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襲撃の後始末

 砲台から放たれた多数の砲弾は海賊船の周囲に着弾した。


「レナ、やってくれたんだな」


 砲台に翻ったアルビオン国旗を見てカイルは奪回に成功したことを確信した。

 元より海賊船から砲台に割ける人員は多くはないと踏んでいたが、迅速に奪回したのは陸上戦の指揮能力に優れるレナだからこそだ。

 返す返すも海兵隊員でないことが惜しい。


「さあ、反撃するぞ!」


 形勢は逆転した。

 今度は海賊船が砲台に狙われる側になったのだ。

 しかも砲台からは丸見えである。直ぐに数発の砲弾が海賊船の回りに降り注ぎ水柱を上げる。

 だが、アンとメアリーも歴戦の海賊だ。状況が不利なことを悟ると直ぐに転舵して沖合に向かって逃げていった。

 交戦中に奪った商船も出て行ってしまった。


「追撃しますか?」


「いや、止めておこう」


 問いかけてきたサプライの艦長にカイルは否定的な返事を返した。

 海賊船は生き残ることが至上命題であり戦闘は最小限に抑えるはず。

 襲撃の時は手段であり、仕方ないと割り切って襲っているだけで戦闘を目的としている訳では無い。

 逃げる海賊船に追いつくことは不可能だ

 サプライより海賊船が大型で外洋での航行性能に優れている。

 サプライが追いつける可能性はない。追いつけたとしても、交戦して勝てる保証はない。

 今回勝てたのは陸上砲台を奪回して援護を受けたからだ。砲台の援護の無い外洋では勝てそうも無い。


「港に戻る。それと指揮権をお返しします」


「サンキューサー!」


 カイルの言葉に、サプライの艦長は賞賛する抑揚で返事をした。




「やっぱり、返り討ちにしてきたか」


 海賊船の甲板でアンは、舌打ち交じりに吐き捨てる。

 腑抜けた植民地の軍隊モドキ相手に負けることはないと考えていたが、カイルがいるという事で警戒はしていた。

 最初は奇襲で砲台を占拠したが、反撃されて奪回されてからは直ぐに負けた。

 頭数が足りないから反撃があったら直ぐに逃げるように命じておいたことに間違いはないとアンは思っている。


「怒っているのねアン」


 隣にいた金髪の美女メアリーがアンの腕にしなだれかかる。


「ああ、こんな負け戦に手を突っ込むのは嫌だね」


 そもそも通常ならアンはこんな勝機の無い戦いなどしない。大体、地の果てのようなニューアングリアまで来ることはない。

 それでも攻撃したのは今の雇い主ガリアの意向だ。

 穢れ仕事を行う代わりに逃亡先としてガリアが彼女たちの身の安全を保証するというのだ。

 場合によってはガリア海軍の傭船として振る舞うことも許された。

 いつ後ろに手が回るか分からない海賊稼業では後援者がいた方が安心であり、アンは保険のつもりでこの仕事を引き受けた。

 報酬も良い金額だったのだから文句は無いが、危ない橋だ。


「海賊をやっても危ないでしょう」


「ああ、そうだ。だが、海賊行為なら負けない。あのカイルにも負けない。命じられて動くのが嫌なんだよ」


 規則や人間関係で縛られた軍隊生活が嫌で飛び出して海賊になったアンとしては、誰かに言われてやるのが嫌なのだ。


「でも仕事なんでしょう」


「ああ、そうだ。で、危うく負けそうになった。それが気に食わない」


「窮地に陥った自分が嫌なのね」


「そういうことだ」


 自分の苛立ちを的確に言葉にするメアリーにアンは感謝した。正体の分からない気持ちを言葉にしてくれるだけで心の安定は増す。


「でも今度は負けないでしょう」


「ああ、勿論だ。火種は残した」




「損害はどうだ?」


 朝日を浴びながらカイルはレナに状況を尋ねた。

 海賊船を撃退して直ぐにジャクソン・タウンに戻ったが、町は火災を起こし大混乱状態だった。ニューアングリア軍団も居らず、カイル達は徹夜で四方八方に飛び回り混乱を鎮めた。


