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亮平 53

翌朝は罪悪感で一杯だった。何しろ眠っている鈴音に内緒で勝手にキスをしてしまったのだから。しかも…一度では飽き足らず2回も…!何って事だ。これではまるで獣と一緒だ。テレビを観ている時、2階から降りてきた鈴音と顔を合わせたときは生きた心地がしなかった。それだけじゃない。忍が台所に立った時に…気づけば俺はまた鈴音にキスをしようとしていたなんて…っ!本当に危ないところだった。あの時タイミングよく忍がリビングに入って来なければ俺は取り返しのつかない事をしていたかも知れない。



 3人で食べた朝飯は最高に旨かった。鈴音も忍も楽しそう笑っている。鈴音があんなにリラックスしている表情を見るのは久しぶりだった。こうしていると俺達3人、家族になったような錯覚を起こしそうになる。俺と鈴音が夫婦で…そして忍と一緒に3人で暮らして…。俺はほんの少しだけ、夢に浸った―。




****


 俺と忍は2人で商店街に年越しそばを買いに商店街へ来ていた。


「ねぇ、亮平君」


そばを買った帰り、神妙な顔つきで忍が話しかけてきた。


「何ですか?」


「鈴音ちゃんて…今どうなってるのかしら?」


「え?ど、どうなってるって?!」


ま、まさか俺が鈴音にキスしていたことがバレているんじゃ…っ!!


「鈴音ちゃんは…以前の彼とは完全に別れちゃったのかしら?」


「さ、さぁ…俺からは何とも…」


緊張しながら答える。


「そう、亮平くんなら鈴音ちゃんの事情を詳しく知っていると思ったんだけど…」


忍は少し考え込むと言った。


「動画の男の人だけど…すごく感じの良い素敵な男性だったのよ。ああいう人が鈴音ちゃんにはお似合いだと思うのよね。だから…あの2人の事、応援してあげようかと思って」


「えっ?!」


そんな…っ!俺は…鈴音の恋人が川口だったから…何とか諦めることが出来たのに。それが同じ職場の先輩ともなれば話は違う。先輩と後輩の間柄だから…鈴音が断りにくいのを知っていて、動画なんて方法を使って、面と向かって鈴音に告白する事も出来ないような男なんて俺は認めない。川口は…何度も鈴音に告白して、そのたびに振られたけど最終的には鈴音があいつの熱意にほだされて、2人は付き合い始めたんだ。男なら正々堂々と告白しろって言うんだよ。


「どうしたの?亮平君。何だか殺気から怖い顔して…」


「え?そ、そうですか?怖い顔なんてしてましたか?」


「うん、してたわよ。眉なんかこーんなつり上がって」


忍はおどけた顔で自分の眉を指で上に釣り上げる。


「ハハハ…何ですか、それ」


…そうだった。忍は…俺よりも5歳も歳上なのに、時折子供っぽい姿を見せる時があった。そのギャップがあったからこそ、俺は忍に惹かれたのかもしれない…。

今の忍は、もう殆と言っていいほどに以前の姿を取り戻しているような気がする。

忍にだけは…本当の事を話しておいてもいいかもしれない。


「忍さん…」


俺は忍を見た。


「何?」


「本当の事…話しますよ」


「本当の事って…?」


「鈴音と…以前鈴音の恋人だった男の事についてです…」


忍は頷くと言った。


「ええ。その話をしてくれるのを…待っていたわ」


と―。


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