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第11章 5 一番にはなれない

「え?キス・・・?だ、誰と誰が・・?」


「何とぼけた事言ってるんだよ。お前と井上って男だろう?」


「え・・?わ、私と井上君が・・・?」


嘘だ・・・私と井上君はそんな関係じゃない。


「何だよ?まるでそんな事していませんって顔してるよな?」


「だ、だって・・・私本当にそんな覚え・・・。」


そこまで言いかけて、私にある記憶が蘇ってきた。去年まだ私がマンスリーマンションに住んでいた時・・井上君を部屋にあげて2人で部屋でお酒を飲んで・・・目が覚めたら井上君がいなくなっていた。ひょっとしてあの時に・・・?


亮平はまるで私の考えを読んだかのように言う。


「その顔・・やっぱり何か心当たりがあるって感じだな?」


「・・・・。」


何とも答える事が出来ず、思わず口を閉ざしてしまった。


「やっぱりな・・・。」


亮平は肩をすくめると言った。


「それで・・・正直な処、どうなんだよ?あの男と付き合っているのか?」


「べ、別に・・私は井上君とは付き合ってはいないから。」


「でもキスはしたんだろう?」


「・・・ていないんだもの・・・。」


思わず声が小さくなってしまう。


「何?何て言ったんだ?」


「だ・・だから・・覚えていないんだってばっ!あ、あの時は・・よ、酔っていたから・・。」


「何だって?」


亮平の声色が変わる。


「覚えていないって・・・一体どういうことだよ?鈴音。」


どうして亮平はこんなにしつこく聞いて来るんだろう?でもちゃんと答えないといつまでも追及が続きそうだし・・・。


「い、以前・・井上君を部屋にあげて2人でお酒を飲んだことがあって・・ひょっとしたらその時に・・・。」


「何?!鈴音・・・まさかお前・・井上と・・?!」


亮平が何を考えているのか分かったから私は慌てて否定した。


「ち、違うのっ!絶対に・・亮平が考えているような変な事は無かったから・・!」


必死で否定する。と言うか・・・どうしてここまで亮平に話さなければならないのだろう。今は・・こんな私の話よりも、もっと重要な話があるのに・・!


「お前なぁ・・・何も無かったと言われて、はいそうですかって納得できると思っているのかよ?」


溜息をつきながら私を見る亮平にもう我慢出来なくなった。


「・・もう、いいでしょう・・?」


「何が?」


「だから・・私がどこの誰と、どんな関係になろうが亮平には関係ないでしょう?」


「お前なあ・・俺は鈴音の事を心配して・・・。」


「わ、私と亮平はっ!」


気付けば大きな声を上げていた。


「鈴音・・。」


亮平が驚いて私を見る。


「そもそも・・・私と亮平は・・ただの・・お隣同士の幼馴染ってだけの・・関係なんだから・・私がどこで何をしようが・・いいでしょう?」


そうだよ・・私と亮平は恋人同士でも何でもないんだから・・・。


「お前・・本気でそんな事言ってるのか?」


「そんな事よりも、もっともっと大事な事を話さなくちゃならないんだよ?私の話なんてどうでもいいじゃないの。」


「どうでもいいって・・・お前・・・。」


何故か亮平が困った顔で私を見ている。


「亮平。よく聞いて・・・。笠井先生が・・亮平と話をしたいって言ってるの。」


「え・・?俺と話を・・・何でだよ?」


「それは・・・笠井先生から直接話を聞いて。私は・・・よく分らないから。」


もう今夜はこれ以上亮平と一緒にいたくなかった。私の事を身持ちの軽い女としてしかみていない亮平とは・・。私が好きな相手はいつだって亮平だったのに・・・。


「私・・帰る。」


立ち上がってコートを羽織った。


「おい、待てよ!勝手に1人で帰ろうとするな。」


亮平も慌ててコートを着ると、伝票を持って立ち上がり、さっさとレジへ向かってしまった。そして私が何か声を掛ける前にスマホ決済をして支払いを済ませてしまった。


無言で自動ドアをくぐって外へ出て行く亮平の後を追うように私も店に出ると、言った。


「ねえ、私の分払うから・・金額教えて。」


「いいよ、別に。」


亮平は私の方を見もせずに前を歩く。


「だけど・・・。」


「鈴音。」


すると不意に亮平が振り返った。


「な、何?」


「もし・・実際に誰かと付き合おう事になったら・・俺に教えてくれ。そうしたら・・俺も相手の男に配慮した行動をとるようにするからさ。」


「配慮・・・?配慮って?」


「そうだな・・たとえば、こんな風に2人で出掛ける事や・・・頻繁に連絡を取るような真似・・とかさ。」


「・・うん、分った。そうしてくれると・・・助かる。」


私は強がりの返事をした。


だって結局私は亮平の一番にはなれない存在だから―。



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