「家が何軒か壊されて火を付けられている。消火に当たっているけど合わせて半分くらいが失われたわね」


 そのうち何件かはレナが破壊した物だが海賊の侵入を防ぐためにバリケードにしていたので文句は言えない。


「商船が一隻奪われてハルクの一隻が荒らされた。さらに一隻を燃やされた訳か」


 物資不足の所に更に物資が失われたのは大きな損失だ。


「まあ、多少の物資は持ってきているし、家が建つまでは輸送船を家代わりにすれば良い。死傷者は?」


「死者一〇名、負傷者三四名よ」


ヒラリー医師が報告してきた。


「それと医薬品が少ないから補充をお願い」


「分かりました。渡しましょう。離れても良いんですか」


「応急処置は終了。もう手の施しようが無いわ。本人の回復次第よ」


「……そうですか。ありがとうございます。しかし、死傷者が四四名? 少なくないか」


 砲台の警備や待ちの復旧に駆り出しているとはいえ、町の中の任ずが少なかった。答えを教えてくれたのはレナだった。


「行方不明者が一五三名いました。」


「行方不明者が多いな」


「襲撃のどさくさで逃げ出したオブライエンをはじめとする囚人よ。点呼を取ってようやく確認出来ました」


 レナの舌打ち混じりの報告にカイルもげんなりする。


「追跡隊を組織する?」


「いや、そんな余裕は無い。復旧を最優先にして余裕が出たら調査に出よう」


 壊された場所の修復を行うのに人手が欲しい。無理に割いて追跡しても見つけられるとは限らないし、連れ戻しても見張り回す人でも無い。

 放って置いても害は無い。こんな開拓されていない土地で生きていくことは困難だ。

 食料などを求めてジャクソン・タウンに侵入してくるだろう。

 そこを捕まえた方が効率が良い。


「それに一番問題なのはそこではない」


「クロフォード海佐。ご無事で何よりです」


 一番の問題、マッカーサーがやって来てカイルは無意識に顔を顰めた。

 しかし、直ぐに真面目な顔に戻りレナに復旧を急ぐように伝えフレンドシップに向かわせた後、マッカーサーに尋ねる。


「総督代理」


 代理の部分をことさら強調してカイルは尋ねる。


「この地の防御体勢はどうなっているんです」


「と、仰いますと?」


 何が問題なのか解らないと言う態でマッカーサーは尋ねた。


「入港したときもそうでしたが砲台の人員がだらけすぎています。入港する船に対して臨検はおろか、行進さえ行わず易々と通しています。砲台がキチンと機能していればここまでの被害を出す事はありませんでした」


「それに関しては申し訳ありません。責任者を厳重に処罰します」


 一番の責任者はお前だ、という言葉をカイルは飲み込んで更に尋ねる。


「何より襲撃があったとき総督代理、貴方は何処にいました?」


「砦にて迎撃の準備を整えておりました」


「ジャクソン・タウンの住民が襲撃されていたんですよ。海賊を撃退するために軍団を率いて迎撃すべきでした」


「町を焼いての陽動かも知れません。守りを固めていました」


「海賊がわざわざ内陸まで攻めていくわけ無いでしょう。それに少人数でも簡単に落とせるような砦ではない。それに町と砦との間に連絡網が無く状況を知る術がないことが問題です。そもそも状況を把握出来ないような内陸に置く事自体おかしい。なにより一夜経ってからようやく町に現れるなど責任者として言語道断です」


 カイルの言葉にマッカーサーは見る見るうちに不機嫌になっていく。


「ニューアングリアの事は我々にお任せ願いたい。他人の職分に踏み込むのは良くありません」


「そうですね。全くの同意です。私も命令無く勝手に自分の船を座礁させられ解体されてのですから」


「貴方の船は我々に引き渡されたはずだ」


「まだ私が同意していません。フレンドシップは今でも私の指揮下にあります。勝手に動かさないで貰いたい」


「ニューアングリアの総督になんて言い草だ」


「私は巡察使の補佐としてもここに来てます。ニューアングリアの治世を確認するのが仕事です総督・代・理!」


「皇子、このエルフの言い草はあまりに酷いのでは無いでしょうか」


 カイルの言葉に反論出来ずマッカーサーはウィリアムに振り向く。


「残念ですが私もクロフォード海佐の意見に同意しています」


 慇懃にウィリアムは答えた。

 余程怒っているのだろう、わざわざカイルを階級付で言うほどだ。普段ならばカイルとついつい言ってしまうほど無頓着なのがウィリアムだ。

 なのにわざわざ力を込めて言っているのは怒っている証拠だ。


「総督代理、巡察使の権限をもって貴方を解任します。後任は暫くの間、このクロフォード海佐に任せます」


「こんな若造に、今日来たばかりのニューアングリアを任せられるのですか!」


「住民の中に適任者が見つかるまでの間です。貴方は今を持って総督代理から解任します。貴方の財産も凍結し、開拓地の分配を再検証します」


「……巫山戯るなガキ共」


「え?」


 巡察使逸れも皇子に向かって悪態を吐いたことにカイルもウィリアムも驚いた。


「遠くから来た連中に勝手にされてたまるか」


 マッカーサーが手を上げると、後ろにいたニューアングリア軍団が一斉にカイルとウィリアムに向けて銃口を向けた。 

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