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第11章 11 お詫びついでに・・・

 季節も2月半ばへと入っていた。


今日は遅番の日だったので私は小腹を減らしながら足早にマンションと向かっていた。

町の中は人であふれ、店先であちこちでバレンタインフェアを開催している。


「明日いよいよバレンタインか・・・。」


紙袋を片手に白い息を吐きながら店先に出ているのぼりをチラリと見た。


今迄の私は毎年欠かさず亮平にバレンタインのプレゼントを渡していた。しかも市販品ではなく、毎回手作りチョコや、チョコレートケーキを作って渡していた。

けれど、もう今年は・・私は亮平にはバレンタインのプレゼントはしないと決めていた。その代わり、職場の人たちに手作りのチョコを渡すつもりで、今日のお昼休みにチョコの材料を買ってきたのだ。


「早く帰ってチョコを作らなくちゃ。」


私の趣味はお菓子作りだった。まだお姉ちゃんと仲良く暮らしていた学生時代は時間があればクッキーやケーキを作っていたけれども、社会人になってからはさっぱりお菓子作りからは遠ざかっていた。でも、明日はバレンタインだし、久しぶりに何か手作りのお菓子をつくって見ようと思ったのだ。


住宅街に入り、後半分くらいの道のりでマンション・・と思った矢先に前方から男の人が歩いてきた。そしてその男性は街灯の下で突然ピタリと足を止めると声を掛けて来た。


「もしかして・・加藤さん?」


「え・・?川口さん・・?」


「何だか・・久しぶりに感じるな。・・元気にしていた?」


川口さんは私に近付いて来ると数歩手前で足を止めた。


「う、うん・・元気にしていたよ・・?」


別に川口さんとは付き合ったことも無いのに、何故か居心地が悪くて私は目を伏せながら返事をした。だけど・・こんなところで会うことになるとは思わなかった。最近ずっと会う事も無かったし・・。ううん、逆にそもそも今まで会わなかったことの方が不思議なのかもしれない。だって住んでるマンションは隣同士だし、ゴミ出しの共有スペースも同じなのに、一月近く顔を合わせなったのだから。


「加藤さん・・その紙袋、重そうだね。マンションの前まで持って行ってあげるよ。」


突然の川口さんの申し出に驚いてしまった。


「え?あ・・そ、そんな。これ位は1人で持てるから大丈夫だよ。」


だけど川口さんは言った。


「いいからいから。マンションまではまだ5分以上歩くし、そんな細い体なのに重そうな荷物を持って・・・。さっきふらつきながら歩いていたじゃないか。」


ふらつきながら・・?自分では意識していなかったかもしれないけどそうだったのかな・・?だけど・・・。


「川口さん・・・本当は駅の方に用事があったんじゃないの?だってマンションの方から歩いてきたじゃない。」


「あ・・・うん。実は・・コンビニへ行こうとしていたんだ。でも別にいいんだ。行かなくてもさ。ほら、持つよ。」


「あ。」


川口さんは半ば強引に私から紙袋を取ってしまった。仕方ない・・。

心の中で溜息をついて、仕方なく川口さんと2人でマンションへ向かう事になってしまった。


「・・・。」


 隣を歩く川口さんをチラリと見ながら思った。う・・気まずい。どうしよう・・何か話さなくいちゃいけないのに・・。


その時・・・。


「ねぇ、これ・・何が入っているの?」


不意に川口さんが尋ねてきた。


「え?あ・あの、これは・・明日はバレンタインだから職場の人たちにチョコレートを作ろうと思って・・その材料だよ。」


「そうか・・明日はバレンタインだったね。彼にもあげるの?」


「え?彼って?」


「加藤さんの幼馴染だよ。」


「・・ううん。あげるつもりは無いよ・・それに会う約束もしていないし・・。」


「どれくらい作るつもりなの?チョコ・・あまりそう?」


「え?」


突然何を言い出すのだろう。驚いて顔を上げると、そこには真剣な目で私を見る川口さんがいた。


「好きなんだ・・。」


「え?!」


ま、まさかの・・告白っ?!そ、そんないきなり・・。思わず焦っていると、川口さんは言った。


「俺・・実は甘いものが大好きなんだ。それで・・・さっきもコンビニへ買いに行こうかと思って・・。」


川口さんは照れたように言う。あ・・・何だ・・そっちか・・。途端に安堵のあまり笑みが浮かんでしまった。


「何?」


川口さんは突然私が笑みを浮かべたのを見て不思議そうな顔をした。


「川口さんはでも・・彼女からチョコ貰えるんじゃないの?」


「いや、彼女とは別れたから。」


川口さんが素早く応える。


「え?あ・・そ、そうなの?ごめんなさい・・・。」


咄嗟に謝ると、川口さんはとんでもないことを言ってきた。


「それじゃあさ、お詫びついでに・・・俺にもチョコ・・作ってくれるかな?」


「え・・・?」


そこには笑みを浮かべた川口さんがいた―。





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