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異界狩日誌  作者: サイダー・サイダー
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2話ー異形ー

鬱蒼とした森に不釣りあいの少女は、恐るべき異形の生き物だった。

[第二章:ラパーンという異形]


「取レタ 取レタ。ザリモ ノ 仕留メタ ウィンリモ モ 頂イテ 大漁 大漁」


 上半身の倍はありそうな蜘蛛の下半身を持った少女は、草影から出て倒れたザリモとウィンリモの方へとゆっくり近づく。


 少女はの名はラパーン。中でもトラトゥーテと呼ばれる生き物だ。


 緑の鎧の女性と真紅の鎧の男はトラトゥーテに気付かれないように茂みの中に身を潜める。


「私この前、ギルドの豚共が話しているのを聞いたぞ。 あのトラトゥーテ、もしかしたらメラトー村を襲った適性王種じゃないか?」


 緑の鎧のリラが、真紅の鎧のドラートに言う。


「そうか。ならば討伐してしまって構わないな。仮にメラトー村を襲っていなくとも、純凶種のトラトゥーテだ。人里近くのこの森に野放しにしておくわけにもいくまい。倒しておこう」


「………ソコニ、何カ、居ルノカ?」


「うげっ、気付かれた?!」


「静かに。まだ我らが居るか向こうは分かっていない。だからトラトゥーテがこっちへ来たら飛び出してだな…」


「おう分かった!私に任せておけ!最後はドラートの槍でグサリだな?」


「そうだ」


 トラトゥーテが茂みの前にたつ。


「誰カ 居ルノカ?」


「あぁ!居るともよ!!」


 リラの大太刀の刃がトラトゥーテの腹部の肉を深々と掻き切る。リラの大太刀からは血が滴り、トラトゥーテの切り口からは真紅の鮮血が滝の如く溢れていた。


 リラは鎧を脱ぎ捨て裸になりガッツポーズをとる。


「私の体カラ……血ダト……?」


 トラトゥーテは明らかに動揺していた。右手で傷口を抑え、自分の体を切り裂いた少女を睨む。


 トラトゥーテの顔に赤黒い隈取りの模様が現れ、それは身体中に広がってゆく。眼は赤く発光しだし、牙が露になる。


 ラパーンという種族は総じて、美しい人間の女性の姿をしている。人語を理解し、会話もとれる。しかし、人の姿は偽りに過ぎない。その本性は獰猛かつ凶暴で、時には自分の倍ほど大きなリモにまで襲い掛かる程である。そして、ラパーンが怒った姿を見れば、誰しもがその可愛い少女がリモと同様の怪物であることを再認識せざるをえなくなる。身体中に禍々しい模様を浮かび上がらせ普段の倍近く巨大化し吼えるその姿は、正しく、怪物としか形容できない。


「RAPAAAAAAAANNNNNNN!!!!」




 トラトゥーテは傷口を抑えてリラを叩き潰そうとする。


「残念だったな!」


 リラは大太刀を素早く横に振り抜き、トラトゥーテの腕を横に真っ二つにする。そのまま大太刀を引き、次はトラトゥーテの左目を狙って突きだす。トラトゥーテは右手を伸ばし、その一撃を防ごうとするも、大太刀は掌を貫き左目と右手を縫い付ける。


「RAAAAAA!!!!」


 悲痛な叫びを上げ、トラトゥーテは体を大きく反らせる。


 その瞬間をリラは見逃さなかった。

 無防備となったトラトゥーテの腹に向かって飛び出し、大穴を開けて喰い破る。背骨をへし折り、内蔵を掻き出す。

 背中を突き破り飛び出したリラはトラトゥーテの血で真っ赤になっていた。


 くわえていたトラトゥーテの背骨を手に持って、虫の息のトラトゥーテを見下ろした。


「RAAAA……PAAAA………」


「お?まだ動くか。流石は王種。生命力も違うねぇ。でも、ここまでだっ!!」


 リラは飛び上がり、背骨をトラトゥーテの心臓に突き刺した。


「……うし。討伐成功、と。………ん? ドラート、ドラートー?」

「こっちだ」


 トラトゥーテの死体の上でブンブン手を降りながら跳び跳ねるリラを見て、ドラートと呼ばれた真紅の鎧の男はため息を漏らしながら草むらから出てくる。


「キサマ、作戦はどうした」

「作戦? あー、あったね。そういうの。まぁ?私が強すぎるからすぐ倒しちゃったけど」


 腕を組んで睨むドラートに、リラは目一杯の笑顔を向けた。


 ・・・


「ねぇドラートー……重いよぉ……持ってよぉ……」

「もう我も持てん。トラトゥーテの弓くらい持ってくれ。それに、街までもう少しだ。がんばれ」

「ぬぇー……」


 原理は未だ分からないが、ラパーンが巨大化すると、持っている弓や剣も一緒に巨大化する。ラパーンが元に戻れば弓や剣も元に戻る。巨大化したままラパーンを倒すと弓や剣は巨大化したまま戻らない。


「…なんか臭わない?……何かが…焼ける臭い?」


 暫く歩いていると、何か違和感を感じたリラがドラートに声をかける。


「あぁ。それに、森の向こうに煙が見える。嫌な予感がする。走るぞ」

「うぇー  」


【潮風の香る港町 ルカランガラ】


「RUIIIIIIIIMOOOOOOOOOOOOO!!!!」

「RAAAAAAAAAPAAAAAAAANNNNN!!!!」


 巨大な翼を羽ばたかせ、街の象徴である時計塔を薙ぎ払う。筋肉が隆起し、樹形の幾何学模様を蒼く発光させた、鷲のようなリモ、陸征種のイーグリモが口から火を吹き散らし街を焼き払う。


 それに対抗するように地面が揺れ、大地から海征種のラパーン、ティルアーランが現れる。長い海蛇のような巨体をイーグリモに巻き付け引きずり落とす。ティルアーランはイーグリモを地面に叩き付ける。


 人々は逃げ惑い、家々は次々と破壊されていく。美しい海を臨む豊かな港町、ルカランガラは、陸征種イーグリモと海征種ティルアーランの激闘により見るも無惨な姿へと崩壊していた。

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