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13/22

ニューアングリア軍団

 ウィリアムの命令もあり、カイルは一月ぶりに陸上に上がった。

 いつもの事ながら常に揺れている船から陸に上がると揺れていないことに身体が違和感を覚える。

 それが懐かしいと思えるのは自分が船乗りである証のようにカイルは思うが、その余韻に浸る時間は短い。

 総督代理を名乗るマッカーサーを前にしては油断できないからだ。


「馬を用意してあります。どうぞお乗り下さい」


 数頭の馬が浜辺に繋がれていた。

 元々馬の居なかった土地だが巡回用に持ち込まれていた。

 カイルはクロフォード領が馬の飼育が盛んなため、子供の頃から乗り慣れているし、隣の領地に住んでいたウィリアムも同様だ。

 二人とも簡単に馬に乗ったのを、少し残念そうにマッカーサーは見ると列の先頭に立って周囲を護衛で囲みつつ一行を案内した。

 ニューアングリアの景色は良いものではなかった。

 だだっ広い大地に所々草が生えている、貧しい大地だ。

 それで大河が流れこんでおり開墾すれば収穫が期待できるだろう。実際開墾が行われ広大な畑が作られている。

 しかし、明るい未来をカイルは想像できなかった。

 先ほど通り抜けた港町の光景、活気が無く、住民の目にも光は無かった。

 畑で作業を行う農民も貧相な身体にボロを身に纏っただけの哀れな姿だ。

 洪水で財産を無くしたにしても余りに酷い光景だった。


「貧しい人々が多いですね」


 その中を意気揚々と進んでいくマッカーサーにウィリアムが尋ねる。


「はい、洪水以降物資が不足しております。迅速な復旧復興を行う必要があります。ですから直ぐに物資の引き渡しを」


 確かにこの光景を見れば、物資不足は確かだ。

 気持ちが少しぐらついたが、次の瞬間その気持ちは霧消した。


「あちらが総督府です」


 内陸に五キロほど入った場所にある小高い丘に立てられた木造の砦をマッカーサーが指した。

 何本もの丸太を地面に刺して壁にしているだけの粗末なものだが、碌に大砲も運び込めない内陸では十分な防御だ。


「武装した兵士がいますね」


「ええ、彼等はニューアングリア軍団です」


 原住民や海賊から植民地を守るために軍隊が派遣されるのは良くあることだ。

 ニューアングリア軍団もそうした部隊の一つで、ニューアングリアの防衛と治安維持を任務として派遣されている。

 あの砦は軍団の根拠地らしい。


「あなたもあの軍団の所属ですか?」


 砦に掲げられた旗と同じエンブレムを制服に身につけたマッカーサーを見てカイルは尋ねた。


「元です。軍団と共にこの植民地に入りましたが現地除隊して開拓に専念しています。お陰で総督代理を務めささせていただいております」


「なるほど」


 カイルは納得した。

 植民地が独立しないように様々な制約を本国は課している。その一つが、現地の士官は総督になれないという不文律だ。軍隊と植民地政府が一体となったら、独立されてしまう。

 そのため本国は神経質なくらい総督に権限が集中しないよう現地の駐留軍と一体とならず相互に監視するように仕組みを作ることに熱心だ。

 勿論、総督が突然不在となったとき代理となる事は認められているが非常時のみであり、長期間権限を握ることは許されず、住民代表が代理を務めることが明記されている。

 だが、当然法の不備は何時の時代にも存在し、一度現地除隊し住民となれば住民代表を経て総督代理になるのに何ら問題は無い。


「しかし、どうしてこんな内陸に砦を」


 疑問に思ったカイルはマッカーサーに尋ねた。

 海からの補給を受けるには海岸が一番近く、重要だ。港町を守るために海岸に防御拠点を設けた方が良いとカイルは思った。

 万が一、襲撃されても救援の船が来るまで耐えられる。

 なのに内陸部にどうして置くのか不思議だった。しかも、砦の中は外から見ても港町より明らかに人が多く賑わっている。

 その答えは直ぐに返ってきた。だが答えたのはマッカーサーではなく、地面に刺さった一本の矢だった。


「襲撃!」


 マッカーサーの側に居た護衛が叫ぶと、周囲の兵士数名が矢が飛んできた方向へ銃を向ける。

 見ると腰巻きを身につけた肌が褐色の弓を番えた人物、恐らく原住民がいた。


「応戦せよ!」


 直ぐさまフリントロック銃を構え、発砲する。しかし距離があるため命中しない。


「うぐっ」


