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反乱

「そろそろか」


 カンカーン、カンカーンと四点鐘を告げる鐘を聞いたオブライエンは懲罰房の中で一人呟いた。

 夜直が始まって二回目の当直、それが半分過ぎた。

 当直交代後こそ目が醒めるだろうが、二時間も過ぎれば緊張感が薄まり、注意力が散漫になる。

 何より人は午前二時が一番眠くなる時間だ。

 民兵隊の司令官をしていた時、帝国軍に夜襲を掛ける際、この時間を攻撃開始時刻に設定して大概上手く行った。

 戦闘が無い時は、巡回を行い当直や見張りが眠っていないか確認した時間だ。

 お陰で、オブライエンは午前二時だと目が冴えている。

 予め隠し持っていた独房の鍵を取りだして扉の鍵に差し込み開ける。看守に強姦されている女性囚人が復讐の為に事の最中に抜き取って複製していたのだ。

 船は独立した空間であり、一つの社会、町だ。生活に必要な事は一通り出来る様になっていて鍛冶も出来る。鍛冶の助手をやらされている囚人に元の鍵から複製させるなど簡単だ。

 扉を開けてすっと抜け出す。通路の先では看守が半ば眠りこけている。

 横をすり抜けるのは簡単だが、念の為に殴って気絶させ、猿ぐつわを噛まして独房に入れておいた。

 囚人を強姦していた看守なので手加減なく殴れたのも理由だ。

 一仕事を終えるとオブライエンは、上の監房区画に登り自分の仲間がいる檻に行く。

 ここも予め合鍵を作って用意していたので簡単に開く。


「お待ちしていました司令官」


「待たせて済まなかったな」


 民兵隊時代の元部下達で普段は大人しくしているように指示していた。反乱を起こすときまで目を付けられないように。


「予め命じていたとおりに事を運ぶぞ。目標はガンルーム――士官室だ」


 船に搭載されている武器は、乗員特に水兵や水夫による反乱を防止するために士官室に置かれるのが基本だ。そのため船では士官室の事をガンルームと呼ぶ。


「当直で半分は配置に付いているが半分は寝ているはずだ。その半分と武器を抑えてこの船を乗っ取る」


「いよいよですね。待っていた甲斐がありました」


「ああ、ここで反乱を起こせば自由だ」


 本国を出港して直ぐに反乱を起こすことも考えた。

 だが本国近くだと反乱が起きた情報が直ぐに流れて各地の部隊に連絡が周り包囲される恐れがあった。

 だが今いる海域は最後の寄港地アガラスを出港した直後。闇夜に紛れて逃げ出せば発覚するまで時間が稼げる。万が一アガラスに通報されても他の海域に連絡が回るまでに時間が掛かる。

 その間は逃げ放題。追跡を振り切ることも可能だろう。


「さあ、武器を奪ってこの船を乗っ取るぞ」


 オブライエンは部下を引き連れてガンルームに向かう。

 監房区画の鍵も複製しており簡単に逃げ出せる。ただ、ガンルームだけは警備が厳しくて鍵を得ることは出来なかった。

 だから蹴破って押し込む。

 壁は戦闘時に撤去するため非常に薄く、扉も同じだ。

 オブライエンは勢いよくガンルームの扉を蹴破ってなだれ込んだ。

 そして足が止まった。


「動くな!」


 レナの鋭い声と視線がオブライエン達に降り注ぐ。

 いや彼女だけではない。

 バヨネット装着済のフリントロック銃を構えた海兵隊員が二列横隊でオブライエン達に銃口を向けていた。


「お疲れ様」


 場違いな程、気の抜けた声を出したのは準備するよう命令したカイルだった。


「どうして分かったんだ。今夜反乱を起こすと」


「何度も反抗して懲罰として房に入るから脱走か反乱を企てていると思って警戒していたんだよ」


 転生前の小説に似たよな話があったので警戒していた。

 航海日程的に一番、連絡が遅れそうな位置であるし、反乱で真っ先に抑えるとしたら武器を保管するガンルームである事は間違いない。


「まあ強姦された女性囚人から事情を聞いていたからね。妊娠したんで、誰にやられたのか尋ねたら今回の計画のことも話してくれたからね。看守はこの後懲罰を行うよ」


 オブライエン達が反乱を起こすという決定的な証拠を握るためにカイルはあえて手を出さなかった。

 複製された鍵を抑えても脱走で済まされてしまう恐れがあった。

 そのため、看守の懲罰を延期した。

 反乱時殴られやすいように件の看守を懲罰房の担当に仕向けて殴られやすくしていたが。

 他にもウィルマやステファンにオブライエンの動向を密かに監視させていた。

 特にステファンは、医務室から解放されるために熱心に見張っていたほどだ。


「さて、計画は失敗だな。全員、鞭打ちの後、枷を嵌めて懲罰房に入って貰うよ」


 流刑地での事を考えると運動不足と病気になりやすい懲罰房は避けたいが、事情が事情だけに許すわけにはいかない。

 本来なら船上で絞首刑が妥当だが、労働力を減らす事は避けたいので、鞭打ちの上で懲罰房へ入れるだけで済ませる。

 本当は鞭打ちもしたくないのだが、レナをはじめ海兵隊員が絞首刑を主張しており、鞭打ちを追加で入れる事にした。


「さて甲板に彼等を引っ立てて鞭打ち刑だ。格子蓋を立てかけておくんだ」


「ふん、上手く行くかな」


 オブライエンの最後の言葉を捨て台詞とカイルは考え、捨て置いた。

 だが、それは直ぐに事実である事を強烈に教えられることになる。

 直ぐにでも刑罰を執行したいところだったが、事後処理が待っている。

 反乱に加わったメンバー全員の武装解除と監房の再検査、及び不良看守の拘束。それらを完璧に終えた時には夜が明けていた。

 ようやくオブライエン達を甲板に上げたとき、正面左手に朝日が昇り始めていた。

 水平線上から顔を上げ始めた太陽が四隻の船団を照らす。


「シャーロットに異常あり!」


 後方、随伴艦を監視していた見張員が緊急事態を知らせた。

 シャーロットが艦尾に掲げられたアルビオン帝国旗を下ろして、リバリタニア共和国旗を上げた。

 

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