表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/22

落城。だが

「命中、よくやったマイルズ」


「ありがとうございます」


 カイルに褒められたマイルズは気分を良くした。

 ポート・ロイヤル鎮守府の代表としてCCC――Carry Canon Championship、大砲運搬競技会で優勝した腕を生かせたからだ。

 下士官の団結を強固にしようという思惑で作られた大会だ。

 船でも陸上砲台を攻略するために大砲を陸上に持ち込む事がある。その際に艦砲を陸上で運用するには下士官達の団結、チームワークが必要だ。

 重たい大砲を艦から下ろし、ボートか艀に乗せて浜辺に上陸させ、砲身を動かし、台車かソリを使って陸上を運び目的地へ向かう。

 しかし、その間に川や傾斜地、崖地などのの障害物がある。それらを越える必要がある。

 それらの技術を習得させるにはチームワークが必要であり、団結を結ぶには最良と考えていた。

 その代表としてマイルズは指名され他の艦の下士官と共に訓練し、多数の負傷者を出しながらも順調にタイムを短縮して行く。

 そして素晴らしいチームワークを持ったチームに仕上げ大会へ出場、見事優勝を果たした。

 だが直後に軍縮が行われ多数の艦が予備役となり乗員は解雇。

 CCCの優勝者も例外はなかった。

 だがその技がここで生かされた。

 海岸から離れていようと荒れ地でも、川でも、岩があろうと大砲の砲身を運び、時に滑車を使って吊り上げ、吊したままロープで滑らせ、目的地へ運ぶ。


「大会の障害より楽でした」


 とマイルズが言うほど大会の障害は厳しく、実際より簡単にできた。

 すぐさま大砲は取り付けられ発砲、砦の防壁を見事に粉砕した。


「砲撃! 突入口を作り出せ!」


「アイアイ・サー!」


 一度照準が付けば、あとは撃ちまくるだけだ。

 砦の壁は次々と粉砕され崩れていく。

 やがて木製の壁は無残に打ち砕かれた。


「野郎ども突撃だ!」


 その時アンが突撃を命じた。

 後ろから銃剣を突き出して追い立てなければ進まないと思っていたのだが、素直に言うことを聞いていた。


「何を考えているんだ」


 それだけにカイルはアンの動きが不気味に見えた。

 それでも突入してくれたことはありがたい。カイルは実弾射撃を中止させ空砲を撃たせる。

 実弾だと海賊泰を巻き込むが空砲ならば、大丈夫。それに音だけでも敵は怯む。

 実際ニューアングリア軍団の兵士は大砲の音が響く度に砦の中に身体を引っ込めていた。反撃を受けなかったために海賊達は次々に壁に作られた穴から突入し砦の中へ雪崩れ込んでいく。

 その勢いはレナ達を引き離すくらいだ。


「砦の制圧は成功したな」


 しかし、安堵したのは束の間だった。


「砦から煙が上がっています!」


 砦の中央の建物から黒い煙が上がっていた。

 炎も出てきており、火事が起きたのは明らかだった。


「すぐに消しに行くんだ!」


 カイルは慌てて部下達に命じた。

 砦が惜しいのでは無く、植民地経営に必要な書類や資料が砦の中にあるはずだ。

 ニューアングリア軍団によって疲弊しているからこそ、的確に救済策を立てるためにも資料は必要だった。

 ゲームと違い情報を手に入れるには書類を読まなければならない。

 その書類が燃え尽きては永遠に分からなくなる。

 カイルは慌てて消しに行った。


「何とか終わったな」


 鎮火した砦の建物の中でカイルは安堵した。

 あの後、攻略に参加していた全員を使って砦の鎮火を行った。

 幸いにも火は建物の一部を矢板だけで済み、資料は無事だった。


「艦長、ニューアングリア軍団の幹部と海賊どもがいません」


「混乱させる為に火を放ったのか」


 わざと火事を起こしてその間に逃げることを考えていたのだ。


「やれやれ、素直に言うことを聞いていれば解放してやったのに」


 圧政を敷いていたニューアングリア軍団だが人の少ない植民地では貴重な労働力だ。

 流刑地である事もあり、開拓の仕事に就かせれば良い。海賊であるアンも協力したのだから見逃してやってもよかった。


「まあ、良いだろう」


 逃がしても実害はないとカイルは判断した。しかし、それは間違っていた。


「艦長! 港からの報告でスループがマッカーサー達に奪われ、強奪されたとの事です」


「砲台は何をしていたのよ」


「砦の攻略に全員出払っておりました」


 レナは怒るが伝令は冷静に事実を伝えた。


「逃げ出すなんて愚かだな」


 海に逃げ出したところで何処に行こうというのだ。人のいる場所は何千海里も離れている。そこまで行けるとはカイルは思っていなかった。


「まあ、首謀者を捕まえなければ、統治に支障が出るな」


 犯罪者を逃してしまっては支配者の沽券に関わる。


「サプライに戻って追撃する」


 自ら海に出て追いかけることにした。

 しかし、港に戻ってくると事態はより悪化していた。


「艦長! 連中は奪ったスループで後続船団に接触。プリンス・オブ・ウェールズを乗っ取りました」


「どういうことよ!」


 予想外の報告にレナが叫ぶ。


「何故乗っ取られたのよ」


「マッカーサー達はアルビオンの国旗を掲げて接近しました。連絡事項あり、停船せよ、の旗を掲げたため船団はそのまま停船。しかしマッカーサー達はスループをそのまま近づけさせ体当たりして乗っ取りました」


「後続船団は状況が分からないからな」


 ネットも携帯もない世界だ。

 現地の情報を正確に知ることなど不可能。国旗を掲げて接近してきて停船せよと言われれば停船してしまう。


「しかしよりによってプリンス・オブ・ウェールズか」


 新たな植民地統治のための役人と海兵隊員の家族を乗せている。

 人質に取るには最適な船だ。


「とにかく現場に向かうぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