【仁からの電話】
【仁からの電話】
僕は布団に寝そべっている。
ただただ疲れた。
帰ってきた服のままで気持ち悪いのだが
睡魔のほうが強く、体が動く気がしなかった。
その誘惑に負けて瞼を閉じようとした時
ふいに胸ポケットに入れておいた携帯電話が鳴った。
その音とバイブ機能の振動にびっくりして
布団から上半身を起こした。
着信表示を見た。
仁さんからだった。
僕は寝ぼけているようなまま電話に出た。
一宮仁「よう!元気か?」
僕「どうもご無沙汰です。元気ではないですね・・・」
一宮仁「ははは。だいぶ疲れた声をしているな。
今日は大活躍だったな。」
僕「そんなたいした事ではないです。」
そう答えた時、違和感を感じだ。
どうして今日のことを知っているのだ?
僕「今日のこと知っているのですか?」
一宮仁「おまえさん。帰ったばかりなのか?
テレビをつけてみな。」
そう聞くと、テーブル上にあったリモコンを押した。
適当にチャンネルを押してみた。
僕「あっ!」
テレビ画面には今日の事故のことが大きく報じられていた。
僕「でも、なぜ僕がこの現場にいたことを知っているのですか?」
そう質問を投げたと同時に画面には救助をしている僕とあの婦人「藤川清美」が映し出されていた。
僕「うわあ。」
僕は思わず声を上げた。
一宮仁「ははは。良く映っているな。メディアには気づかなかったのか?」
僕「あの時はもう手一杯でそれどころではありません。」
一宮仁「・・・まあそうだろうな。良く頑張ったな。」
仁が素直に褒めてくれたことに僕はうれしかった。
一宮仁「ところで・・・力は使っていたのか?」
僕「はあ、やっぱり助けたい思いが強くて、初めは制御できずに恐々やっていたのですが、少しずつ慣れてきて。気付かれないように『手当て』してました。」
一宮仁「はあ・・・そうか・・・おまえってやつは本当にたいしたもんだな。うちの若い衆にも少しは見習ってもらいたいぐらいだ。」
僕「そんな大した人間ではないです。」
一宮仁「大した人間ね・・・まあ。おまえさんはそのままでいい。俺の癒しになっていてくれ。」
仁さんが電話の向こうで笑っているのが聞こえた。
一宮仁「まあ、ちょっと心配だったから連絡したってとこだ。疲れているところ悪いな。」
僕「いえいえ。危うく帰ってきてそのまま眠るところだったので助かりました。・・・ところであの事故の怪我人は大丈夫だったですか?まだ何もしらなくて・・・」
一宮仁「・・・怪我人は重軽傷含めて多数いるな。
・・・子供とその母親、そしてそのお腹の中にいた赤ん坊が亡くなった。」
僕「そ、そんな」
僕は言葉を失った。
一宮仁「お前は何も悪くない。悪いのは車を運転していた者だ。お前は十分人を助けていた。それが事実だ。」
僕「・・・」
一宮仁「今日はゆっくり休んで気持ちを入れ替えた方がいい。」
僕「はい」
・・・
一宮仁「そういえば、お前さんデートだっただろ?うまくやったのか?」
僕「あ、いえ、事故があってから部下をほっぽりだして救助に夢中になっていて戻ったら彼女は置手紙をお店の人に渡して帰ってしまっていました。」
一宮仁「わはは。おまえってやつは。俺と一緒でずっと結婚なんかできやしないな。」
僕「仁さんと同じにしないでください!」
一宮仁「わはは。まあ、おまえさんらしいけど。休めといったのに長々と悪かったな。あ!そうだ。この間の『手当て』ありがとうな。助かった。じゃあまたな。」
そう言うと仁さんはすっぱりと電話を切った。
僕「仁さんはやっぱりわかっていたんだな。」
切られた電話見ながら僕はひとりつぶやいた。
仁さんの話題の切り替えのお陰で今日は事故のことを少し忘れることができた。
僕は布団から立ち上がった。
不意にテーブルの上に置いてあるメモに目をやった。
「また今度埋め合わせをしなくちゃならなくなっちゃったかな・・・」
僕は風呂に入ろうと足を運んだ。
テーブルの上のメモにはこう書かれていた。
大木主任!
助けてくださってありがとうございます。
すごいかっこ良くて。惚れ直しました。
お店の周辺の片付を手伝ったのですが
営業を続ける状況ではないようで
お邪魔しては悪いので今日は帰ります。
勝手でごめんなさい。
また今度デートやり直しましょう!
前田雫♡




