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第9章 15 逃げる私

「あの・・そ、その写真は・・。」


そこで言葉を切るとおばさんが言った。


「鈴音ちゃん、座って頂戴。」


おばさんは空いているソファを指さしてきたので私はおとなしくそこに座ることにした。そしてチラリと顔を上げると、そこには亮平、おじさん、おばさん・・・6つの目が私をじっと見つめている。


「鈴音・・・この写真・・一体どうしたんだよ・・お前の家族写真だろう?何で鈴音の映り込んでいる部分だけ・・こんなに切り裂かれているんだ?」


亮平は右人差し指で写真をトンと突くと尋ねてきた。


「それは・・・。」


お姉ちゃんが・・・。そう言おう落とした時・・・。


「まさか自分で切り裂いたのか?」


亮平の次の言葉に耳を疑った。


「え・・・?」


何・・?今、亮平何て言ったの?私が自分で自分の写真を切り裂いた?そう言ったの?どうして私がそんな事しなくちゃならないの?

すると・・・。


「亮平っ!何を言っているんだっ?!鈴音ちゃんが・・自分でこんな真似をするとでも思っているのかっ?!」


「そうよ、亮平!いい加減にしなさいっ!こんな事をするのは・・たった1人しかいないじゃないのっ!」


おじさんとおばさんが亮平を交互に叱責した。


「だ、だけど・・・。」


亮平は言葉を詰まらせながら、私を見ると言った。


「まさか・・忍・・なのか・・?」


「鈴音ちゃん。この写真は一体どこで見つけたの?どうして持ち歩いていたりしたの?」


おばさんが真剣な目で見つめてきた。


「その部屋は・・・お姉ちゃんの部屋で・・見つけました・・・。」


まさか・・ポケットに入れておいた写真がよりにもよって亮平の家で落としてしまうなんて・・。もうこうなってしまった以上、いつまでも秘密にしておくことは私には出来なかった。


「今日・・お姉ちゃんの部屋で荷物の整理をしていたら・・・本棚の隙間から紙のようなものが飛び出していることに気が付いて・・・何だろうって思って引き抜いてみたら・・・この写真が挟まっていたんです・・・。」


「そうだったの・・それで、どうして持ち歩いていたの?」


おばさんが優しく尋ねてくる。


「そ、それは・・写真をお姉ちゃんの部屋に残しておくのが怖かったから・・。」


俯いて話すとおばさんがそっと肩を抱いてきた。


「鈴音ちゃん・・・そうよね・・こんな写真見つけたら・・誰だって怖いわよ・・。自分の映っている場所だけ、こんな風に傷つけられるなんて・・。やっぱり、忍ちゃんは怖い人だわ。」


おばさんがため息混じりに言う。


「ああ、そうだな・・・。昔から忍ちゃんは・・・。」


おじさんも言いかけた時・・。


「やめろよっ!」


突然亮平が大きな声を上げた。


「亮平・・・。」


おじさんが驚いたように亮平を見る。


「やめろよ・・。母さん・・それに父さんも・・・。2人揃って何で忍の事を悪人のような言い方をするんだ?今・・誰よりも苦しんでいるのは忍だって言うのに。両親を交通事故で亡くしてからはずっと鈴音の面倒を見てきたし・・・それに交通事故で婚約者を無くして、どれだけ辛い目に遭ったか・・・だから忍は心が病んでしまったんだろう?治療の為に頑張っている忍の悪口は俺が許さないからな?たとえ親だろうと・・。」


私は黙って亮平の話を聞いていた。


「な・・何ですって・・・?それじゃ亮平!忍ちゃんが・・・鈴音ちゃんの映り込んだ写真をこんな風に切り刻んだのも・・・見過ごせって言うの?!」


おばさんが叫んだ。


「・・しかたないだろう?忍は・・今心が病んでいるんだから・・病気がさせている事なんだよ。」


するとおじさんが静かに言った。


「亮平・・・お前は何かと口を開けば忍さんの事しか優先して考えていないが、一度でも鈴音ちゃんの気持ちを考えたことはあるのか?」


「!」


すると亮平の肩が跳ねた。


「そ、それは・・・。」


そこで亮平は口を閉ざしてしまう。もう・・その態度を見れば一目瞭然。わざわざ話を聞くまでも無かった。

どうしよう・・・私のせいで・・一気にこの場の雰囲気が悪くなってしまった。さっきまではあんなに和やかな雰囲気だったのに・・やっぱり私は亮平の家に来るべきじゃなかったんだ。


「あ、あの・・・。」


私は立ち上がった。


「私・・・今夜は自分の家に戻ります。」


「何言ってるの?鈴音ちゃん。お布団だって無いでしょう?」


「いえ。大丈夫です。実は布団乾燥機を掛けてあるので、もうカビの匂いもしないし・・・。」


「だけど・・。」


「いいえ、自分の部屋の片付けもしておきたいので・・ごめんなさい、折角の誘いなのに・・そ、それじゃ・・お休みなさいっ!」


「あ・・鈴音ちゃんっ!」


私は頭を下げ、足元のカバンを掴むとおばさんの声から逃げるように玄関を飛び出して行った―。






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