんね…いきなり電話掛けちゃっ…!」


照れながら俺を見上げる鈴音が愛しくて最後まで言葉を聞かずに、胸に強く抱きしめた。


「お帰り、鈴音」


「うん…ただいま…」


「鈴音、お風呂の準備していたんだ。…入るだろう?」


鈴音を抱きしめたまま、髪を撫でた。


「え…?いいの…?」


鈴音は俺を見上げると目を見開いた。


「何言ってるんだ?当たり前だろう?さ、中へ入ろう?」


「う、うん…」


良く見ると鈴音はボストンバッグを持っている。そこに着がえが入っているのだろうか?


「荷物、持つよ」


鈴音の手から鞄を受け取ると俺は先に部屋の中へと入って行く。その後ろを鈴音もついてくる。


「座って待ってて、もうすぐお湯がたまると思うから見て来るよ」


「うん、ありがとう」



風呂場に行ってお湯の様子を見てみると、丁度よい具合にたまっていた。


「鈴音、お風呂沸いたよ」


「ありがとう」


バスルームで待っていると鈴音が着がえや洗面道具を持ってバスルームへやってきた。


「その洗面道具、予備として俺の部屋に置いておかないかい?」


そうすればいつでも俺の部屋に泊まりに来れるはずだ。


「え…?」


「これから鈴音が次の日に休みの時は泊まりに来て欲しいんだ。少しでも長く一緒にいたいから…」


鈴音の頬に手を触れた。


「うん、ありがとう。それじゃ今日持ってきてくれた洗面用具置かせてもらうね。私も…直人さんと長く一緒にいたいし」


まさか、鈴音からそんな言葉が聞けるなんて…!


「本当かい?ありがとう!鈴音っ!」


鈴音を強く抱きしめると言った。


「じゃあゆっくり入っておいで」


「うん」


そして俺は鈴音をバスルームに残し、部屋へ戻るとローソファに座ってテレビをつけた。…別に見たいテレビがあったわけじゃない。ただ鈴音がこの部屋にいると思っただけで何も手に着かなかったからだ。



****


「直人さん、お風呂ありがとう。とても気持ち良かったよ」


水色のパジャマを着た鈴音がバスルームから出て来た。その姿がとても新鮮だった。


「おいで、鈴音」


手招きすると、素直にやってくる鈴音。そして俺は彼女を腕に囲い込むと髪に顔をうずめ、耳元で囁くように言った。


「そのパジャマ、可愛いね。良く似合ってるよ。うん、鈴音の匂いがする…やっぱり落ち着くな。…好きだよ」


そして強く鈴音を抱きしめる。その時、鈴音が顔を耳まで真っ赤に染めていることに気が付いた。


「鈴音…耳まで真っ赤だ。ひょっとして…恥ずかしいの?」


「そ、それは恥ずかしいよ…ね、ねぇ‥直人さんて誰と付きあってもこんな感じだったの?」


鈴音は顔を真っ赤にしながら俺を見る。


「こんな感じって?」


「だ、だから…今みたいな、こんな感じ」


ますます顔を赤らめ俯く鈴音。そんな姿がとても可愛らしかった。


「違うよ。今まで過去に付き合ってきた女性にここまで過剰な事はしたことがないよ。鈴音が初めてだよ」


「え?本当に?」


鈴音は驚いた様に俺を見る。それはそうだ。何より自分自身に驚いている位なのだから。今まで恋愛に対して淡泊だと思っていた。なのに鈴音にこんなにのめり込んでいる自分がいた。だから俺は今まで鈴音に対して思っていた気持ちを全て吐露した。


幼馴染に捕られてしまうんじゃないかと言う不安な気持ちも…。


すると鈴音は言った。


「私が亮平と付き合う事は絶対に無いよ。だって私の恋人は直人さんだから…」


「鈴音…」


顔を近づけると鈴音が目を閉じる。鈴音に口付けし…いつしか、それは深い口付けへと変わっていく。


やがて、長いキスの後…俺は言った。もっと…もっと鈴音との仲を深めたい。愛し合いたい。


「鈴音…抱いていいかな…?」


「う、うん…いい…よ…」


真っ赤な顔で頷く鈴音。


「鈴音…」


抱きかかえ、ベッドの上に寝かせると部屋の明かりを消した。




「鈴音…好きだ…鈴音…」


「直人…さん…」


熱に浮かされた様に鈴音の名を呼びながら…今夜も愛しい鈴音と身体を重ねた―。

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