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06・ルディスの伯母 (他国の王妃)


 二年に一度、隣国の国賓を数日間招いては親交を深めている私の国。

 十三歳の私にはすでに婚約者がいて、次期王太子妃として同年代の子達の接待役を任されていた。

 前回からこの行事に参加している隣国の第一王子は、私の妹に一目惚れしたらしい。

 今年の宴の席でも、国の重鎮である父と登場した妹の姿を目で追っている。

 妹の情報欲しさに私に近づいて来たこの七歳の王子。

 視線は妹を追いつつ、口と耳は私に向けている。

 ちょっと失礼じゃない?

 そう思いながら、私は妹の近況を話してあげた。


「本当かっ」

 キラッと目を輝かした王子が、ようやく私の顔を見上げる。

「はい。妹が隣国に嫁ぎたいと騒いでいるのは本当です。好きな人が高貴な方だから、自分磨きに頑張ると言ってました」

「僕の国の人を好きになった? 誰かは言ってないのか?」

「決して名前を教えてくれません。でも、妹が頑張り始めたのは、二年前に隣国の国賓方が来てから。高貴な方とは、我が公爵家よりも格上の方でしょう。限られてきますよね」

「って事は、僕の事だよね?」

「どうでしょう? 私は断言出来ませんよ。でも、貴方より妹は三歳年上ですが、気になりませんか?」

「僕は彼女の全てが好きなんだ。そんなの気にならない。結婚相手にって紹介された子達がいたけど、僕、無視しているんだよ。そっかぁ~。彼女は僕の為に頑張っているんだね。じゃあ、僕も苦手な勉強頑張るかな」

「まだ妹と意思疎通が出来ていないのに、妹と結ばれる夢を持ってしまって良いのかしら? まずは妹とお話して来たらいかがです?」

「そんな事出来るか!! 僕から話掛けるなんて恥ずかしいだろうっ。僕が変な事言って、彼女に嫌われたらどうするんだ?!」

「でも、積極的に動かないと誰かに奪われてしまう可能性がありますよ」

 と、私は忠告したのに。


 それからも、隣国の第一王子は、私の妹から告白されるのをずっと待っていた。

 好きな子には自分から行動出来ない彼は、話し掛ける事も出来ず、ただ見つめているだけ。

 自分の婚約者候補達に見向きもせず、王子様を待つ姫のように彼は妹との婚約話が進められるのを待っていたという。


 まさか、妹が好きになったのは二十歳も年上の隣国の王だったなんて、あの時の誰が予測出来ただろう。

 隣国王の妻は第二子を産んだ後に病気で亡くなったと表向きはなっているが、実際は馬場の管理人と駆け落ちしたのだ。

 王家所有の馬を二頭と王妃個人の財産を持って国外逃亡したという。

 それから再婚せずにいる王。

暇さえあれば鍛えているという筋肉姿は頼もしいと思うけれど、顔を覆う茶色のモジャモジャ髭もあって熊みたい。

 『夏の木漏れ日の妖精』と言われている金色の髪に緑色の目の美少女の妹は、これまで色んな男の子を好きになっていた。

 可愛らしい子が好みだったのに、急に年上の大きな熊さんを好きになってしまうなんて。

 それだけでも驚きだったのに…。


 何で、隣国の王の寝込み襲っちゃうのよ!!


 十七歳の誕生日祝いに隣国への旅行を強請った妹。

 誕生日を迎えた翌日、『夢を叶えて来ます』と手紙を置き、武芸に秀でた侍女一人を伴い隣国へ旅立ってしまった。

 観光目的かと思っていたら、王城の王の寝室が目的だったなんて。

 しかも、恋焦がれていた王に薬酒を飲ませ、拘束して、熱く想いを伝えながら妹が襲ったとは。


『上手くいきました。これまでの勉強の成果です。』


 隣国から妹の事後報告の手紙を読み、「あの熊さんを容易に拘束出来る勉強って何?」とつい呟いてしまった私。


 相手に死の危険はなかったろうが、王を襲うなんて大罪だ。襲う意味がアレだけれど。

 大体、「大柄な王が小柄な少女に襲われた」と公表出来るのか?

