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第16章 19 かかってきた電話

 連れてこられた場所は駅前にあるカフェだった。女性は私の方を振り向きもせずに店内へ入っていき、窓際のボックス席に座ると言った。


「加藤さん、貴女も座って」


「はい…」


すっかり相手に主導権を握られる形で、私は上着を脱ぐと座席に置いて椅子に座った。


「あら、貴女…随分スタイルはいいのね?」


褒め言葉と取っていいのか分からず戸惑っていると女性は言った。するとウェイターが現れ、女性は私に尋ねもせずにメニューを注文してしまった。


「ウィンナコーヒー2つ」


「かしこまりました」


ウェイターが下がると女性は言った。


「一応自己紹介しておくわ。私の名前は常盤恵利。よろしく」


「は、はい…こちらこそよろしくお願いします」


よろしく?よろしくって一体何?私はよろしくなんてしたくないのに…。でもこの女性はどうしてこんなに強気な態度に出られるのだろう?恋人を奪われたのは私の方なのに…。


「でも良かったわ…直人の元カノが貴女みたいな大人しいタイプで。あっさり身を引いてくれたようだしね」


身を引くも何も別れ話がないままにこんな状況になってしまったのに?


「あの…別に私は直人さんから別れ話もされませんでした。突然こんな事になっただけですから…」


「何?それじゃ貴女ひょっとして直人と別れないつもりなの?」


恵利さんの目が釣り上がる。美人なだけに迫力があって正直少し怖かった。


「別れないとは…」


言いかけた時、突然恵利さんは長3型の分厚い封筒を私の前に置いた。


「え?」


訳が分からず首を傾げると恵利さんが言った。


「100万入ってるから、早く直人の部屋の合鍵を返しなさい。それに24日のホテルの宿泊券2名分、どうせ今の貴女には無用の長物でしょう?このお金と引き換えに渡して頂戴。私と直人で使うから。残りは私からの手切れ金よ。」


「!」


その言葉に硬直してしまった。何て目の前の女性は残酷な事を平気で言える女性なのだろう?だけど…。


「お金は…いりません。鍵もお返しします。」


持参していたバッグから直人さんのマンションの鍵を取り出すと恵利さんの目の前に置いた。ちょうどその時にウェイターがコーヒーを持って現れた。


「お待たせいたしました」


そして私と恵利さんの前にコーヒーを置くと、ごゆっくりどうぞと言って去る。


「この鍵…本物よね?」


「はい。ずっと…持ち歩いていました。」


いつか返せる日が来る為に…。


「そう、未練がましく持っていたのね」


恵利さんはフッと笑って言うと鍵を自分のバッグにしまい、コーヒーを一口飲んだ。

未練がましく…そんな風に取られてしまうなんて…。


「それで、ホテルのチケットはどうしたのかしら?」


「あの、それは流石に持ち歩いていません」


「あら?ひょっとして…貴女あのチケット使うつもりだったのかしら?1人で?それともさっきの男性とかしら?」


流石に大田先輩の名前を口に出された私は黙っていられなかった。


「ですから、先程の人はただの会社の先輩です。それに…お金なんかいりません。お返しします」


私はテーブルの上の封筒を恵利さんの方に押しやった。


「何よ…無理しちゃって。お金無いんでしょう?手切れ金として受け取りなさいよ」


「いいえ、結構です。貴女の為に別れるんじゃありません。私は…直人さんを困らせたくないから…身を引くんです」


その時…


トゥルルルル…


恵利さんのスマホが鳴った。彼女はバッグからスマホを取り出すと笑顔になった。


「直人からだわ!」


え…?!


その言葉に私は血の気が引く気がした―。





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