第3話 出会い・3
その後、主はこの森を抜けた先にある王都へ帰ろうと言って、置いていたバッグを背負った。
まあ、確かに帰りたい気持ちは分かるが、先に確認しておきたい事がある。
だから、俺は主を呼び止め、とある事を聞いた。
「主は、俺に名を付けてくれますか?」
「名前? あっ、そっか従魔には名前つけないといけなかったね! ごめんね。慌ててたから、忘れちゃってたよ」
「つ、付けてくれるんですか!?」
主の言葉に俺は、身を乗り出して聞き返した。
そんな俺の態度に、主は困惑して「そ、そのつもりだよ?」と返答した。
「あっ、もしかして前の主さんに付けて貰ってる名前が気に入ってるの?」
「……です」
主のその言葉に、俺は小さな声で返答した。
しかし、その言葉を上手く聞き取れなかった主はコテッと首を傾げて、再度尋ねてた。
「えっ、何て言ったの?」
「前の主に、名前は付けて貰ってないです……」
前の主には、俺は名前を付けて貰えなかった。
別に従魔使いが従魔に名前を付けるのに、何かしらの対価が必要という訳では無い。
しかし、主は最初から「おい」としか、俺の事は呼ばなかった。
「そうだったんだ……うん、分かったよ。それじゃ、私がゴブリンさんの名前付けてあげるね!」
主はそう言って、俺の顔や体を見て「う~ん」と唸りながら考え込んだ。
それから数分後、主は手をポンッと叩いて俺の名前を口にした。
「ゴブタってのは、どうかな?」
「ゴブタ……いい名前です! ありがとうございます!」
「喜んでもらえて良かった。あっ、そう言えば私の名前まだ言ってなかったね。私の名前は、アイナだよ。よろしくねゴブタ君」
初めて付けて貰った名前に、俺は主にお礼を言いながら感謝した。
俺の名前は、ゴブタ! いい名前だ!
「はい! アイナ様の為、この命が尽きるまで仕えさせていただきます!」
「無茶はしないでね? ゴブタ君とは、これからずっと一緒に過ごしたいから」
「はい!」
こうして俺は、主に名前を付けて貰って一緒に王都へと向かった。
俺が捨てられた森は、王都から近い森の中だったが逃げている最中に大分、王都へと近づいていた。
まあ、だから人間の数も多かったのだろうと、今更分かった。
「おっ、朝出て行った従魔使いの嬢ちゃんじゃねえか? 早速、従魔を捕まえたのか?」
王都の門へと辿り着くと、門兵のオッサンに主が話しかけられた。
このオッサンの名前は、確かリカルドさんだったか?
「んっ? そのゴブリン、何処かで見た事があるような……」
「お久しぶりです。リガルドさん」
「ッ! お前、まさか雑用係のゴブリンか!?」
リカルドさんは、俺が発した言葉に驚いた顔をした。
リカルドさんの叫び声に、同じく門兵の顔を知らない若い兵士が「知ってるんですか、そのゴブリンの事?」と尋ねた。
「ほら、少し前に王都を出た。Aランクパーティー【聖の戦士】の従魔使いが使役してた従魔だよこいつは、でもどうしてお前がここに居るんだ?」
「まあ、その捨てられたんですよ。森の奥で」
俺の言葉に、リカルドさんと再び驚いた顔をし、若い兵士もそれには困惑した様子だった。
「えっ、従魔を外で契約破棄って……」
「ああ、罪に値するぞ。一度、人間社会を知った魔物を野生に返すことはほぼ無い。それは、魔物が人間社会に呑まれ贅沢を知って野生を取り戻せないとかそう言うのではなく、その魔物が持つ知恵を魔物同士で共有して街を襲う可能性もあるからな」
リカルドさんはそう言って、深く溜息を吐き確認をさせてくれと〝鑑定のオーブ〟の部屋へと連れていかれた。
俺はそこで、あの日行われた追放の件と今の主との従魔契約が本当に行われているのか確認させられた。
「……本当に、そこの嬢ちゃんの従魔になってるな」
「名前も付けてもらいましたよ。今度からは、ゴブタと呼んでください」
「……そうか、名前を付けて貰えたのか。良かったな、ゴブタ」
俺に名前が無い事を知っているリカルドさんは、名前を付けて貰った事にそう言ってくれた。
その後、俺が主の従魔になった事の証明書を発根してもらい、主と冒険者ギルドへと向かった。
「すみません、主。俺のせいで、時間を掛けてしまって」
「ううん、大丈夫だよ」
「それなら良かったです。所で、主は王都の出身ですか?」
「違うよ~、王都から少し離れた村の出身だよ。従魔使いになりたくて、王都に少し前に来たんだ」
「成程、それでしたら俺が行きたい所があれば案内しますよ。これでも王都には3年程暮らしているので、ある程度の道は分かっていますから」
そう言うと、主は「頼りになるな~」と言い、丁度冒険者ギルドへと着いた。
ギルドの建物に入った俺達は、人が多くない時間だったので受付には誰も並んでいなかった。
「あら、アイナちゃん。早速、従魔を手に入れたの? あれ、でもその子もう従魔の首輪してない?」
「あっ、エレナさんこの子はちょっと訳有りで……」
主が言い難そうにそう言うと、エレナさんは俺の顔を確認した。
そして、数秒俺と目を合わせ何かに気が付いた顔をした。
「……もしかして、貴方【聖の戦士】に居たゴブリン君?」
「はい、お久しぶりですね。エレナさん」
リカルドさんに続き、俺を知っているエレナさんは俺の言葉に声は出さなかったが驚いた顔をした。
それから、この場では話が出来ないエレナさんが判断して、別室に移動する事になった。
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