表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

312/511

第18章 24  3人の大晦日

ゴーン

ゴーン

ゴーン…


テレビで除夜の鳴る音を聞きながら私達は3人でダイニングテーブルで年越しソバを食べていた。


「…」


3人でこうやって年越しを迎えるなんて…去年の事を思い出すとまるで夢みたいだ。去年の私は…本当に孤独だった。そして今の私も心にぽっかりと埋められない孤独の穴が開いている。だけど、それでも傍にお姉ちゃんと亮平がいてくれる。でも来年からは?この2人は近い将来結婚する。そうしたら、私は今度こそ本当に孤独になってしまうのだろうか…。


「な、何?鈴音ちゃん」


「どうしたんだよ、鈴音」


不意にお姉ちゃんと亮平が声を掛けてきた。


「な、何?」


「何って、さっきから…」


「俺たちの事、交互に見てくるじゃないか」


「え?そうだった?」


気付かなかった。私、いつの間にか2人の事見つめながら年越し蕎麦食べていたんだ。


「このお蕎麦美味しいから2人はどんな顔して食べてるかなって思ったからかな?」


「ええ、たしかに美味しいわね」


「うん、それに海老天も旨いし」


亮平が大ぶりの海老を箸でつまみながら言った。


「お蕎麦なんて食べるの1年ぶり…」


言い掛けて思い出した。そうだ…去年一緒にお蕎麦を食べたのは直人さんとだったんだっけ。あの当時はまだ恋人同士じゃなかったけど…。


「どうした?鈴音、ぼんやりして」


「え?あ!な、何でも無いよ!」


私は慌てて首を振ると、残りのお蕎麦を食べ進めた―。



****


「あ〜蕎麦、旨かった」


年越し蕎麦を食べ終えた亮平はごろりとソファの上に寝転んでいる。


「食べてすぐ寝たら牛になるよ」


食器の後片付けをしながら私は亮平に声を掛けた。お姉ちゃんは自分で片付けるといったけど、精神安定剤の薬を今もずっと飲み続けているお姉ちゃんはすごく眠そうにしていたから、先に部屋にあがってもう休んでいる。


「亮平もこんなところで寝ないで客間で寝なよ。お姉ちゃんが布団敷いてくれているんだから」


「俺はまだ寝ないぞ。今夜1時から始まる音楽ライブの番組を見るんだから。鈴音の好きな歌手も出るぞ」


「え?そうなの?だったら私も観ようかな」


「何だよ、お前は寝なくていいのか?お前だって事故の影響で突然眠ってしまう発作が合っただろう?」


「あんなのはもう治ってるよ。薬だって今は飲んでいないんだから」


「ふ〜ん、そうか。なら一緒に観るか?」


「うん、観る」


時計を見ると15分で番組が始まる。私は急いで後片付けの続きを再開した―。




「はい、どうぞ」


センターテーブルの上にグラスに入れた梅酒をコトンと置いた。


「お?梅酒か?気が利くじゃないか」


亮平は嬉しそうにグラスを手に取ると、カランと氷の音がグラスで鳴った。


「ただテレビ観るより何かお酒飲んだ方が良いと思ってね」


床に座りながら言うと、グイッと梅酒を飲んだ。


「フフ…甘くておいし〜い」


思わず笑みを浮かべると、何やら視線を感じた。


「?」


見ると亮平がソファの上から床に座っている私を見下ろしている。


「何?」


「あ、いや。随分幸せそうな顔して梅酒飲むなと思ってさ」


亮平は視線をそらせながら言った。


「幸せ…」


ポツリと言った。テレビ画面には私の大好きな女性歌手が歌を歌っている。幸せ?私は今幸せなのだろうか?違う、幸せなのはお姉ちゃんと亮平だ。だって2人は今年結婚するんでしょう?

そうだ…。亮平になら…。


「何だよ?人のことガン見して…」


亮平が尋ねてきた。


「あ、あのさ…亮平は…」


駄目だ、怖くて聞けない。お姉ちゃんと今年結婚するの?なんて…。やっぱり2人から報告される迄は知らんふりしておこう。


「何でもない!」


私は度数の強い梅酒を一気飲みすると、さらにテーブルの上に置いておいた梅酒の瓶に手を伸ばした。


「おい、まだ飲むのかよ?この間みたいに酔いつぶれたらどうするんだよ」


亮平が声を掛けてきた。


「大丈夫だよ、だってここは家なんだから。亮平も飲みなよ。梅酒好きでしょ?」


「ああ、まあな…」


そして私と亮平は1杯、2杯と梅酒を重ね…気付けば私はまぶたを閉じていた―。




<鈴音…鈴音…>


 誰かが遠くで私の名前を呼んでいる。ひょっとして…私を呼ぶのは直人さん?まぶたが重くて目を開けられない。

その時、唇に何か触れる気配を感じた。それがキスだと気付き、私は首に腕を回して自分からも押し付けた。

ああ、きっと直人さんだ。直人さんが戻ってきてくれたんだ…。


「直人さん…」


名前をつぶやき、私は再び意識が沈んだ―。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