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第8章 1 大晦日の夜

 今日は大晦日。

私の風邪が治って5日が経過した。あの日の夜、結局亮平は私の住む部屋へ来ることは無かった。けれど、自分でも不思議な事に平静でいられらた。多分亮平はお姉ちゃんに引き留められたのだと思う・・。だから私の所へ来ることが出来なかったのだろうな・・・と。


 夕方6時―


 大晦日で仕事が早く終わった私は川口さんと待ち合わせの為に新小岩駅の改札に立っていた。


「加藤さん!」


突如人混みの中から名前を呼ぶ声が聞こえた。そして駆け足で私の元へとやって来た。


「お、お待たせ・・しました・・。ちょ、ちょっと仕事が長引いてしまって・・。」


ハアハアと肩で息をしながら川口さんは私の前に立つと言った。川口さんは毛糸のマフラーにダウンジャケット、ジーンズを履いていた。


「別にいいですよ、慌てなくても。私もついさっき、来たばかりですから。」


「そうですか?それじゃ行きましょうか?」


「はい。」


そして私と川口さんは商店街へと向かった―。




****



「これなんかどうですか?彼女へのプレゼントに。」


私と川口さんは雑貨専門店へと来ていた。私が勧めたのはペアのマグカップだった。


「マグカップ・・・ですか?」


川口さんは首を捻る。


「はい、ほらこのマグカップ・・・2人の名前を入れてくれるんですよ。ペアのマグカップなんておしゃれじゃないですか。」


「う~ん・・なるほど・・。それじゃ・・加藤さんだったら何が欲しいですか?」


川口さんが尋ねてきた。


「え・・?私ですか?」


「はい、加藤さんだったら・・男性からどんなプレゼントが欲しいですか?」


「私だったら・・・。」


私は考えた。もし、亮平がプレゼントをくれるなら・・何が欲しいかな・・・。


「私なら・・。好きな人からのプレゼントならどんなプレゼントでも嬉しいな・・・。」


「加藤さん・・・?」


川口さんが不思議そうな顔で見下ろしていた。


「あ、す・すいません!今のじゃ・・・参考になりませんでしたね。う~んと・・・。あ、アロマグッズが欲しいです。」


隣のブースにはアロマ関連のグッズが棚にずらりと並べられていた。私はブースに近付くと、一つ商品を手に取った。


「ほら、これなんかどうですか?」


近くに来た川口さんに手に取った商品を見せた。


「これは・・・?空気清浄機ですか?」


丸い筒状の白い器具を見ると川口さんは言った。


「いえいえ、これはアロマディフューザーですよ。この筒の中にお水と自分の好きなアロマオイルを入れて電源を入れると上から水蒸気と共に良い香りが出て来るんです。まあ・・・加湿器みたいなものですかね?」


「なるほど・・・加湿器ですか。」


「はい、これからの季節・・乾燥しますからね。良い香りと共に乾燥を防げる・・・まさに一石二鳥だと思いませんか?」


「そうですね・・・ではこれにします。」


川口さんは展示品の隣に並べてあるケース入りの商品を手に取った。


「お買い上げですか?」


私が尋ねると川口さんは頷き、言った。


「それじゃ、レジに行って支払いして来るのでこちらで待っていてください。」


「はい。」


そして川口さんがレジに向かうと、私は別のアロマグッズを眺めていた。


やがて・・・。


「お待たせしました。」


小さな紙バックを手に川口さんが戻って来た。


「買えましたね。それじゃ帰りましょうか?」


「・・・ええ。そうですね。」




 2人で雑貨屋さんを出て商店街を歩いていると、列が出来ているお店が目に入った。


「あれ、何のお店でしょうね?行列が出来てますよ?」


私は川口さんに尋ねた。


「あ・・あれはお蕎麦屋さんですね。」


「お蕎麦屋さん・・そう言えば今日は大晦日ですからね。」


すると川口さんが言った。


「加藤さん。もしよければ一緒にお蕎麦を食べて帰りませんか?今日は大晦日だし・・年はまだ越さないけど、年越しそばとして・・。」


私はちょっと考えた。そうだな・・・今から帰宅してご飯の準備をするのもなんだし・・・。


「いいですね、では一緒に食べて帰りましょう。」


「はい!」


川口さんは嬉しそうに返事をする。・・・余程おそばが食べたかったんだろうな・・。




****


「美味しいお蕎麦屋さんでしたね~。」


2人でマンションへ向かって歩きながら私は言った。いつの間にか外はすっかり夜になり、空には満月が浮かんでいる。


「そうですね・・・。一緒に食事が出来て良かったです。」


私の背後を歩く川口さんが言った。


「え?」


思わず振り向くと、そこには街灯を背に川口さんが私をじっと見ていた。そして口を開いた。


「実は・・・・俺、本当は彼女なんかいません。3日前に・・・別れたばかりなんです・・。」


「え・・・?」


「これ・・俺からの引っ越し祝いのプレゼントです。受け取って下さい!」


「あ、あの・・?」


川口さんは私に紙バックを押し付けると、そのまま自分のマンションへ向かって走り去って行ってしまった―。






 



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