 しかも矢を放ったのは一人ではなく、複数居たため護衛に損害が出る。

 砦から応援が来たため幸いにも死者は出ず、負傷者のみだった。


「畜生」


 しかし負傷者が出たことでマッカーサーは苛立ちを隠さなかった。


「これはどういう事ですか?」


 改めてウィリアムが尋ねた。


「反抗的な原住民の襲撃です彼等から港町や畑を守るために内陸部に砦を作って監視し襲撃を防いでいます」


「なるほど、内陸に砦がある理由は分かりました。しかし、原住民であるエオラ族とは友好的な関係を作るように命令が下されている筈ですが」


 ニューアングリアは未開だが人が住んでいない訳では無い。エオラ族と自らを呼ぶ人々が総督府近くに住んでいた。これは偶然では無く植民に適した土地は人の住みやすい土地であり、彼等の居住地と重なるのは必然だ。だからこそ、友好的な関係を結んで穏やかに植民地を発展させることが本国の基本方針だった。


「はい、大部分とは友好関係が築けております。しかし反発する少数のグループによる襲撃があり、警戒を怠れません」


「砦が必要なほどですか」


「今のところは。しかし。御安心下さい。間もなく解決いたします」


「どういう事ですか?」


 ウィリアムが尋ねていると砦から一〇〇名ほどの騎乗した集団が到着しマッカーサーと合流した。


「これより襲撃犯のグループを殲滅いたします。尾行は付けており、連中の拠点を直ぐに発見できるでしょう。では、行って参ります」


「私も同行します」


 ウィリアムの言葉にマッカーサーは初めて驚きの表情を見せた。


「非常に危険です。連中は神出鬼没でこちらを攻撃してくる可能性が」


「危険は承知の上です。本国からニューアングリアまでの航海は非常に危険に満ちていました。この程度の事で怯むことはありません」


「……分かりました。では後に続いて下さい」


 尾行の後を付けていくと小高い山の尾根を超えた所に複数のテントを張った集落が見えてきた。


「連中、この近くに住処を作りやがっていたか」


 マッカーサーは部下を二つのグループに分け、一方のグループに迂回して集落を襲撃するように命じた。

 騎馬の機動力を生かした彼等は直ぐさま集落の反対側から突撃していく。

 草で作られた脆いテントは騎馬がぶつかる衝撃で簡単に崩れ、蹄が何もかもを踏み潰す。

 中には反撃してくる原住民もいるが、騎馬で高速移動する彼等に狙いを定めるのは容易ではなく、矢で狙っている間に銃やサーベルで切り落とされる。

 突然襲われた集落からは、悲鳴が上がり、マッカーサー達の方へ逃げてくる。


「頃合いだな。ターリホーッッ!」


 マッカーサーの合図で残っていた集団が逃げ惑う原住民の集団へ騎乗突撃を敢行する。

 広範囲に散らばっていた彼等の反撃は微弱で抵抗は殆ど無い。

 散らばった彼等を襲うのは容易ではないが好きの騎馬で壁を作り高速で接近し蹄で踏み潰すことで殲滅して行く。

 騎馬の原住民に対処の方法はなく、一五分で一方的に殲滅された。


「これは戦闘じゃない虐殺だ」


「そうだな。連中にとっては狩りだと思っているんだろう」


 辛酸な光景にウィリアムは激情を抑えるが僅かに顔が歪んでしまう。カイルも同じ感情を抱いている。

 マッカーサーが突撃するときに上げた声は狐狩りを行うときの開始の合図だ。彼等は人間を殺すのに、狩猟感覚で行っている。


「ふう、多少逃しましたが、ほぼ殲滅できたようです」


「どういう事ですか。原住民を一方的に虐殺するとは」


 満足げな表情で戻って来たマッカーサーをウィリアムは詰問した。


「我々の土地に襲撃を仕掛けてきた連中です。報復しなければつけあがります」


「穏便な関係を保つように命令されているはずですが」


「我々は正当な契約の元に土地を領有し植民地を作り、開発を進めてきました。しかし、彼等はその約束を反故にして立ち退けと襲撃を繰り返してきています。対処しなければニューアングリアは発展どころか生存も厳しい者になります」


「だが、これでゃ虐殺ではないか!」


 ウィリアムが更に激しく詰問しようとしたが、海岸から響いてきた砲声に遮られてしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれか、先住民狩りか。 あれは、自己弁論で武装してるから軍規も曲解正当化するんだよな
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