 疑問に思いながら、すでに王太子妃であった私は、実家にこの問題を伝えに向かった。

 予想通り、実家は使用人や飼い犬まで大騒ぎ。

 あちらこちらで悲観して泣きすする使用人に構っている暇はなかった。

 隣国へ謝罪に行く父の支度を手伝っていた時、妹と隣国の王が突然やって来たのだ。

 幸せな空気を溢れさせながら、顔面蒼白な私達の前に現れた。

「彼女との結婚を許して下さい」

 そう言ってきた王の手は妹と繋ぎっぱなし。

「御二人が両想いで良かったですっ。こんな娘ですが、どうかお願します~っ」

 娘が犯罪者として訴えられなかった事に安堵の涙を流しながら、父はその二人の繋がっている手を握りしめ震えていた。

 普段冷静な父のその姿がとても哀れで、私まで泣けてきたわ。


 翌月。

 嫁ぎ先で式の準備をしなければならない妹に付き添い、結婚式二週間前に隣国を訪れた私は忙しく過ごしていた。

 そこで、私は見てしまったのだ。

 隣国の第一王子の父親に対する憎しみの顔を。

 「自分の婚約者として国に来たのか」と言わんばかりに嬉しそうにしていたのが、父親の結婚相手として紹介された時のあの顔を。


 昔、私が余計な事を言ったばかりに…。

 彼がずっと妹の事を好きでいてくれていた分、私も辛くなる。

 妹へ恨み言を口にするのかと心配したが、妹へは緊張しながらも気遣いを見せる第一王子。

 時折、妹への切ない気持が込められた眼差しを向けているのが痛々しい。

 好きになった子には本当に弱く、消極的なのが変わってなかったようだ。

 何て純情な子だろう。

 と、その時は同情したけれど。


 彼の激変を耳にしたのはそれから四か月後くらい。

 妹の妊娠が周囲に報告された頃ぐらいから。

 あの第一王子は、これまで見向きもしなかった自分の婚約者候補達全員と付き合い始めたという。

 しかも、先に子を産んだ者を妃にすると告げたらしい。


 あの一途さは何処へ?


 でも、私は気づいてしまった。

 時折届く、隣国からの情報で。


 第一王子が宣言通り、子を宿した女性と結婚したけれども、他の女性達との戯れは絶えないまま。

 見境がないと言われているが、妹と同じ名前や年齢の人には決して手を出していない事を。


 隣国王が五十歳を迎えた年、第一王子が新たな王となった。

 王となった彼は歴代の王の部屋である『王の間』に居を移したが、『王妃の間』に彼の妃が移る事はない。

 彼の命令で、『王妃の間』の階下に新しく改装された『大華の間』が妃の部屋となったのだ。

 しかも、五代前の王制で閉鎖となった後宮を『小華の館』と名づけて復活させた。

 そこに沢山の女性を連れ込んでは追い出すの繰り返し。

 いつも女性を渡り歩いていると周囲から思われている彼だが、週に一、二度は妹が住んでいた状態のままの『王妃の間』で寝泊まりをしている。


 彼の、妹に対しての一途な気持が続いていたのだ。


 妹に想いを馳せている様子が目に浮かぶ。

 彼の想いが変わらない限り、私にずっと罪悪感を抱かせるその姿が。


~・・・~


 ついには、私の甥ルディスの婚約者まで手を出そうとした隣国王。

 妹に頼まれ、オフィーヌを保護する協力をした私。

 甥は、母親に似たのは顔だけではない。

 思いつめると暴走する所まで似ている。

 何を仕出かすか怖い甥を抑えておくためにも、彼の味方側にいようと思った。

 あの甥の愛情に囚われてしまった可哀想なオフィーヌのためにも。

 息抜きの愚痴でも良い、オフィーヌに逃げ道を与えたいと私は息子の嫁を紹介したのだ。

 

 それから一年もしないうちに隣国王に変化が起きた。

 妹以外の女性に固執しなかった彼が、ある人物に夢中だと。

 調べると王の心を掴んだのは、甥が手配した元男爵夫人だった。

 甥の計画性まで妹に似ているとは…。

 あの親子、自分の目的のために危険な事柄を厭わないのかしら。

 その我儘っぷりが怖いわ~。


 療養を理由に息子に王を譲った彼が、田舎で元男爵夫人とその娘と暮らし始めたと訊く。

 その元男爵夫人は内縁の妻として彼の世話をしているらしい。

 後宮での彼等の関係は知り得なかったが、田舎での彼等は和やかで仲がよろしい事も知る。

 ようやく一人の女性に落ち着いた生活を過ごせるようになったのか、と彼を想い、涙が零れてしまった。


 そのまま彼に穏やかな暮らしをさせてあげて欲しかったのに。

 どうして彼の息子まで、二年後に療養を理由に王位を退くの?

 王位を退いた彼等がその田舎で共に暮らし始めたですって?

 しかも、次の王がルディスって、どういう事?

 親戚が隣国の王になるのは、我が国にとって良い事なのかもしれないけれど。

 あと数年で次の王になる私の息子は、ルディスの腹黒さに勝てないわ。

 ルディス夫婦と仲良くするよう、息子夫婦に改めて伝えなくては…。



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