[手加減手当て]
[手加減手当て]
「はあ、はあ、はあ…」
僕は、どうにか事故現場まで辿り着くことができた。
横断歩道近くの車はみんな止まっており、付近の道路は大渋滞になっていた。
遠方の車がクラクションを鳴らしていることもあったが
事故が事故なだけに車から降りて手助けしている人がほとんどだった。
現場近くに来てわかったことがある。
巻き込まれた人達の多さだった。
泣き声や痛みのあまりうめき声を出している者、中には声も出せないほどの怪我なのか
道路にうずくまったままの者もいた。
(できることをしないと…)
僕はそう思っていたのだが、今の惨状に足がすくんでいた。
その時、近くの婦人が僕に声をかけた。
「ちょっと!そこのあなたけが人を運ぶのに手を貸して!」
僕は急に言われてびっくりしたが、そのお陰で無意識に手を貸すことができた。
けが人は、顔や腕、そして足に大きな擦り傷を負っていた。
足を強く打ったようで一人で歩くことができなかった。
「とりあえず、救急車が来るまで安全な場所に移動させるよ!」
そう言って婦人は、僕にテキパキと指示をした。
僕はけが人に肩を貸し、歩道の広いところまで移動させた。
「あんた!けが人の上着を脱がして、呼吸がしやすいように胸元とベルトを緩くして!
靴も脱がしてあげて!私は、次のけが人のところに行ってるから終わったら私のところに来て!」
「あ!はい!」
僕が返事をすると、婦人は颯爽と次のけが人の所に走って行った。
僕は何かを考える間もなく、指示通りに動いていた。
やることをやり次のけが人の所に行こうとしたが
けが人は足を痛みを訴えていた。
僕は、痛みを訴えている足を見ると
赤く、場所によっては紫色にパンパンに膨れ上がってた。
僕は、自分の手を見つめた。
(助けてあげないと。僕の力はその為にあるのじゃないか?
でも、今力を使えばみんなにばれてしまわないか?
そうなったら僕はどうなる?)
僕は、周りの様子を伺った。
人はたくさんいるがほとんどが横断歩道の事故現場と
加害者と思われる車が突っ込んだ場所に注目が集まっていて
退避している僕らには関心がなかった。
僕は考えた。
(完全に治してあげたいけど、治したらまたちさとちゃんの時みたいに
大騒ぎになってします。今は、力の調整ができてきたから根本的なところは
治してあげて外傷はなるべくそのまま残しておくイメージでやってみよう。)
そう決めた僕は、手を膨れ上がった足に触れ、イメージしながら念を込めた。
その瞬間、陽だまりの光が僕の右手を包み込んだ。
「あ!」
僕は焦って、一度力を使うことをやめた。
(不自然に手が光ってしまって、これだと周囲にばれてしまう…どうしよう)
僕が迷っていた時に目にけが人から脱がせた上着が目に付いた。
先ほど、息が楽にできるように脱がせて、腹部分にかけておいたものだ。
(そうか!上着で手を覆って隠すようにやればいいのか!)
僕はすぐに実行に移した。
上着を、痛みのひどそうな足に掛け、上着の下に手を入れ
先ほどと同じように念じた。
陽だまりの光が上着の下から少し漏れたが、周囲に気付くほどのものでもなかった。
けが人は、痛みによるうめき声をあげなくなった。
痛みが引いて安堵したのか、けが人は気絶するように眠りに入っていった。
けが人の、安らかな寝顔を確認した僕は、上着を再度胸の所に掛けてあげた。
「…良かった。」
僕は素直に嬉しく感じた。
足を見ると、先ほどよりは幾分腫れと赤みは消えているが
見た目は明らかに打撲か骨折のような腫れ方をしているままだった。
「大丈夫だよな…」
僕は少し不安になったが、眠れるくらい痛みが引いたのなら大丈夫だろうと思い
すぐさま立ち上がった。
(よし!できる限りみんな『手当て』するぞ!)
そう胸に思い、次のけが人のところまで走っていった。




