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川口直人 6

「まさか、私の住んでいるマンションの隣が川口さんの住むマンションだったなんて…」


加藤さんは驚いた様子で2人が住むマンションを見比べている。俺の住むマンションも加藤さんが住むマンションも同じ鉄筋コンクリート造だけども、部屋の様子はまるきり違う。彼女の部屋はワンルームマンションだが俺の部屋は12畳の1LDKだ。しかも風呂は追い炊き機能付きのジェットバスにミストサウナ迄ついている贅沢な部屋だ。壁も分厚く、防音機能もばっちりである。そこに比べると加藤さんの部屋は…ユニットバスに小さなキッチン、壁も薄くてワンルームの狭い部屋だ。正直、あの部屋は住み心地が決して良いとは言えない。あんな部屋にこれから加藤さんが住むことになるのだと思うと胸が痛んだ。


 加藤さんはそんな俺の気持ちを知ってか知らずか質問してきた。


「ちなみに川口さんのお部屋の間取りはどうなってるんですか?」


やはり尋ねて来た。


「俺の部屋の間取りは1LDKですよ」


ごめん…俺だけ広い部屋に…。わけの分らない罪悪感にさいなまされる。


「へえ~私の住む1ルームより広いですね」


「いや、そんな事は…あ、でもバス、トイレは別で追い炊き機能があるから便利かも」


しまった。加藤さんとの会話を続けたくて余計な事を口走ってしまった。


「おお~…それはいいですね。家賃はいくらなんですか?」


「7万5千円」


家賃だけは加藤さんと同じだ。ただし…これは会社から補助金が出ているからなのだだが。


「ええっ!私のマンションと同じじゃないですかっ!いいな~羨ましい…」


目をキラキラさせながら俺の住むマンションを見つめている。だったら、一度遊びに…。そう言い出したい気持ちを俺は必死に抑えていた。


その時―。


俺のスマホから突然着信音が流れ始めた。電話の相手は…出るまでも無く分っていたし、何より出る気すら無かった。今、こうして加藤さんと2人で会話をする時間こそ俺にとっては有意義だったからだ。しかし…。


「あ、電話ですね。すみません、お引き留めしちゃって」


加藤さんが慌てた様に頭を下げる。どうしよう、何か言わなければ…。こんな電話なんか気にする必要は無いですよ?

そう言いたかったのに…。


「ケーキ、どうもありがとうございます」


当たり障りのない挨拶をした。


「いえ、それでは失礼しますね」 


加藤さんは丁寧に頭を下げると、すぐに自分のマンションへと向かって行く。そして一方の俺は鳴り響くスマホをポケットに入れて自分のマンションへと戻って行った。



****


 マンションの扉を開けたところでようやく煩いくらいに鳴り続けていたスマホが静かになった。


「…全く、本当にすみれはしつこいな…二度と電話を掛けて来ないでくれと言ってあるのに…」


レジ袋から加藤さんが渡してくれたチーズケーキ取り出し…少しだけ悩んだ俺はラップを半分だけ外すとチーズケーキを手づかみのまま食べ始めた。


今頃、加藤さんも1人きりでケーキを食べているのだろうか…?



いずれ、2人で一緒にケーキを食べられる仲になれればいいのに―。

 






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