[救助]
[救助]
多くの怪我人がいる中、僕は正直どうしていいのか判断ができなかった。
いったい誰を優先すればいいのだろう…
そんなことを考えていると視界にあの婦人が見えた。
僕に最初に指示をくれた人だ。
婦人は、混乱の中、救助を手伝おうとしている人達に手際良く指示をしていた。
僕は、無意識に婦人のところに駆け寄った。
「あの、先ほどの人は大丈夫そうです。何か手伝えることがあったら言ってください。」
婦人は、僕の目を見据えた。
少し口角が上がった。
「…よし。私に着いて来な!」
ドラマに出て来るような肝っ玉母ちゃんのように言い、僕の背中を叩いた。
「私に声を掛けたんだから!ちゃんと着いて来なよ!」
僕は再度背中を叩かれた。
でも不思議とそんなにイヤな感じはしなかった。
「はい。」
僕はハッキリとした声で返事をし、後に着いていった。
それからというもの僕はあんまり覚えていない。
ものすごい慌しさの中、婦人の指示に従ってひたすら体を動かした。
その中でも、婦人の言葉の中で重症と思われる人には
服やタオルなどで他の人から見えないように『手当て』を施していた。
初めは集中しないと手加減が難しかったが数をこなしていくうちに無意識に調整することができていった。
そんな慌しさも救急車や医療専門医と思われる人達が来て一段落してきた。
僕は、周りを見て助けが必要だと思われる状況がないことを確認して
近くの縁石に腰を下ろし先ほど、一緒に救助していた人からもらった飲料水を一気に飲み干した。
(こんなに飲み方をしたらお腹を壊すかもな…)
そんな状況でもそんなこと考えている自分に苦笑した。
後ろから足音がしたと思ったら、肩をポンと叩かれた。
後ろを向くと先ほどの婦人がいた。
「あんた、頑張ったね!助かったよ!」
婦人には先ほどには無かった笑顔があった。
「今の時代、見て見ぬふりをする者か、野次馬気分で写真や動画を撮るばっかりで
人を純粋に助けようって人は少なくなっている中、あんたみたいな人久しぶりに見たよ。」
多分褒められているのだろうと思う…
「あ、ありがとうございます。こちらこそ、よくわかなかったので指示してくれて助かりました。」
僕はぺこりと頭を下げた。
婦人は、笑って何も言わずに背中をバシッと叩いた。
ちょっと痛かった。
「あんた名前は?」
「はい。大木強志って言います。」
職業柄ポケットからいつも携帯している名刺入れを取り出し婦人に渡した。
婦人は名刺を見た。
「ふーん。あんたサラリーマンにはもったいないね。」
笑いながら言った。
「私は藤川清美。まあ、これでも医者をやってる。」
婦人は手さげバックから手帳を取り出し何か書き留めると
手帳の紙を一枚破り取り、僕に手渡した。
「今日は、プライベートだから名刺はないから一応これを渡しておくわ。」
そう言って渡されたメモを見ると。
名前と連絡先、病院名が書かれていた。
「まあ何かあったら連絡するわ。一応取って置いて。
今日は疲れただろうからゆっくり休みなよ。
あんたもその身なりなんだから今日はお休みなんだろ?」
婦人は笑いながら僕の背中を叩き、歩いて行ってしまった。
僕は、片手にメモを持ち、婦人の後姿を見ながら
「今日はそういえば休みだったな…」
「あ!?前田君忘れてた!」
僕は一瞬疲れを忘れたように立ち上がっていた。
周囲はまだ、救急隊員や警察関係者が慌しく動いていたが
もう僕ら素人が立ち入れる雰囲気ではなかったので立ち去ることにした。
みんな無事だといいけどな。
僕のその純粋の思いは
残念ながら部下の前田君がまだいるかな?怒っているだろうな…
そっちの怖さのほうが僕には大きく、すぐにかき消されてしまった。




