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川口直人 4

 風呂から上がると、テーブルの上に置いておいたスマホが点滅していた。


「着信…?和也か?」


スマホを手に取り、着信相手を目にした途端思わず眉をしかめてしまう。


「すみれ…」


2ヶ月ほど前に別れた彼女からだった。俺たちはとっくに別れたはずなのに、未だにすみれは連絡を入れてくる。内容は見なくても分かっている。復縁を迫るメールだ。


「…」


俺は連絡することもなく、テーブルの上にスマホを置くと冷蔵庫へ向かった。


「…しまった。何も買い置きが無かったな…」


仕方ない。コンビニへ行くか。


上着を羽織り、財布をポケットに入れてコンビニへ向かった。




****


 今夜は仕事で疲れていたこともあり、何も作る気力が無かった俺は簡単にカップ麺にすることにした。レジカゴにいくつかカップ麺を入れ、他にスナック菓子を手に取り、かごに入れて会計をした。そしてコンビニを出る時だった。


「あっ…」


入り口が開いたのに店内へ入ってこない女性とぶつかってしまった。


ドサドサッ!!


レジ袋をおとしてしまい、中身が散乱する。


「あっ!す、すみませんっ!」


女性は慌てたようにしゃがむと、手早くレジ袋の中に散乱した荷物を入れ、てわたしてきた。その姿を見た時、俺は思わず息を呑んだ。その女性は加藤さんだったのだ。


「すみませんでした。ぼんやりしていたもので、あの…これ、どうぞ」


< 加藤さん >


そう、呼びたかったけれども彼女は俺の名前を知らない。何と声を掛ければよいか思い浮かばず、俺は咄嗟に言った。


「お客様じゃないですか」


「え…?」


加藤さんは不思議そうに俺を見て首を傾げる。…そうか、やはり彼女は俺のことを覚えていないのか…。少しだけ失望したが、俺は笑顔で言った。


「あ…そうか、ユニフォームに帽子をかぶっていないから分らないか…。俺、さっきの運送会社の者ですよ」


思いもかけず、加藤さんに再会出来たので俺は笑みを浮かべて加藤さんに挨拶した。


「あ、こんばんは。偶然ですね?まさかこんなところでお会いするなんて」


加藤さんは少し驚いた様子で俺を見た。


「ええ、本当に偶然ですね」


「それでは失礼します」


加藤さんは頭を下げると、コンビニへ入っていこうとする。


「あ、そうだ。俺も買い物まだあったこと、思い出しました」


わざとらしいとは思ったが、折角会えたのにこの場で終わりにするのは嫌だった。


「そうなんですね?」


加藤さんは疑いもせずに言うと、加藤さんの後に続いて店内へと足を踏み入れた。


…一体、何を買うつもりなのだろう…?


商品を選ぶふりをしながら加藤さんの様子を伺っていると、スイーツコーナーでじっと足を止めている。


「…」


そして真剣な瞳で並べられたケーキをじっと見つめていた。そうか…今夜は、クリスマスイブだから…。だが、加藤さんの様子を見て俺は確信した。きっと付き合っている男はいないだろうと。もしいるならこんなコンビニでケーキを買うはずはないのだから。


 これは…加藤さんとお近づきになれるチャンスかも知れない。


俺はそう思い、加藤さんに声を掛けた―。





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