これは、n度目の前章
『ねぇリート、私貴方が少し怖いよ』
僕は、どこで間違えたのだろうか。
次は、うまくやろうと思った。
でもその目論みは、全てうまくいかなかった
頭の中で雑音混じりの言葉が何度も、何度も巡る。
『貴方は、一体何を考えているの?』
きっと、彼女は僕の想いに気付いているのかもしれない。気付いた上で、そう振る舞わざるを得ないのだ。
僕は彼女に、手をかざす。
今までしてきたことだ。なにも変わらない。
計画に邪魔な因子は、取り除かねばならない。
『そう……』
彼女は複雑な表情で、それ以上を語ることはなかった。
幾度となく見てきたワンシーン。僕の魔法を一番そばで見てきたその瞳は、これから起こることをもう悟っているのだ。
自分の存在が、言葉通り〔世界から抹消される〕ということを。
後にはなにも残らない。
人々の記憶にさえも。
それは〔初めから存在しなかったもの〕に変わる。
──だが、それは嘘だ。
こうして現に僕の記憶の中には、その存在は鮮明に残っているじゃないか。
この身体の内側を無数の虫が這いずるような不快感は、いつまでも消えずにいるじゃないか。
──どうしてこうなってしまった?
誰かを護るために手にいれた力が、護ると決めた人の命を奪う。
なんと滑稽な結果だ。
なんと愚昧な顛末だ。
──これは僕が、望んだことなのか?
違う。
違う。
違う。
幾度となく同じ疑問を投げ掛ける。反駁の余地はない。答えの決まりきった、虚ろな質問。
禁忌を侵す度に、心と身体が乖離していく。
僕が僕でないような感覚と共に、心がひび割れ、汚れ、磨耗する。
結局僕は、なんのために〔最強〕になったのだろう。
あの日誓った言葉の、一体いくつを護れただろう。
最愛の人を手にかけてまで、なんのために。
「これ以上好きにさせて、たまるかよ。なぁ、そうだろ?」
一人ごちる。
傍にはもう、誰もいない。
これは復讐だ。誰に向けてでもない、このクソッタレな運命とやらに向けた復讐。
これは英雄譚などではない。僕が歩むのは、どこまでも穢れた道だ。
脳内で術式を構築する。今まで培った、全てを下敷きにして、〔理想〕を〔現実〕に変えてみせよう。
輪廻は逆転する。
因果は始点へと収束する。
時が、始まりへ加速する。