第13章 4 謝罪の言葉
川口さんは私の姿を見ると、すぐに謝って来た。
「本当に・・・ごめん。いきなりマンションに押し掛けたうえ・・突然抱きしめてしまったりして・・。驚かせてしまったよね？」
「た、確かに・・驚いたけど・・・。」
「本当に・・悪かったと思っているんだ・・。」
川口さんは申し訳なさそうに言う。
「う、うん・・。」
「・・聞いたよ。」
「え？」
「酷い交通事故に遭ったって・・・。」
「あ・・。」
そうだ・・・そう言えば私は事故に遭う前に川口さんと焼き鳥屋に行く約束をしていた。・・・結局それは叶わなかったけれども・・。
「ごめんなさい・・約束守れなくて・・・。」
謝ると、川口さんはクシャリと顔を歪めて言った。
「そんな・・そんな話はどうだっていいんだっ！だけど・・俺が加藤さんの交通事故を知ったのは・・・あの約束の日のずっと後の事だったんだよ・・。だって・・俺は・・加藤さんの連絡先を知らないから・・・連絡する事も出来なかったし・・。」
「あ・・。」
そうだった。私は川口さんから連絡先を聞いているのに、わたしの連絡先は川口さんには教えていなかった。だから・・当然川口さんは私の交通事故の話を知る由も無かったのだろう。
「あの日・・いくら待っても加藤さんは現れなかったから・・すごく心配になって・・悪いとは思ったけどマンションを訪ねたんだ。そしたら・・何だか様子がおかしい事に気が付いたんだ。郵便受けには名前は載っているのに、ガムテープが張られて入れられないようになっていたし・・・外からべランドを見れば、電気もついていないで真っ暗だったし・・・。それが何日も何日も続いて・・・。」
「・・・。」
私は黙って川口さんの話を聞いていた。そうだった・・・会社には連絡はいったけど・・彼に私の事が伝わるはずは無いのだから。何と答えればよいか・・うまい言葉が見つからなかった。
「ある日、偶然加藤さんの幼馴染にここでばったり出くわしたんだ。それで・・俺は彼に問い詰めたんだよ。加藤さんの事を教えてくれって。」
「亮平に・・？」
「お前には関係ないから教える義理は無いって強く突っぱねられたけど・・加藤さんと焼き鳥屋に行く約束をしていたことを持ちだしたら・・ようやく教えてくれたんだよ。加藤さんが交通事故に遭ったって言う話を・・。」
「そう・・だったの・・？」
「布団が干してあったって事は・・今日退院したって事なんだよね？」
「う、うん・・・。」
「それで？怪我の具合は？交通事故の後遺症とかは大丈夫だった・・？」
しかし、そこで川口さんはハッとした表情を見せた。
「ご、ごめん・・。加藤さんのプライバシーの事なのに首を突っ込むような事。尋ねて・・。」
「べ、別に・・気にしないで・・。」
川口さんに掛ける言葉が見当たらない。
「でも・・良かったよ。こうしてまた会えて・・・。」
そして改めて私をじっと見ると川口さんが言った。
「髪・・・伸びたんだね？」
「う、うん・・そうだね。」
入院前・・私の髪は肩に届く位の長さしかなかった。でも・・・今は違う。私の髪は肩を超えた長さになっていた。伸びた髪の長さが・・私の長かった入院生活を物語っている。
「あの・・さ、加藤さん・・・。！」
川口さんが口を開きかけた時、突然彼の顔が険しくなった。その直後、背後で声が聞こえた。
「あ！また・・お前かっ？！性懲りもなく鈴音の前にまた現れたのかっ？！」
驚いて振り返ると、仕事帰りと思われる亮平の姿がそこにあった―。
