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反乱の代償

 カイルは、じっと海の方を見る。


「おい、なにしているんだよ。俺たちを早く移すんだ。サボタージュなんてしたらシャーロットの連中が何をするか分からないぞ」


 オブライエンの言葉には耳もくれず、カイルは波の動きを見定める。そして、蒼白になりながら叫んだ。


「ポート! 僚艦にも伝え!」


 カイルは船を止めるのを止め、艦首を左に回頭するよう自分の艦と他の艦にも伝える。


「おい! 止まる約束じゃ」


「シャーロットはどうだ!」


 オブライエンの抗議を無視して乗組員達は動き船首を左へ向け、信号員は他の艦に命令、カイルは見張員に尋ねる。


「進路そのままです! 他の艦は本艦に続行!」


「ちっ! 強風が来るぞ! 全員掴まれ!」


 カイルはエルフだ。

 先祖返りのため古のエルフのように精霊魔法は使えない。だが、風や波を見る目は人間より鋭く、急変を察知しやすい。

 この時もそうだった。横合いからの鋭く強く疾い風が来るのが見えて指示を下した。

それまで西の風が吹き波が大きくうねっていたが、その波濤が突然白い飛沫を上げた。

 北からの強い風がやってきて船団を襲う。


「うおっ」


 突然の風に甲板にいた物は風に飛ばされそうになる。船も帆に横風を大きく受けて傾く。

 何人か風に流されそうになるが、カイルの指示で何かに掴まっていたお陰で、海に流されるのを防いだ。


「状況報告!」


「異常ありません、何人か風で飛ばされて負傷しているようですが軽症のみ。行方不明者は今のところありません」


 掌帆長のマイルズが報告する。

 転舵の命令が早かったために風を艦首から受けたため、傾きは少なく、帆が破けることも無かった。


「他の艦はどうだ?」


「最後方のボロウデールのスパンカーが破けましたが、大丈夫です。ですがシャーロットが!」


 見張員が指差したシャーロットの方角を見ると横風を受けて大きく傾いていた。

 反乱側に制圧されていたため操船関係者を拘束しており、回頭が出来なかったのだろう。

 船体は右に大きく傾きそのまま傾斜している。

 船倉の荷物が崩れて船の傾きが元に戻らない。

 直ちに帆の向きを変えて、風の圧力をぬかなければ転覆してしまう。

 しかし、反乱側に落ちた為適切な処置が行えなかった。

 シャーロットの傾きは戻る事無く、寧ろ傾きを更に増してゆき、帆桁が海面に接触する。


「早くマストを切断しろ!」


「無理だ。連中はああなった時の対処方法をしらない」


 船体が傾斜して海に浸かった帆やマストが更なる抵抗となり、引きずり込まれていく。

 このような場合、マストを斬り倒して抵抗と重量物を排除して傾きを元に戻すのが普通だ。

 だが、今のシャーロットは反乱軍、それも船を操ったことの無い連中に支配されている。

 彼らに迅速な対処など望むべきも無い。

 そのためシャーロットの船体は急速に傾きを増して行き、横倒しになってもまだ傾きは止まらず、むしろ加速していく。

 やがてシャーロットは海へ引きずり込まれていく。

 そして僅か数分で転覆し沈没してしまった。


「転舵! シャーロット沈没地点に向かい救助作業に入る。手空きの者は上甲板へ! 厨房、要員を増やし火を入れろ。湯を沸かすんだ」


 風が強い中で火を入れるのは、火事の危険があり通常は行われない。だが、海に投げ出された溺者は低体温症に罹っているはず。少しでも生き延びられるように暖かいものを用意しなければ。

 そして最後にオブライエンに向かってカイルは言った。


「自由平等の共和主義大いに結構。私も自由は尊いと思う。だが、自由を謳歌するには力が必要だ。特に海の上ではな。権力者を毛嫌いするのは自由だが、海や自然の力などそれ以上だ。侮るな。自然に向かって咆えても圧倒的な力で押しつぶされ海の藻屑になる。せめて打ち勝つだけの力と知恵を手に入れろ」


 怒り混じりにオブライエンに言い放ったが、当人は抜け殻のように放心していた。

 伝わったかどうかは分からなかったが、カイルは言わずにはいられなかった。


「オブライエン達にも救助を手伝わせろ。自分たちの愚かさを心身に刻んでやれ」


「さあ、行くんだ」


 レナに蹴飛ばされてオブライエンは前につんのめったが、やがて立ち上がり、ロープを持って舷側の手すりに付くと生存者を探した。

 フレンドシップはシャーロット転覆地点を周回し救助作業を行った。

 しかし、泳ぎ慣れない者が多い上に、波が荒く危険なため救助作業は難航した。

 オブライエン達は洋上に人を見つけるとロープを投げて掴むと引っ張る。

 しかし、波が荒く水の抵抗が重く、引っ張ることは困難で時間が掛かった。。

 更に時間が経つほど、投げ出された連中の体力が落ちてきてロープをつかみ続けられず手からすり抜け波に消えてしまっていった。


「艦長、日が暮れました。これ以上の捜索は困難です。作業の中止を」


 マイルズが報告し進言する。


「……作業中止! 進路変更、ニューアングリアへ向かう」


 結局一〇〇人ほど救助した所で日没となり、これ以上生存者の発見は困難と判断した。カイルは捜索の打ち切りを命じて航海を再開させた。

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