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第20章 10 彼との回想

「…」


私は彼の名札から目が離せなかった。ま、まさか…ううん、川口なんて名字…別に対して珍しくない。そう、きっとこの日本にはこの名字なんて溢れているはず…だけど…!


「あ、あの…?」


彼は自分の胸元に私の視線が集中している事に気づいたのか、ハッ吐息を飲む気配を感じた。


「あ…こ、これは…」


そして彼は私の事を悲しげな目で見ると言った。


「加藤…さん…」


「!」


その言葉に私の肩がビクリとなった。あぁ…そっか…やっぱり…そうだったんだ…。


「僕…この後、30分間の休憩に入るんです…あの公園で…待っていて貰えませんか?」


「…分かりました…」


この誘いを…断ってはいけない。私はそう思った―。




 公園の日差しのあるベンチでこれから何が起こるのか…ドキドキしながら座って彼を待っていると、不意に背後から声を掛けられた。


「お待たせしました」


「あ、い・いえ!」


思わず立ち上がると彼はクスリと笑い、言った。


「どうか…座って下さい」


「は、はい…」


彼に促されて再びベンチに座ると、彼も隣に座ると言った。


「すみませんでした…」


突然出てきた謝罪の言葉に驚いて彼を見た。


「え…?な、何故謝るのですか?」


すると彼は私の方を向いた。


「僕は…最初から貴女が誰か知っていたんです…。兄から…聞かされていたから。写真も見せて貰っていたし…」


「!」


兄…や、やっぱりそうだったんだ…。自分の身体が震えるのを感じた。


「加藤さんと付き合う前から兄は話してくれていました。好きな人が出来たけど、自分の事は眼中に無いみたいだって。だけど…それでも諦めきれなくて、友達でもいいから会えるようになれたって…嬉しそうに言ってました」


「…」


私は川口さんの言葉を黙って聞いていた。


「それで…兄が加藤さんと恋人同士になれたって話を聞いたときは2人でお祝いしたんですよ。その時に初めて加藤さんの写真を見せて貰いました」


「そ、そう…なんですか?」


「あ、あの!しゃ、写真に付いては…僕が強引に頼んだんです。そんなに兄が夢中になるなんて…一体どんな女の人なのか知りたくて…!ほ、本当にすみません…」


段々彼の声が小さくなっていく。


「いいですよ、別に。そんなに謝らないで下さい。でも…知りませんでした。直人さんに弟さんがいたなんて…」


そう言えば直人さんは家族の事は口にしたことが一度も無かったっけ…。


「兄は…あまり父とはうまくいってなかったので。僕と兄は母親も違うし…」


「…」


私はその話を黙って聞いていた。だって…私だってお姉ちゃんとはまるきり血の繋がりはないのだから。お姉ちゃんは…どういう経緯があったかは分からないけれど、私が生まれる前にお父さんとお母さんの手によって…養女として引き取られているから。


「父と折り合いが悪くて…兄は家を出たのに、経営が傾きかけて父は兄に泣きついて…それがあんな事になって…」


そして川口さんは私を見ると言った。


「でも、信じて下さい。兄は決して加藤さんが嫌いになって別れたわけじゃないんです。それだけは…!」


「はい、大丈夫です。分かっていますから…」


私は静かに答えた。


「僕は…兄を犠牲にした父が許せなくて、あの家を出たんです。兄はずっと加藤さんの事を気にしていて…だから…僕は散々悩んで…兄の代わりに加藤さんが今どうしているのか、様子を見に行ったんです。兄の当時住んでいたマンションは知っていたし、その隣のマンションに住んでいるって事は聞いていたから…。そしたら…もう引っ越ししたあとで…。だから余計にずっとずっと気になって…兄に言えば何故勝手なことをしたと責められそうだったから話すことも出来なくて…。だけど、これだけは信じて下さい。あのファミレスで初めて会ったのは…本当に偶然だったんです!」


川口さんは真剣な目で私を見た。


「信じられませんでした…まさか加藤さんとあんな場所で会えるなんて…それに新宿で会った時も…こんな偶然て本当にあるんだなって。その次に会えたときは…もう僕の中ではこれは偶然じゃなくて必然なんだろうなんて勝手に思い込んでしまって…本当にすみません。でも…会えて良かったです。兄の事で…伝えたいことが合ったから…」


「直人さんの…事で…?」


「兄が…川口家電の社長に就任したんです」


「え…?」


私は思わず川口さんを見た―。

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