【聞いてないよ】
【聞いてないよ】
「忙しい中、申し訳ないです。」
「ダイキの頼みならべつに構わんよ。」
そう言って一宮仁は片手を上げた。
昨日の藤川先生との電話の後、
何か色々と不安があったので
都合がつくなら一宮仁に一緒に来てくれるようにお願いした。
「何の話なのか検討はついているのか?」
「・・・さあ。メディアの件での謝罪とは言ってましたけど・・・
それだけではないような気がします・・・」
「また何かやらかしたのか?」
仁は苦笑いしながら言った。
「いや・・・色々とうまくやったとは思うのですが。」
「・・・どうだかね~」
仁がにやにやしながら僕の顔を見た。
僕は少し仏頂面をした。
病院のエントランスに着き、藤川先生に連絡を入れた。
間もなくして藤川先生が顔を見せた。
藤川「やあ!大木君悪いわね足を運んでもらって。」
「いえ・・・」
苦笑いで返事をした。
(ほぼ脅迫紛いでしたけどね。)
藤川「こちらは?」
藤川は一宮仁の顔を見た。
「知り合いの医者の一宮仁先生です。
私一人だと色々と不安でしたのでアドバイザーとしてお願いしました。」
仁「一宮仁です。こいつとはちょっとした付き合いでね。
今日は一緒に失礼するよ。」
藤川は一宮仁の全身を見てから様子を伺ってから右手を差し出した。
藤川「同業ですね。宜しく。」
藤川と仁はお互いを探るように握手をした。
・・・結構長い握手だった。
僕はその長さに間に入った。
「あの、長くないですか?知り合いですか?」
その言葉を聞いて二人はハッとしたように手を離した。
仁「いや特に・・・」
藤川「いや別に・・・」
二人は同じような言葉を発して黙った。
それから少したわいもない話をして
藤川「立ち話もあれだからこちらへ」
そう言って別の場所を案するからと先導して歩き始めた。
その後ろを歩きながら
僕は仁に小さな声で言った。
「さっき何かあったんですか?」
そう言って仁の方を向いた。
仁は少し真面目な顔をして呟いた。
「ダイキ!この女注意しろよ。」
「!?」
「何かあるのですか?」
「いや・・・なんとなく俺の感だ・・・」
僕はただただ不安になってきた。
通されたの応接間のような喫茶店のような
病院には不似合いな場所だった。
「すご。院内にこんな場所があるんだ。」
仁「こいつはすげーな。」
藤川「これも時代の流れかしらね。こんなことより
若い先生達の待遇をあげてほしいけどね。」
藤川はため息をつきながら言った。
ソファのある席に着くと女性の方が来て
飲み物の希望を聞いてきた。
藤川「改めて今日はありがとうね。仁先生もわざわざお越しくださいました」
僕と仁は軽く頭を下げた。
「あのーそれで今日の用件は何でしょう?」
僕は唐突に要点を突いて聞いた。
藤川「そんなに構えないでちょうだい。メディアへの対応も少し行き過ぎたと思って私も反省したわ。
そのお詫びもあるし、あの時本当によく働いてくれた大木君とあまり話す機会がなかったから
呼んだのよ。」
「そうなんですか。わざわざこんな時間を割いてもらわなくても・・・」
僕が言い終わるか否かのところで仁が口を挟んできた。
仁「本当にそれだけでしょうかねえ?」
仁は何か意味の含めたように問いただした。
その問いに藤川と仁は睨み合う形で対峙した。
(また、始まった・・・この二人は仲が悪いのか?)
その空気の悪いところに先ほど注文した飲み物が
運ばれてきた。
女性「お待たせしました。熱いので気をつけてお召し上がりください。」
(ふう。何か助かったよ。)
藤川「仁先生。そんな怖い顔で睨まないでくださいよ。
ただえさえ怖い顔なのですから。」
藤川は不敵に笑っている。
仁も負けずに応対する。
仁「生まれつきこんな顔なのでどうも申し訳ないね」
(はあ。仁さん連れて来ない方が良かったのか?)
そんなことが頭をよぎった。
藤川「あら、私は仁先生のような人間味あふれる顔は大好きよ。」
仁「そう言っていただけるとうれしいですな。ははは。」
藤川「大木君。メディアへの対応の謝罪としてこの後おいしい料理の店を予約しているから
時間お借りするわね。」
断ることもできないお誘いだと判断した僕は素直に返事をした。
藤川「この間の事故があったわよね?
その時の患者さんは基本的に皆この病院にきているの。
それであのメディアを見てあなたにもお礼をしたいという患者さんが結構いるのよ。」
「ええ!」
僕は驚いた。
藤川「彼は一般人だからと断ったのだけど、医院長が面白そうだから呼んでみてはと言い出して・・・」
「ええ!」
僕はまた驚いた。
藤川「そういうことだから、この後患者さんの診察に付き合ってもらうわ。」
「えええ!?」
僕はさらに驚いた。
隣では仁が大笑いしている。
「いや、僕は一般人ですから他の方に迷惑になるので遠慮しますよ!」
僕はあわててその依頼を断った。
藤川「大丈夫よ!お見舞いとした形で病室を訪れる体にしているから。」
藤川は何も問題ないという笑顔の顔で僕に答える。
「いや。そういう問題ではなくてですね・・・」
藤川「患者さんにも今日のこと伝えてあるからね。
もし大木君が急に来ないとなるとねー」
悪い顔をした藤川先生がいる。
「いや・・・しかしですね・・・私は少し手助けしただけであってほとんどは藤川先生が・・・」
どうにか現状から逃げようと言い訳をしていると
隣の仁が笑いながら僕の背中を叩いてきた。
「わはは・・・ダイキ。もう諦めろ。この女にしてやられたんだよ。」
僕は泣きそうになった。
藤川「仁先生!なんか私が落とし入れたみたいな言い方やめてくださいよ!」
仁「いや。現にそうだろう!あんたやるな!ダイキの扱いをもうわかってるよ!」
そう言いながら仁は膝を叩きつけ大笑いした。
僕はもうなるようにしかならないことを悟り。
意気消沈し、ため息をつき目の前にあるまだ多少熱いコーヒーを一気に喉に流し込んだ。




