[帰りの電車]
評価、コメントがあったらうれしい。
[帰りの電車]
「ダイキ…あれはいったいどういうことなんだ?」
一宮仁は、僕との帰りの電車内で問いただしてきた。
「もうしわけない…」
「そうじゃない。本当にあれでよかったのか?」
「…いいんです。僕はあれでよかったと思っています。
仁さんにはわざわざ来てもらったのにもうしわけない…」
僕はつい何度もあやまってしまっていた。
「謝らなくていい。ただおまえさんの身を案じているだけだ。」
電車内は夜の11時を回っていることもあって、同じ車両いるのは数人だけだった。
「まあ、あのお嬢ちゃんなら大丈夫だと思うが…俺としても実際に会っておいて良かったよ。」
そう言って仁さんは笑ってくれた。
「ただ…」
ん?僕はその先が気になり仁さんに顔を向けた。
「ダイキ…おまえって意外にモテるんだな。ちょっとそこは腹が立つな。」
仁さんはニヤニヤして言った。
「モテないですって。今回はたまたまハルちゃんを助けたことでそうなっているだけで…」
「そうか?嬢ちゃん今日だけでお前に何回抱きついたことか…
会っただけで…これからも会えることを知っただけでおお泣きしていたぞ。」
僕は、今までの人生でこんなにも女性に好意をもたれたことがなかったので
悪い気がしないのは確かだった。
「でも、気をつけろよ…」
「何がです?」
「おまえ明日もデートじゃなかった?」
「!?」
僕は心底驚いた。
「まさか忘れていたなんてことないだろな?」
仁はあきれた顔で言った。
そういえば会社の後輩の前田雫とデートをする約束をしていたことを思い出した。
「…忘れてた。」
「それはさすがにマズいんじゃないか?俺は知らないけどよ。」
一宮仁は、他人事のように言った。
僕は、急いで携帯電話を取り出した。
今日は何かあると思ってずっとマナーモードにしていたのだ。
案の定、電話には何件も前田雫からのメールが入っていた。
「まいったなあ…」
僕は頭に手を当てた。
一宮仁はその横で苦笑していた。
「恋愛はおまえさんの自由だけどよ。女は気をつけろよ。
中途半端な態度をしていると好意が敵意になるからよ。
あのお嬢ちゃんはそうじゃないといいが、それはわからんよ。
俺は、人生が女で狂わされた仲間を何人も見てきている。
医者ってのはそういうのが多いんだよ…
だから俺は結婚しねえことにしてるだけどよ。」
「そんな怖いこと言わないでくださいよ…」
「俺はおおマジだ!」
仁が急に顔を近づけて言ってきたので
思わず上半身だけ後ずさりした。
仁さんはすぐに笑っていたが、本音だろうと僕は思った。
僕は気をつけないと自分に言い聞かせた。
…が、どうすればいいのかは恋愛経験のない自分にはよくわかっていなかった。
そんな僕を察してか仁さんが言ってきた。
「恋人は一人にしとけ…それだけだ。
今のおまえさんにその度胸があればの話だがな…」
僕は、この時仁さんが何を言うまいかは察していた。
公園で言っていた、もしこの力が世間に知れてしまった時、
この力を利用したいが為に身近な人が犠牲になりうる可能性もあるということを…
はあああ。
僕は大きくため息をついた。
「それにしてもあのお嬢ちゃんの親父さんもやるもんだな。」
仁さんが僕の重い空気を察してくれたのかどうかわからないが話題を変えてくれた。
「お前さんと娘を会わせる為に、会社の未来を交渉条件に出すとはね…」
実はあの公園の帰りの際、ハルちゃんとその話をしたのだった。
ただ、ハルちゃんは確かに僕に会いたいことを父親にお願いしたが
そんな大それた条件を出していることは知らなかった。
ハルちゃんはそんな父の強い思を知り、何を思ったのかわからなかったが
言葉にはできない何かを感じ取ったのかもしれないと感じた。
「これで、ダイキは会社での評判もうなぎのぼりだな。よかったな。」
僕はこれはこれで何か怖い気がしていた。
神妙な顔つきをしていた僕に対して仁さんは続けて言った。
「今のおまえさんのままなら大丈夫だ。胸を張っていけ。」
「あんまり目立ちたくないんだけな…」
僕がボソッと呟いた。
それをきいた一宮仁は大笑いしていた。
数人いる乗客の視線が一瞬こっちに集まっていた。
「みんなおまえさんみたいな奴が医者だったら
世の中の患者はもっと救われているだろうな。」
…
…
先に仁さんが降りる駅に着いた。
一宮仁は、重い腰をあげた。
「さすがに年で腰が痛くなってきたな。」
そうボヤキながら、腰を摩り出口のドアに向かっていった。
僕は席を立ち仁さんを出口ドアで見送ろうした。
「べつにわざわざ来なくていいぞ。」
仁さんはあきれた顔をしていた。
「今日はありがとうございました。」
「おう!こっちもご馳走になったな。
また何かあったら連絡してくれ。」
僕は軽く頷いた。
「じゃあまたな!」
そう言って一宮仁は電車を降りはじめた。
僕はそんな仁さん腰に手をやり、気持ちを込めた。
ほんのわずか陽だまりの光が手から出たが
数人の乗客はもちろん一宮仁も気付いていなかった。
ドアが閉まり、電車が走りだした。
一宮仁は、電車がホームから走り抜けるのを見届けてから歩き出した。
「!?」
一宮仁は腰にほのかに暖かみを感じた。
同時に、腰の痛みがまったくなくなっていた。
一宮仁は、走り去った電車の方を向いた。
「あいつめやりやがったな…」
そう言って笑顔で歩き出した。
なんとも言えない幸福感が一宮仁を包み込んでいた。




