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第3章 1 恋する心を封じ込めて

 結局私たちは進さんのお葬式にも参加させて貰う事を許されず、お墓の場所すら教えて貰う事が出来なかった。

そしてあの日を境に、お姉ちゃんはすっかり変わってしまった。

まるで抜け殻の様になってしまい、会話もままならなくなってしまった。こちらの質問には首を振ったり、頷いたりとコミュニケーションは取れるものの、言葉を発する事をしなくなってしまった。自分で食事を取ったり、着がえやお風呂に入ったりと必要最低限の事は出来るけれども、それ以外は1日中ぼ~っとしてるか、1日中泣いて過ごすかのどちらかになってしまった。

 当然、こんな状態なってしまったからお姉ちゃんは仕事に行くことが出来なくなってしまった。なので会社には私から連絡を入れた。人事部の人はとても良い人で、お姉ちゃんの状況を理解してくれて、とりあえず半年間の休職扱いにしてくれた。そしてここから私も忙しくなった。


家事、お姉ちゃんの世話、そして仕事・・・。


 毎日が忙しすぎて疲労がたまっていたけれども、お姉ちゃんの為にも弱音を吐くことが出来ない。だってお父さんとお母さんが飛行機事故で死んでしまった時、自分だって辛いのに、私の世話をしてくれたのはお姉ちゃんだったから・・。


 そして進さんが死んでしまってから半月が経過した頃・・・。


「おい、鈴音。大丈夫か?」


家にやってきた亮平が私に声を掛けてきた。丁度その日は久しぶりに土曜日に仕事の休みを取ることが出来て、掃除や洗濯を終わらせた時の事だった。

お姉ちゃんは自分の部屋で眠っているし、気が抜けてしまった私はソファに座ってうつらうつらしていたらしい。


「あ・・・亮平・・・いらっしゃい、来ていたんだね。」


欠伸を噛み殺しながら目を擦ると亮平が顔を覗き込んできた。


「な、何?」


あまりに視線が近くて声が上ずってしまう。


「鈴音・・・お前、顔色が悪すぎる。そんなんじゃ・・今にお前、倒れてしまうぞ?お前が今倒れたら・・・誰が忍さんの面倒を見るんだよ。」


亮平の言葉に私は言った。


「亮平がいるでしょう?」


「へ?俺?」


「そう。」


「だけど、俺は・・・。」


「お姉ちゃんの事・・・好きなんでしょう?今も。」


「ああ、勿論だ。」


恥ずかしげも無く頷く亮平。そっか・・・なら・・・。


「ねえ・・・亮平。」


「何だ?」


「お姉ちゃんを・・・助けて。」


「え・・?助けるって・・・?」


「進さんの代わりに・・・なってあげてよ。」


いつしか私は真剣な表情で亮平の袖を掴んでいた。


「か、代わりになるって・・?」


「だから・・・私もお姉ちゃんの為に・・お姉ちゃんが元気になるように頑張るけど・・亮平も出来るだけ、お姉ちゃんに寄り添ってあげてよ・・。いつか進さんの代わりになれる位に・・・そばにいてあげてよ・・・。」


亮平は子供の頃からずっとお姉ちゃんの事が好きだった。今まで女の子と付き合ったこともあるけれど、皆長続きしなかった。それも・・・根底にあるのは亮平はお姉ちゃんの事が好きだったからだって事位私は知っている。

だって・・私も亮平の事が子供の頃から好きだったんだから・・・!


「忍さん・・・俺の事・・・受け入れてくれるかな・・?」


亮平の言葉に胸が痛む。


「うん、他の男の人じゃお姉ちゃんを立ち直らせる事・・無理かもしれないけれど・・でも、きっと亮平なら大丈夫だよ。」


私には確信がある。だって・・・2人の事を誰よりも知っているのは私だから・・。


「お願い、亮平。お姉ちゃんの・・・彼氏になってあげて下さい。」


私は亮平に頭を下げた。


「わ、分かった・・・。俺、忍さんに1人の男として見て貰えるように・・・努力するよ。」


「うん、お願い。」


この日、私は亮平に心の中でさよならを告げた。もう後戻りは出来ない。私はお姉ちゃんを助ける為に自分の15年間亮平を思い続けていた恋心を封印する事にした―。



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