健康診断
「お前達早く縄を解くんだ」
捕らえられて縛られ甲板に放り出されたエルフの艦長は気丈にも反乱者を睨み付けて怒鳴る。
「まだ自分の立場を分かっていないのですね艦長」
艦長の視線を受けつつも露ほども気にせず反乱側リーダーである少女水兵が見下しながら答えた。
「あなたに従う士官も海兵も全て殺すか捕らえました。この艦は私の物です」
監獄船の為多数の囚人を収容していた艦である。看守でもある水兵が囚人と手を組んでしまえば、艦を乗っ取るのは容易かった。
「さて、そろそろ。罰の時間ですよ」
少女水兵はジャケットとシャツ、ズボンをゆっくりと脱ぎ始めた。
衣類の下からは白い肌と赤く爛れた鞭の跡がハッキリと見える。
「貴方に打たれた場所です。一寸した粗相で腫れ上がるまで打たれました」
嘲笑ながら少女水兵は配下に艦長を自分の元に引きずり出させる耳元で囁いた。
「今でも少し痛みます。舐めて頂きませんか」
「出来るか!」
「では、これを舐めて貰いましょう」
少女水兵は小瓶を取り出すと無理矢理艦長の口に入れ、中身を飲ませる。
「な、何を、う!」
突然艦長の身体が変わり始めた。身体はと顔は細くなるが、胸は大きく膨れあがる。
腰回りも変わる。何より、身体の中が解けて新たに臓器が生み出される間隔が伝わってくる。
「な、何だこれは!」
激痛を伴う数十秒の変化が終わった時、艦長の身体は女の物になっていた。
「囚人だった魔術師に作らせた性転換薬です。貴方が私にしたことを貴方にも受けてもらおうと作らせました」
そう言うと少女水兵は手にしていた小瓶を自ら煽った。
少女の身体の肉付きが良くなり堅くなる。同時に両脚の間の肉が膨らみ、太く長い肉棒となる。
「そ、それはなんだ……」
「擬似的な男の象徴です。何故こんなものを? 貴方のここに入れるためですよ」
いや擬似的な男となった少女水兵は、自分の指を艦長の両脚の間に滑り込ませる。
「ひっ」
「敏感なんですね。私もこんなでしたよ。貴方に突っ込まれるまでは。あの時の痛みを貴方何も受けてもらいます
「やめんか!」
水兵居住区画にウィルマの声を掻き消すように狩るの怒声が響き渡る。
「なんて物を読んでいるんだウィルマ!」
尚もウィルマが朗読しようとしていた紙をカイルは奪って無理矢理止めさせる。
「風紀を乱す読み物は禁止だぞ」
「気晴らしの読み物ですよ艦長」
ハンモックに寝転がっていたステファンが艦長に釈明した。
「長い航海なんです。こんなものでも読んでいないと、おかしくなってしまいます」
「最後の寄港地を出発してから二日も経っていないぞ。著しく海軍の品位を下げる品は条例で禁止だ。そもそも何処で手に入れたんだ」
「あっしの創作でさあ」
「お前が書いたのか!」
下士官にも上がれない不良の古参水兵と思っていたので学は無いと思っていただけに、意外な才能を持っていたことにカイルは驚いた。人は見かけによらないとはよく言ったものだ。
「だがこんなものを書くのは禁止だ。ウィルマ、読むのもダメだ。というか、嫌なら拒否していいんだぞ。階級が上でも、風紀に反する物だから命令されてもこういう者を読まなくていい。自分がされて嫌なことを読む必要はない」
士官候補生時代に受けていた虐めのことを思い出しながらカイルは言った。
階級の差があっても、娼館に売られたという悲惨な人生を歩んでいたとしても嫌なことは嫌ですと言って撥ね除けて欲しくてカイルは言い聞かせた。
だが、カイルが言ったところでウィルマは顔を赤らめ熱っぽい視線を向けてきた。
カイルの背筋に冷たい電撃が走り、身体が震える。カイルは逃げるようにステファンの方へ向き直り命じる。
「さてステファン! 風紀紊乱の罰を受けてもらおうか」
「どうぞご自由に」
何度も懲罰を受けている不良熟練水夫ステファンにとって鞭打ちも懲罰房も怖くない。
寧ろ休暇みたいなものであり、息抜きになるといった態で傲然とカイルの命を待ち受けた。
「いや罰では無く君は欲求不満で不健康なようだ。罰では無く医務室で健康診断を受けてもらう」
「風紀紊乱ってそんな重罪でしたっけ! 鞭打ち二五回か懲罰房二日でしょう」
さほどまでの余裕は吹き飛び、ステファンはハンモックから下り膝を付いて哀願する。
「その後に医務室の助手を一週間務めて貰おう」
「嫌だ! 事実上の死刑じゃないですか! 正規の軍法会議を受けさせて下さい!」
「何を言っているんだ。艦内の犯罪に関しては艦長の権限で雑役への使役で代用できる。雑役を命じるのに軍法会議など不要だ」
「医務室は地獄以上の過酷な場所です! もうしませんから許して!」
「さっさと連れていけ」
「いやだ! 止めてくれ! 艦長! 誓って二度とこのような行いはしません! だから許して下さい!」
ステファンの懇請を無視して、後ろにいた水兵達にカイルは命令する。だが一番の古株であり水兵の主のようなステファンを連行するのは水兵達には躊躇いがあった。
「お前達も健康診断が必要か?」
小声でカイルが尋ねると水兵達はバネのように勢いよく動き出してステファンを引きずり上げると、医務室へステファンの悲鳴を残して消えていった。